54 誰か~!!
しばらくして、シュゼル皇子が一人伴って優雅に戻ってきた。
「連れて来ましたよ」
と、実に満足気に微笑んでいる。
「「「………………………………っ!!!」」」
だが後ろに控えているその人物が見えた瞬間、皆、目玉が零れ落ちそうなくらい、目をカッ開き、口は顎が外れるのではないのかというくらい開けて固まった。
ーーーガッシャン!!
誰かが何かを落とした音が響いた。
ーーーザザザッ。
その音をきっかけに意識が戻ってきたのか、誰とは云わずバタバタと一斉に膝を折り始めた。
頭は深々と下げ、中には恐怖からなのか極度の緊張からなのか、カタカタと震えている者さえいた。失神する者がいないだけでも奇跡だ。
ココが厨房という場所でなかったら、皆、恭しく平伏していたに違いない。
「朝っぱらから、何の用だ。リナ?」
不機嫌丸出しの、フェリクス王がそこにはいらっしゃいました。
呼んでねぇよ!!
莉奈は、心の底からそう叫びたかった。
「…………」
朝にさっぱりと流したはずの汗が出はじめる。冷や汗、脂汗、なんだったら豚汁が身体中から流れていた。
「……オイ」
「…………」
「……オイ!」
突然の登場に、頭がついて来ない莉奈は、半ばフェリクス王をシカトしている状態だった。
「兄上、恫喝しては可哀想ですよ?」
ほのほの微笑み窘めるシュゼル皇子。
可哀想とか言うくらいなら、連れてくんなよ。
「……あの……すみませんが……何故、王……陛下が」
と、莉奈はおずおず口を開いた。ナニゆえにフェリクス王を連れて来たのかがまったくわからないのだ。
「だって、リナが言ったでしょ?」
「……えっ?」
連れて来いなんて言った覚えはありませんが?
「豪腕な人を連れて来いって」
シュゼル皇子は満面の笑みだ。
アホかーーーーーーー!!
相手が、宰相様でなければ、叫んでいたし殴っていたかもしれない。
アホだ。アホがいる。
莉奈は、許されるのなら白目を剥いて気絶したかった。
豪腕な人とは言ったけど、ナゼわざわざ王様をチョイスしますかね? 別に警備兵とか、そういう人で全然いいんですけど。
「この国、随一の豪腕ですよ?」
さも当然の様に、それはそれはいい笑顔で言ったシュゼル皇子。
「………………」
莉奈は、頭が痛くなってきた。随一である必要などなかったのですが?
豪腕=フェリクス王
シュゼル皇子の頭には、その方程式しかないらしい。
いや、考えたくもないが……アイスクリームを早く作るためには、随一の豪腕が必要だと連れて来たのかもしれない。
「…………な?」
不意に莉奈の肩に、ポンと軽く手で叩かれた。
「……はぇ?」
呆れ過ぎて、力が出ずに変な声が出た。
「パンドラの……」
エギエディルス皇子は小さく、莉奈だけに聞こえる様に言った。
あぁ!! 箱!!
パンドラの箱か!!
…………え~~? こんなに早く、恐怖が訪れます?
と、いうか……アレあんまり覚えてないんですけど。
"箱" を開けた人って、生きてましたっけ!?
希望はちゃんとありました?
私、大丈夫なの?
誰か助けて~!!
目には見えませんか、誰かが読んでくれている……なんか、しあわせだなと感じた今日この頃でした。
読んでくれてありがとうございます。
ブックマーク、評価、そして誤字脱字報告。
見てくれているんだな……と、ほっこりします。