506 生暖かい目
「あ、ニンニク醤油って言えば、醤油は擦り下ろしたニンニクを入れるとガツンとくるけど、醤油にニンニクを浸けておくと柔らかなニンニク風味の醤油になるよ?」
「醤油にニンニクを浸けるのか?」
「うん。皮を剥いた生のニンニクを、丸ごと醤油を入れた瓶にドバドバとたくさん入れて浸けておくの。10日くらい経つと香りが付いてくる」
「なるほど、風味を移すのか」
「だね。そうすると、生の擦り下ろしみたいにニンニクが主張し過ぎず、ふんわりまろやかになる。ちなみに、そのニンニク醤油は、ニンニクや醤油を継ぎ足し継ぎ足しで使えるし、醤油に浸かって黒くなったニンニクは微塵切りにして、チャーハンに入れたり野菜炒めに入れたりすると堪らない」
殺菌作用のあるニンニクと塩分がある醤油で、継ぎ足しで使っても全く腐らないのだが……アッチの世界に置きっぱなしになっているから、さすがに腐ってしまったかな?
山椒の実を漬けた山椒醤油もあったけど、アレもどうなったのだろうと、莉奈はアッチの世界を思い出していた。
「「「チャーハン」」」
新たな料理名に、皆は興味津々だ。
だが莉奈は、さすがに糠漬けは腐っただろうなと、ため息を吐いていたのだった。
◇◇◇
「表面を炙るとまた、味がガラッと変わるんだな」
「生魚が苦手だから、こっちの方が私は好きかな」
「そうか? 俺は断然、生。刺身って言うんだっけ? 刺身がイイ」
「旨ければどっちでもイイ」
「ライム醤油、サッパリしてイイな。ドレッシング代わりにかけても良さそう」
いつも通りに試食が始まると、他には何が合うかとか勉強会に発展していた。
リヴァイアサンの代わりに何がイイかとか、他に何に合うかとか楽しそうだ。
「「「あぁ〜酒が飲みたいっ!」」」
結局はお酒に繋がる訳だけど……。
「お前はお前で自由だよな」
マテウス副料理長が莉奈を見て呆れていた。
いつの間にか用意した白飯と一緒に、モグモグ食べていたからだ。
「刺身といったら、ご飯が欲しくなるんだもん」
皆が酒だ酒だと言うのが、莉奈は白飯に変わるだけ。醤油を弾くくらいに、脂ののったリヴァイアサンに白飯は最高だ。
ここに、玄米茶と糠漬けでもあれば、もう文句なし。
「確かに、パンよりはご飯だな」
リヴァイアサンのタタキを口にしたリック料理長も、白飯は理解出来ると大きく頷いていたのであった。
◇◇◇
「今日はカツだって聞いたけど?」
テーブルに並んだ夕食のメニューに、エギエディルス皇子が首を傾げていた。
白竜宮では、今日も明日もロックバードやボアランナーなどのカツが出るらしいが、王族のテーブルには並んでいない。
トンカツに合うソースが完成したらとなり、今日は急遽違うメニューに変わっていたのだった。グラスに水を注いでいた執事長のイベールが、変わった理由を説明していた。
「ちぇっ、口がカツになっていたのにな」
エギエディルス皇子の小さな口が、可愛く尖っていた。
メニューを聞いてしまったため、すでにお腹がそれを待ち構えていたのだろう。肉な気分だったのに、魚が出た時のガッカリ感は半端がない。
まぁ、代わりの夕食は魚だけではなく、肉もしっかり出ているけど。
「代わりと言ったら何だけど……食後のデザートにはふわっふわのパンケーキがあるよ?」
「「ふわっふわのパンケーキ」」
エギエディルス皇子に言ったつもりだったけど、シュゼル皇子も釣れた。
キラキラと瞳を輝かせて、今ある夕食を急いで食べ始めていた。莉奈が夕食をしっかり食べないと、デザートを出さないのを分かっているらしい。
なので、デザートをいち早く食べたいシュゼル皇子はせっせと、しかしお上品かつスピーディーに、お皿にのった夕食を次々と平らげていたのだった。
「「……」」
フェリクス王とエギエディルス皇子は、それを生暖かい目で見ていた。
病弱だった兄弟が、やっと食事を摂れるようになったのなら"温かい目"を向けていたかもしれない。
だが、彼は事情が違う。食べたくないから食べなかっただけなのだ。
そして、おそらく莉奈がいなかったら、今もなおポーションドリンカーだったかもしれない。そのシュゼル皇子が、食後のデザートのためだけに食事を摂っているのだ。
それが、なんとも複雑な心境にさせていたのである。
「ふぅ。ごちそうさまでした」
食事をしただけなのに、まるでひと仕事終えたみたいに、シュゼル皇子は深いため息を吐いていた。
彼にとって食事とは、デザートを食べる前の大仕事なのだろう。
「……え? あ、はい。デザートですよね」
食事を終えたシュゼル皇子の仔犬のような強請る視線に、莉奈は苦笑いが漏れていた。
柔らかい物腰なのに、フェリクス王とは違う圧があって笑うしかない。
体調不良のため、執筆出来ておりません。_:(´ཀ`」 ∠):
月曜日までお待ち下さいませ。




