508 なんでも甘くしようとする
あけましておめでとうございます。
今年も1年よろしくお願いします。(๑╹ω╹๑ )
「炙りも旨い」
リヴァイアサンの炙りは好みに合ったらしく、フェリクス王はホーニン酒と一緒に愉しんでいた。
莉奈に出会わなければ、リヴァイアサンを倒す事はあっても食う選択肢はなかっただろう。そう考えると感慨深かった様だ。
「炙ると、ほどよく脂が落ちるんですね」
リヴァイアサンの炙りが気になったシュゼル皇子は、フェリクス王と同じ物を莉奈に要求していたのだ。
その様子を見たエギエディルス皇子は、ゲンナリしている。
「気持ち悪ぃ」
ボソリと呟きが漏れていた。
ちなみにエギエディルス皇子の呟きは、薄青いリヴァイアサンの炙りに対してではない。
何故ならエギエディルス皇子の視線は、リヴァイアサンの炙りがのる皿ではなく、シュゼル皇子。同じ物を食べているフェリクス王は一切見ていないのだ。
では、何故、エギエディルス皇子は次兄を見てゲンナリしているのか。
おそらく、その食べ方だろうと推測する。
いくらリヴァイアサンが生臭みが少ないとはいえ、魚である以上特有の香りや臭みはある。なのに、彼は甘いモノを口にしたりリヴァイアサンを口にしたりと、交互に楽しんでいるのだ。まるで、リヴァイアサンを肴にパンケーキを愉しんでいる感じだ。
食の好みは人それぞれだとは思う……思うけどである。
デザートは食後。あるいは、単品で食べるモノではないのかな?
副菜を食べて主食を食べるのとは全く別だと、莉奈は思うのだ。
ーーしかし。
シュゼル皇子の考えでは、デザートは食後ではないらしい。
もはやおかずの一品。生魚と交互に食べていたら、せっかくのデザートが一気に魚臭くなりそうだと、莉奈もエギエディルス皇子も眉根を寄せていたのだ。
「ん? このリヴァイアサンに粉糖をかけたらーーったぁい!」
シュゼル皇子のその呟きに、最近良く飛ぶようになった小さなスプーンが、超高速で飛んで来たのは言うまでもない。
刺身に粉糖だなんて、見た目はオシャレかもしれないが……気持ちが悪い。
どうなるも何も、絶対こうなるでしょうと莉奈は苦笑いし、エギエディルス皇子は小さなため息を吐くのだった。
◇◇◇
ーー翌朝。
「眠い」
日が昇り始めた頃、莉奈はベッドから目を擦りつつ、むくりと起き上がった。
こちらに来てから、学校に行く必要はなくなった莉奈だが、昼まで寝ている事はほとんどない。
母親のようなラナ女官長が起こしに来てくれたり、エギエディルス皇子が頻繁に朝食を食べに来てくれるおかげだ。まぁたまに、竜がドスンとやってくるせいもある。
とにかく、誰も莉奈を放っておく事はなかった。
竜は何も考えていないとして、エギエディルス皇子は責任感から会いに来てくれるのだろう。まぁ"監視"も兼ねている気がするけど。
騒がしいのはイイ事だ。静かだと色々と考えちゃうしね。
「おはよう。リナ」
白竜宮の料理人達も、やっぱり朝は早い。
すでにパン作りは終え、朝食の最終準備に入っていた。
そうなのだ。莉奈は、いつもなら銀海宮の厨房へと向かうところだけど、今日はやる事があるので白竜宮に来たのだ。
「悪魔のパンの匂いがする」
厨房に入った途端に、ニンニクとバターの香りがふわりとした。
銀海宮を真似て、拡張したらしいパン造りスペースの作業台に、ニンニクバターをたっぷりと吸った焼き立ての悪魔のパンが、ズラリと並んでいる。
パンの焼けた香ばしい香りの中に、鼻を擽りまくるニンニクバターの香りが混じっていて腹ペコには堪らない。
「夜勤明け組には好評なんだよ。クリームパンも人気だな」
ジャムパンは苺が人気だと、白竜宮の料理人サイルが教えてくれた。
疲れた身体には、お腹を満たしてくれるパンが人気の様だ。体力勝負の警備兵には、カロリーなんて関係ないのだろう。
「あ、リナ」
「おはよう」
リック料理長とマテウス副料理長も珍しく、早朝から白竜宮に来ていた。
昨日の作業の続きは、昼くらいからだと言っておいたハズだけど……と不思議に思っていたら、リック料理長が銀海宮の厨房専用の魔法鞄から何かを取り出した。
拳より少し大きい、焼き立てのパンだった。
だが、今までのパンと見た目が明らかに違う。バゲットみたいに表面は固そうな感じではなく、食パンかバンズのような柔らかそうな感じだ。
手に持てば、莉奈が想像していた以上にふわふわのパンだった。
「「来て早々なんだが、食べてみてくれ」」
莉奈の意見が欲しいと、リック料理長とマテウス副料理長が示し合わせたように言ってきた。
自分達の研究成果を見て貰いたい様だ。
そんな2人に苦笑いしつつ、莉奈は新作のパンを少しだけちぎって口に入れた。
「ん?」
感触から違っていたが、口に入れるとさらに違いが分かる。
当初の石のようなパンは論外だとして、現在のパンと言えばバゲット。滅多に出ないが、少し固めのコッペパンもある。
だが、これはそれよりふかふか。ハンバーガー店で良く見かけるバンズの様だった。
「そっか。牛乳を入れたんだ」
小麦粉に水を入れて練るだけがパンではない。やり方は色々だ。
だが、この世界では水で小麦粉を練るのが主流だった。その製法に、2人は自らの手で革命を起こし始めていた。
アチラの世界から来た莉奈に訊けば簡単だっただろう。しかし、2人はなんでも訊くのではなく、試行錯誤して光を見出している。
莉奈は、その姿勢に感服するのであった。
「やっぱりバレたな」
「……という事は、牛乳を入れて作る製法はすでにあるんですね」
リック料理長とマテウス副料理長は、肩をすくめて笑っていた。
自分達が斬新なアイデアだと思った製法でも、莉奈に言わせれば斬新ではない。だが、2人はやっぱりなと落胆するよりも、自らの手で正解を導き出せた事に少し満足感があったのである。
「乳製品はパンとの相性は抜群なんだよ」
特にパンをふかふか柔らかくするには、砂糖同様に乳製品は必須だ。
高価なパンには、生クリームやバターをふんだんに使っているからね。
「「なるほど、乳製品か!!」」
「なら、生クリームやバター」
「ヨーグルト」
莉奈の言った言葉に、2人はさらにヤル気に満ちていた。
同じ水分ならと、たまたま目に入った牛乳を選んだが、生クリームやヨーグルトでも良かったのかと顔を見合わせた。
まだ今日は始まったばかりでやる事は山程ある。だが、2人は早く試したくてウズウズするのであった。




