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聖女じゃなかったので、王宮でのんびりご飯を作ることにしました  作者: 神山 りお


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541 喜ぶ者とガッカリする者



「あ、時計塔が見えてきた」

 魔物とは一向に遭遇する事もなく、ただただ長かっただけの散策時間に終わりが見えた。

 徒歩の移動だから、まだそれなりに距離はありそうだが、目的地が目視出来ると、気分がちょっと上がる。少しだけ早歩きになる莉奈だった。

 だが、皆が皆、テンションが上がっている訳ではない様だ。

「え〜、もう着いちゃうの?」

「着いちゃうのって、お前」

 旅中はもちろんだが、魔物襲来で冒険者がいなくなってしまった昨夜は、あれだけ怖い思いをして過ごしたのに、チャーリーはそんな事などスッカリ忘れたのか、至極残念そうな声を上げていた。

 魔物の森からやっと出られるんだぞ? と思うダンだったが、チャーリーがションボリと肩を落としている姿を見ると、苦笑いすら出ない。

 怖かった出来事を上書きする程、このパーティとの旅が楽しかったのだろう。



「ダンさん達は本来、シュテームに行く予定だったんですよね?」

「え、あぁそうですね」

「なら、しばらくゴルゼンギルに滞在してから、シュテームに?」

「そうなりますね」

 ローレン補佐官に話しかけられていたダンは、落胆するチャーリーの姿をチラ見しつつ、「旅費に余裕がないですし」と恥ずかしそうに頭を掻いた。

 シュテームに行く賃金は前払いだった上に、冒険者は逃げてしまった。故に支払ったお金は返って来ない。再び旅費を捻出する程、彼の懐に余裕はなかったのだ。

 どこかで働きつつ、本来のシュテームに行くかどうか考えるみたいだった。

 ローレンは散々な目に遭ったダン親子に、何とも言えない表情が漏れた。これから大変だと、容易に想像出来たからだ。

「私は別に、このままゴルゼンギルでも構わないんですが……チャーリーには見知った土地の方がイイかなと」

「なるほど」

 何度か行った事のある場所の方が、息子的には良いだろうとダンは考えている様だった。

「僕はリヨンに行きたかったけど〜」

「え」

「リヨンに行きたかった」

「……」

 ローレンとダンの会話を聞いていたチャーリーが、石を蹴りながら呟く様に口にした。

 王都リヨンに行きたかったとは知らなかったダンは、驚きを隠せなかった。何故なら、そんな話は初めて聞いたからだ。

 その言葉を聞いてダンは思った。家を出て行く時も、泣き言一つ言わずに付いて来てくれたチャーリーだったが、ひょっとしなくても友達との別れは勿論、母や祖父母の別れも本当は辛かったのでは? と考えてしまった。



「お前……リ、リヨンに行きたかったのか!?」

「うん」

「うんって、そんな事ひと言も……」

 ブルガを出てどこへ行くか聞かれた時、シュテームだと言っても何も言わなかった。だから、てっきり異論はないのだと思っていた。

「なんで、リヨンに行きたかったのかな?」

 息子の本音を知り、愕然としているダンを横目に、ローレンが理由を訊いていた。

「竜がいるから!」

「竜が好きなんだ?」

「うん!! だってカッコイイんだもん」

 そう言って満面の笑みを浮かべたチャーリー。

 ヴァルタール皇国で育った子供ならではの理由だった。




「王都、王都リヨンか……連れて行ってやりたいが」

 ダンは、息子の願いをどうにか叶えてやりたいなと思考していたが、シュテーム以上にそこまでの交通費はもちろん、滞在費も高額である。

 それが、さらに住むとなれば、相当な稼ぎがないと生活出来ない。息子には迷惑を掛けたし叶えられる事なら叶えてやりたい。だが、住む場所さえ決まっていないのだ。どう考えても願いなど叶えてやれないと、唸っていた。




「あの骨董品って、そんなにお金にはならない感じですか?」

 骨董品が多少お金になれば、先が少しは明るいハズ。

 唸るダンを横目に、フェリクス王に訊いてみた。

 始めは隣りにいたエギエディルス皇子に訊こうとした莉奈だったが、骨董品に詳しくなさそうだなと、勝手に判断してフェリクス王にコッソリ訊いたのだ。

 シュゼル皇子の方が詳しそうだが……いないのだから仕方がない。

「金になる、ならない以前に、ゴルゼンギルでも売れねぇよ」

 フェリクス王曰く、冒険者の街と言われているブルガよりもと云う程度で、ゴルゼンギルでもほとんど売れないらしい。

 国境の街であるゴルゼンギルは、裕福な者がいても一部の貴族を除けば、骨董品にほとんど金をかけない。

 どちらかと言えば、魔物の素材を使った装飾品の方が人気で、美術品的な骨董品は不人気らしい。

 何故なら、美術品は財力をひけらかすだけの物だが、魔物素材を使った装飾品は、魔物を倒す"武力"と"財力"があるのだと誇示出来るからだ。

 国境の街は、財力だけより武力も兼ね備えている者が羨まれる様である。

 

 

 骨董品に需要があるのは、商人が多くいたり富裕層がいる街。

 となると必然的に、魔物の防衛がしっかりしている大きな街とかになる。

 魔王城……もとい、王城から離れた街であればある程、強い魔物が蔓延っているらしく、冒険者を雇ったりと、大抵は自衛のためにお金を掛ける事が多いそうだ。



「なら、王都どころかシュテームにもすぐには行けないんじゃ」

 そんな余力が、ダン親子にあるとは思えない。

 あの指輪を売ればリヨンはともかく、シュテームには行けそうだが、チャーリーが手離す訳がない。

 アレ?

 父ダンが踏ん張りを見せないと、親子で路頭に迷う可能性すらあるのか?

 莉奈はブツブツと口から漏れてしまっていた。

 生活しながら、一からシュテームに行く費用を貯めなければならない。

 そもそも、住む場所や仕事を探す所からだから、0からスタートではなくマイナスからである。しっかりしている様で抜けているダンが、少し心配になっていた莉奈なのであった。









サウナみたいな暑さが続いておりますが、皆様、熱中症にはお気を付けて下さいませ。( ・∇・)アチィ


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