52 帰らせて下さい
酷く重い足を、ラナ、モニカに挟まれる様に引きずられ、あっという間に厨房に着いてしまった。
「……帰りたい」
「バカ言ってないで、入るわよ?」
嫌がっている莉奈に苦笑いしつつ、ラナは厨房の扉を開けた。
「ああ、お待ちしてましたよ? リナ」
満面の笑みを浮かべた、シュゼル皇子がそこにいた。
「大変遅くなり申し訳ありません。」
とニコリと笑い、頭を深々と下げた莉奈。出来れば来たくはなかったんですけどね……と云う言葉はグッと飲み込んだ。
「「「………………」」」
エギエディルス皇子、ラナ、モニカは、莉奈のその変わり身に唖然半面、感心していた。あれだけイヤな雰囲気だったのに、シュゼル皇子の前できちんと切り替えたからだ。
「いいえ。こちらこそ、朝早くからお呼び立てしてしまって」
朝から、笑顔が眩しいシュゼル皇子。しかし、その周りにいる人達はなんだかゲッソリしている様に見える。
それもそうだろう、いつからいたのかは知らないが、宰相が朝からいらっしゃるのだから。
そして、シュゼル皇子の背後には、これまたゲッソリしている魔法省長官、まったく表情のない執事長がいた。
…………うわぁ。カオスだココ。
料理人達が、ゲッソリする訳だ。
朝の戦場とも云えるこの厨房に、"宰相" "氷の執事長" "魔法省長官" が揃い踏み。最悪である。
……やだ、ココ。帰りたい。
「……リナ」
「……はい」
「リナの、欲しがっていた "冷凍庫" 作りましたよ?」
シュゼル皇子は、冷凍庫のある一角を示してニッコリと微笑んだ。
…………は?
欲しがってた?
……オイ、ちょっと待ちやがれ!!
ナニゆえに私が、欲しがってた話になっちゃってんのよ!!酷い言いがかりだ!!
あったら便利とは言ったが、欲しいと言った覚えはな~~~い!!
「……エドくん?」
隣にいたエギエディルス皇子に、助けにも似た問いを投げ掛けた。なんで私が欲しいと言った話になってるのと。
「これがシュゼ兄なんだよ」
アハハと笑うと、ポンと莉奈の肩に手を置いた。
「………………」
何が、どういう事なのかな?
ちゃんと説明して欲しい……と思う莉奈だった。




