57 隣へどうぞ
「さぁ……会話も弾んだ処ですし、リナ。氷菓子を作りましょうか」
マイペースなのか、己の欲求に忠実過ぎるのかシュゼル皇子は、ポンと手を叩いて、莉奈を氷菓子作りに誘う。
「…………」
弾んでましたかね?
シュゼル皇子の、マイペース過ぎる言動に呆れ動けない。
「……リナ?」
ほのほの微笑み声を掛ける。
作るまで、帰らない感じですか……。
「シュゼル殿下」
「……はい」
「アイス……氷菓子を作る前に、やる事があると思うのですが?」
「……なんでしょう?」
「まず、皆さんに……起立の許可を」
ずっと、皆は膝を折ったままである。莉奈は、膝を折るタイミングを逃したので立ってはいるが、このまま皆を放りっぱなしには出来ない。
「陛下? 宜しいですか?」
「宜しいも何も、コイツらの邪魔をしてるのはお前だろうが……許可する」
マイペースな弟に、イラっとしつつも許可を出したフェリクス王。皆は御礼を言いつつヨレヨレと立ち上がった。
「それで? 私達はどうすれば?」
すでに、フェリクス王……なんだったらイベール、タールまでも頭数に入っている様だ。
「隣の食堂へ移動して下さい」
と、莉奈は隣を手で示し促す。
「……え?」
予想外の言葉に、シュゼル皇子は首を傾げた。
「料理人の皆さんの、仕事の邪魔ですので隣へ」
この時間は料理人にとって戦場だ。邪魔をするなどもっての外だと、シュゼル皇子を隣接してある食堂へ行くよう促した。
「「「「「………………っ」」」」」
リック料理長達は、絶句した。
例え本当の事だとしても、シュゼル皇子を、ましてやフェリクス王に出て行けなど口が裂けても言えない。
「そうですね~。では、皆さん行きましょうか?」
氷菓子が食べられればそれでいいのか、莉奈の物言いに何も返さずのんびり微笑み、フェリクス王達を食堂へと誘う。
「……お前、ネコはどうした?」
フェリクス王は、シュゼル皇子の後を追い食堂へ向かう途中、莉奈の耳に面白そうに言った。
「脱走しました」
なんだったら、もう帰って来ないかもしれない。
「……くくっ……帰って来たらヨロシク伝えといてくれ」
フェリクス王は、愉快そうに一言いい、隣の食堂へ行った。