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聖女じゃなかったので、王宮でのんびりご飯を作ることにしました  作者: 神山 りお


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526 なるほど? そう来ますか



「なんか甘い香りがしない?」

 しばらく歩いていると莉奈の鼻先に、甘い香りがふわりと香ってきた。

 花の香りというより、苺に似た甘い香りだ。莉奈は鼻をスンスンさせ、その匂いの元を探していた。

「お前、あんまりウロつくなよ」

「だって、何か美味しそうな匂いがするんだもん」

 エギエディルス皇子に注意されたのだが、気になるモノは気になるのだ。

 匂いのする方向へゆっくり足を運んでみると、草むらの中にポツンと赤い実を付けた植物を見つけた。

「何コレ?」

 それに葉らしい葉はなく、地面から緑色の茎だけがニョキッと生えていて、その先っぽに赤い実が付いていたのだ。その実の大きさは拳大の大きさがあるので、少し垂れ下がっているが、そこから甘いイイ匂いがしている。

 莉奈の知っている苺は、こんな生え方をしたり育ち方をしないけど、異世界の苺は、こうやって生えてくるのだろうか?

 莉奈が興味津々に近付いて見た瞬間ーー





 ーー足元の地面が、動いた。





「え??」

 地面からものスゴい速さで、左右から大きな葉が現れたのだ。

 それはまるで、そこに誘き寄せた莉奈を、ひと口で喰わんとばかりに、葉で挟み込もうとしている様だった。

 そう。この苺みたいなモノは、実は苺などではなく捕食するための()だったのである。何も知らない莉奈は、イイ匂いだなと寄り、まんまとハマったのだ。

 さすがの莉奈も、想定外で初動の判断が遅れてしまった。マズイと思い慌てて後方に逃げようとしたが、到底間に合いそうもない。





 ーーだが、莉奈がその葉に挟まれる事はなかった。





「お前みたいなアホが引っかかるのか」

 だが、代わりに莉奈の頭の上から、失笑が降って来た。

 どうやら喰われる前にフェリクス王が、莉奈を救ってくれた様である。素早く抱えられ、今は安全圏内に降ろされていた。

 そして、莉奈を捕まえ損ねた植物は、舌打ちみたいな音を出して、再び地面に消えていったのだった。




「今のは魔物ですか?」

 "アホ"と言われた事が、若干引っかかるものの、お礼を言ってから訊いた莉奈。

 突然過ぎて良く観察する暇はなかったが、莉奈を挟み込もうしていた植物は、ハエトリグサに似ていた気がする。ハエトリグサの葉の真ん中に、餌を付けた様な植物だった。

「いや、食虫植物の一種」

「え、食虫植物!?」

 魔物かと思っていたのに、まさかの食虫植物だった事に、莉奈は驚愕していた。

 莉奈にしたら、アレはどう考えても魔物にしか見えなかった。




 アレが植物とは、莉奈の頭は大混乱である。

 魔物の定義とは何だろうか?

「"魔物"と"植物"の違いが分からない」

 そう疑問の声を上げていたら、フェリクス王が笑って、目線で莉奈を促した。

 促された方向を見てみると、30メートルほど先の地面に、先程と同じく苺みたいなモノが付いた茎がニョキリと生えていたのだ。



「アレが"魔物"」

「え、なんか同じように見えますけど?」

「だから"鳥トリグサモドキ"」

「モドキ」

 なるほど?

 莉奈はモドキと言われ、改めて良く見ると何か違和感が。

 先程の"鳥トリグサ"とこの"モドキ"、色も香りも本物の苺ソックリだが、そこに生えている魔物のモドキは色もマダラで形も歪、しかも匂いはほとんど香ってこない。プロとアマチュアくらいの差がある。

 本家を真似た魔物。だから、モドキなのだろうが、魔物なのにクオリティーが低く過ぎて笑える。どうせ真似るなら、もう少し頑張って欲しいと思う。



「他は何が違うんですか?」

 擬似餌のクオリティー以外の違いが、莉奈にはまったく分からない。

 世界には他種に似せた生き物は多くいるが、基本的に同じ系列の生き物だ。だが、コレは魔物と植物という決定的な違いがある。その違いとは?

 莉奈の質問に対しフェリクス王は不敵に笑うと、足元に落ちていた小石を、軽く足で蹴り上げ右手に持った。



「エディ」

「マジかよ」

 エギエディルス皇子はその行動だけで、兄王がこれから何をしようとしているのか理解したのか、少し焦った様子で帯剣していた剣を抜いて構えた。

 それに倣って、ローレン補佐官も剣を構えようとしたが、フェリクス王に左手で制されていた。



 エギエディルス皇子1人にやらせると言う事らしい。

 アーシェスは良からぬ事態が起きると察し、こちらも慌ててローレン補佐官の後ろに回っていた。





 ーーピン!





 何をするのかと莉奈が黙って見ていると、フェリクス王は拾った小石を、コインみたいに軽く指で弾いた。

 軽く弾いただけの小石は、ものスゴいスピードで一直線に、鳥トリグサモドキの擬似餌に飛んで行ったのだった。




 ーーパシュ!!




 フェリクス王にかかれば、小石でも凶器になるらしい。

 鳥トリグサモドキの擬似餌に寸分狂わず命中すると、擬似餌はビックリするくらいに簡単に弾け飛び、小石と共に奥の草むらへと消えたのであった。

「ギョェェェーーッ!?」

 その代わりに、聞いた事のないような叫び声を上げながら、地面から姿を現したのは魔物だった。

 何事かと辺りをキョロキョロすると、目かセンサーでも付いているのか、こちらの存在に気付き、ピタリと動きを止めた。

 相手が魔物だろうが植物だろうが、コレは莉奈にも分かる。憤怒のご様子だ。

 大口を開けて、莉奈みたいな餌が来るのを待っていたら、体の一部を弾き飛ばされたのだ。魔物でなくとも怒るだろう。




「来るぞ」

「分かってる」

 フェリクス王が面白そうに言えば、エギエディルス皇子が軽く腰を落として、臨戦態勢に入った。

 可愛いエギエディルス皇子は、アレと戦う気らしい。

 魔物とは距離がある。だから、莉奈はてっきり、エギエディルス皇子が魔物に向かうと、想像していた。




 ーーだが。





「えぇェーーッ!? そう来るのーー!?」

 フェリクス王がいる安心感からか、莉奈はその魔物の行動を見て、思わずツッコんでしまった。

 莉奈の想像的には植物の魔物だから、茎か木の根を触手のように長く伸ばして、攻撃してくるのかと思っていた。しかし、想像はあくまで想像で、まったく違った。

 魔物である鳥トリグサモドキは、木の根まで姿を現した途端、その根を器用に使って……走って来たのである。



 そう。まさに爆走。

 走って向かって来る植物は……実にシュールな姿だった。






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