569 世間は狭い? はじめまして、ホーニン酒の人
「準備が出来ましたよ」
そう莉奈が言えば、蕩ける様にまったりしていたローレン補佐官達が、テーブルに集まって来た。
エギエディルス皇子は何故か、フェリクス王の左脇に抱えられていたけど。
想像するに、エギエディルス皇子は半日以上歩き続け、最後に足湯。本来なら疲れを癒す足湯だが、疲れが取れる前にドッと押し寄せ、ダウンしたのかもしれない。
もはや、兄王の手荷物みたいなエギエディルス皇子に、莉奈は思わず笑ってしまった。
「あら、イスが多くない?」
テーブルの上に載っている物についても、訊きたい事はあったが、まず気になったのはセッティングの数だ。
自分達の分だけなら、6人掛けのテーブル1卓でいいハズなのに、何故か2卓並べて置いてある。
イスとお皿なども数をザッと数えれば、やけに数が多い。アーシェスはあれ? と思ったのだ。
「せっかくだから、アーシェスさんのご友人達もご一緒にと」
公務が何日か分からなかった為、料理や食材などの準備は、万全過ぎるほどにある。
3人増えたところで、大して変わりはない。
なら、皆で楽しく食べた方がいいかなと、莉奈は考えたのだ。
「別に友人じゃないわよ」
一年に一回来るか来ないかの客だ。
友人と言えるほどの付き合いはないと、バッサリ切った。
「でも、お前の店に結構な金を落としてるだろう?」
「師匠の店よ。だから、私の懐には一切関係ないわね」
ヴァルタール皇国に来れば必ず、アーシェスがいる店で色々と買っているらしいが、再びバッサリ切られていた。
アーシェスの店ならともかく、あの店はバーツの店だ。
何をどう買っていくら使おうと、アーシェスの懐は大して潤わない。
「師匠っていえば、爺さん元気か?」
冒険者の彼がそう訊ねれば、アーシェスはポンと手を叩いた。
「元気も元気……あ、ランデル」
「何だよ?」
「そうよ。ランデル」
その様子からして、今やっと彼の名前を思い出した様である。
怪訝な様子のランデルをよそに、アーシェスは頭の隅に引っかかっていた名前が出てきてスッキリしたみたいだ。
「お前……ひょっとしなくても、今、俺の名前を思い出したのかよ!?」
話が噛み合っていたので、てっきり覚えているのかと思ったが、まったく違った。
ランデルは呆れ過ぎて、怒る気さえ起こらなかった様だ。
「年に数回来るか来ないかの客なんて、イチイチ覚えてないわよ」
顔だけでも覚えていただけ、ありがたいと思ってよねと、アーシェスはわざとらしくため息を吐いていた。
確かに、アーシェスのいる店には、数え切れないくらいの客が来る。しかも、ランデルは常連というほど、店に来ないのだ。派手な見た目のアーシェスとは違い、ランデルの見た目は普通の冒険者。
アーシェス個人の客でない限り、覚えているのは難しいだろう。
ランデルも、それもそうかと納得しかけた時、違うところから声が掛かった。
「あ、"ホーニン酒"」
「は?」
「ホーニン酒の人だ」
今度は、莉奈の食い物センサーに引っかかったのである。
以前、師匠バーツがホーニン酒をくれた時、その酒を持って来るヤツがいると言っていた。
莉奈の記憶が確かなら、その名前が"ランデル"である。
バーツの店に来る客で、ホーニン酒を持って来る冒険者。ランデルが他にいるか分からないが、莉奈はこの人がそのランデルでは? と思ったのだ。
「ホーニン酒の人?」
「あぁ! 以前、師匠が言っていた。確かに、ランデルとかって言っていたわね」
怪訝な表情をするランデルをよそに、アーシェスはピンときたのか、大きく頷いていた。
「何だよ。ホーニン酒の人って」
「師匠が前に、ホーニン酒を持って来るヤツがいるって、口にしていたのよ」
アーシェスは簡単に、以前ホーニン酒の話をした事をランデルに説明した。
王宮でのやり取りとは伏せて。
「あぁ、なるほど? やれば割り引いてくれるから、手土産に持っては行っていたが……何だよ。ホーニン酒の人って」
どういう覚え方だと、ランデルは苦笑いが漏れた。
そのちょっとゴツい、ホーニン酒のランデルを筆頭に、ひょろっとしているのがハービス。そして、細マッチョな女性がマリサだそうだ。
冒険者パーティは多々入れ替わりもある中、この3人は長年ずっとこのメンバーで、一度も変えてこなかったとか。さらに話を聞けば、同じ村出身の幼馴染らしい。
割と気が合うので、この先もこのメンバーだけで続ける予定だそうだ。
ちなみに、リーダーであるランデルの武器は主に斧。ハービスは剣。マリサは弓と剣。後、少しくらいなら、風魔法を使えるそうである。
「リナ。ここは家じゃないんだから、コイツらにタダ飯は食べさせちゃダメよ?」
「え?」
「貴重な食料を分けるんだから、お金か物々交換しないと」
席に座り始めたランデル達をチラッと見たアーシェスは、莉奈に軽く忠告した。
莉奈の家に尋ねて来た客ならともかく、ここは魔物がいる街外。
トイレは使ってもなくならないが、食料や薬は別。いくら食料が潤沢にあるからと、何でも無料で提供するのは良くないと教えてくれた。
「まぁ、確かに。だけど……俺達はもう飯は食ったから、気持ちだけもらっとく」
「あぁ、でも使わせてもらった足湯代と……」
「……使わせてもらうトイレ代は……こんなものかな?」
ゴソゴソと魔法鞄をあさりながら、ランデル達はチラリとテーブルを見た。
テーブルの上に用意してある物は、見た事のない物ばかりだ。
小皿に入った調味料らしきモノ。この小さな焼き台みたいな道具は、一体何に使うのか。
莉奈が魔法鞄から取り出す物は、何もかもが気になって仕方がない。
しかし、お金を払うとはいえ、さすがに夕食まで頂く訳にはいかない。
トイレや洗面所まで使わせてもらえるだけでなく、足湯まで浸からせてもらったのだ。お言葉に甘えるのにも、程があるだろうと遠慮したのである。
超が付くほど後ろ髪を引かれまくりながら、それぞれテーブルの上に銀貨を1枚置く。
そのお金を見て、莉奈は首を傾げた。
銀貨1枚……っていくらだっけ?
以前、リヨンの街に出掛けた後、この世界のお金の価値を教えてもらった。
それ以降はまったく使った事はないから、記憶は曖昧だ。
お金は色々、大きさや形が違う。
白金貨=10万で小判くらいの大ささだが、金貨と銀貨は500円くらいの大きさで、鉄貨は100円大、銅貨は50円大となっている。
ちなみに、形は金貨から二種類に増える。
丸い形の単位は1。
六角形の単位は5。
なので、丸い金貨は1万。六角形の金貨は5万となる。
白金貨=10万。
金貨=1万、5万。
銀貨=1000、5000。
鉄貨=100、500。
銅貨=1、5。
で、貰った銀貨は1枚。丸くないから単位は5。
大体5000円くらいの価値があるお金、という訳だ。
トイレと足湯だけで5000円。
この世界の金銭感覚がよく分からない莉奈でも、何だか貰い過ぎな気がした。だが、せっかくの好意を無下に返すよりはと、お茶とお菓子を出せば———
「「「ん?」」」
ランデル達が一斉に、その出したモノに目が釘付けになっていた。
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