491 ストローの代わりが欲しい
ならばこれから、就寝前にはフェリクス王のいる宮に向かって、一礼でもしようかな?
莉奈がそう思ったのはここだけの話である。
「さて、コレは美味しいのかな」
そんな事より今はコレである。
莉奈の言うコレとは、当然スライムの砂糖水浸けだ。
何事もまずは味見だ。莉奈は長いスプーンで瓶の黒スライムを掬い取った。
本気で口にする気かという視線が、莉奈の身体に突き刺さるが気にしない。そのままパクリと口に入れた。
「ん?」
この鼻に抜ける独特の風味と甘さ、お餅に似たモチモチとした食感。
やはり鑑定通り、味は紛れもなく黒糖タピオカである。スライムだと気にしなければ美味しく食べられる。
「お、美味しいのか?」
本当に食べたよとザワつく中、マテウス副料理長が戸惑いながらも訊いてきた。
自分が食べるか食べないかは別として、どうなのかは気になるらしい。
「ほい」
気になるなら自分の口で確かめろと、莉奈は小皿に黒スライムの砂糖水浸けを差し出した。
「……」
途端に、頬を引き攣らせて半歩下がるマテウス副料理長。
莉奈が目の前で味見したにも関わらず、口にしたくない様だった。
莉奈は呆れつつ細長いグラスに、この砂糖水浸けの黒スライムを入れ、キンキンに冷えたミルクティーを注いだ。
こうなると、莉奈の知る黒糖タピオカ入りミルクティーにしか見えない。
……がストローが欲しい。
味は同じだとしても、スプーンで掬って食べるのは何か違う。莉奈はキョロキョロしては、棚をガサガサとあさり始めていた。
「何してんだ?」
「穴の空いたモノを探してる」
ストローと言った所で、伝わるかなと思った莉奈の口から出たのは……超アバウトな説明だった。
「「「穴の空いたモノ」」」
ザックリ過ぎて、皆の頭にはハテナしか浮かばない。
何故、そんなモノを探すのかも分からない。だが、何かに使うのだろうと皆も探してあげようと周りを見ていると、愉快な声が一つ。
「なら、あたしの服は? ホラ。脇に穴が空いてるよ〜?」
リリアンが元気良く、右手を挙げていた。
おそらく何かに引っ掛けたのだろう。その右脇には、五百円玉くらいの穴がポッカリと空いていた。
何故そんな所に穴が空くのかと、莉奈がマジマジ見ていればーー
「「「着替えて来い!!」」」
速攻で皆に怒られたリリアンだった。
「何だコレ」
そんなリリアンを横目に、莉奈は棚にあった長細い瓶を見つけた。
中を覗いて見れば、フキみたいなモノが透明な液体にヒタヒタに浸かっている。
「あぁ、それは"ルバーバル"の塩漬けだよ」
「ルバーバル?」
「リナくらいの身長に伸びる野菜で、葉は食べないけど茎は、主にスープに入れたりサラダに使ったりする事が多い」
「ふ〜ん?」
「そのままだと灰汁やエグ味がスゴいから、塩水で浸けてあるんだよ」
言われてみれば、スープに入っていた事もあったかもしれない。
灰汁抜きの為に、塩水に浸けておくのが一般的だと、リック料理長が教えてくれた。
このルバーバルとかいう野菜は、葉ではなく茎の部分を食べるとか。フキに似た茎は、親指より太く真ん中は空洞だ。
元の色は知らないが、コレは塩水に浸けているおかげか、鮮やかな紫色をしていた。
莉奈はそれを一本取り出し軽く水で洗うと、1cm程包丁で切って口に入れてみた。
塩漬けというだけあって塩っぱいが、水を求める程ではなく良い塩梅だ。見た目や食感だけならフキだが、味はフキというよりウドっぽい。
もう少し水で洗えば、塩気もほんのり程度になるだろう。
「それで何か作るのか?」
莉奈が、ルバーバルを水で良く洗い始めたので、リック料理長が目を輝かせていた。
莉奈が新しい料理を作るを見るのは、スゴくワクワクして楽しいからである。
「え」
だが、調理するのかと思ったら、さっき作った黒スライム入りミルクティーのグラスに、そのルバーバルをプスリと挿したのだ。
リック料理長だけでなく、皆唖然であった。
「ほうどイイ」
莉奈はルバーバルを咥え、黒スライムミルクティーを啜った。
ルバーバルの大きな穴はストローみたいで、口にスポスポと黒スライムが入ってくる。スプーンで掬うより遥かにイイ感じだ。
黒糖タピオカ店もビックリなくらいに、ストローの役目をしてくれる。オマケに塩気が欲しくなったら、このルバーバルを食べればいいのだ。
ゴミが出ないなんて、エコなストローではないか。
「「「……」」」
そんな斬新な使い方をする莉奈に、一同絶句であった。
後にも先にも、そのルバーバルの空洞を使って何かを飲もうという発想は、莉奈しか思い付かないだろう。
斬新を通り越し、唖然である。
「美味しいの?」
コックコートの右脇に穴が空いているリリアンが、興味深そうに莉奈を見ていた。
「ほい」
莉奈は今作った黒スライムミルクティーのグラスに、ルバーバルを挿してリリアンに渡した。
リリアンがルバーバルをクルクルと回せば、ミルクティーのグラスの底に沈んだ黒糖タピオカならぬ黒スライムが、グラスの中を回遊する。
その姿に、皆は頬が引き攣っていた。
「んっ!」
皆が注目する中、怖いモノ知らずのリリアンはルバーバルに口をつけ、莉奈の言った通りに啜ってみた。
甘いミルクティーと一緒に、黒スライムがスポスポと口に入ってくる。その感覚にリリアンは、目を見張っていた。
何故なら、ストローも初めてなら、スポスポと口に何か入る感覚も初めてだったからだ。
「あはははっ!! 何コレ。面白楽しいし、超美味しい!!」
初めてロックバードを食べた時みたいに、あまりの衝撃にリリアンは壊れた。
この間食べたいももちみたいに、モチモチする食感が楽しくて、笑っていたのである。
「何で〜? その辺にいるスライムが美味しいんですけど〜!?」
莉奈に似て、彼女には黒スライムなど怖くないのか、ルバーバルでスポスポと吸っては、モグモグとしっかり噛みしめ笑っていた。
初めてのスライムに初めてのストロー、初めて尽くしで面白楽しい様である。
「あはは、ルバーバルにスライムが詰まってるんですけど〜」
ストロー代わりのルバーバルに、少し大きかった黒スライムが詰まったのだが、それすらも楽しいらしい。
最後はルバーバルも食べて、黒糖タピオカ風ミルクティーをキレイに完食したのであった。




