49 ジャム
「……お~い?無視するとかねぇから」
エギエディルス皇子が、呆れつつ突っ込んだ。仮にも皇子の問いかけを無視とかあり得ない話である。
「ホホホ……。なんの事でしょうかね?」
一応誤魔化してみる。
「ジャムってなんだ?」
まぁ、誤魔化せるなんて思ってなかったけど。
「簡単に言うと、フルーツをたっぷりの砂糖で煮た物」
「……お、美味しいの?」
と、訊きつつ生唾をゴクンとしたモニカ。生唾飲んでいるあたり訊く意味あるのかなと思わなくもない。
「さぁ?ジャムだけで食べないし。好みにもよるんじゃないの?」
結局、食べ物は好みだ。一方が美味しいと思って薦めても、その人の口に合わない事もある。甘いのが好きでもその中で、色々分かれたりする。
和菓子派だったり洋菓子派だったり、アンコは好きでもずんだ餅はダメ。生クリームはいいけどバタークリームはダメとか、甘い物が好きだからといって、甘いのが全部好きな訳でもない。
「はーい! 食べてみたいで~す」
遠慮をどこかに捨ててしまったモニカが手を挙げた。
「聞いてなかったの?」
「……? なにが?」
「ジャム作るのに、砂糖アホみたいに使うんだけど?」
「………………」
莉奈に言われて、やっと気が付いたのか黙り込んだ。
そう、ジャムはこの世界で貴重な砂糖をふんだんに使う。もしも作ったとしても、自分の口に入るか分からない。
「そんなに使うの?」
ラナが訊いた。見た事がないなら、どのくらい使うかなど想像もつかないだろう。
「果物にもよるけど、砂糖で煮るから1キロなんてすぐなくなるよ?」
甘くなくていいなら別だけど、甘くないのなんてジャムではないし。
「…………そんなにか……」
ククベリーを食べながら、エギエディルス皇子が呟いた。単位で言われてある程度、想像出来たようだ。
「でも、作っちゃおっか? シュゼル殿下は絶対好きだろうし、その中で一瓶二瓶貰って欲しい人に……」
「「欲しいです!!」」
ラナ、モニカが手を挙げた。もはや莉奈の作る物=美味しい物、という構図が出来ている様だ。
「欲しいはいいけど……難しいんじゃない? 厨房に人いるし」
人気がないなんて事がない場所だ。だからといって夜な夜な作っていたら警備兵に怪しまれるし、莉奈のいる離宮でって考えもある。だが、アンナ辺りに見つかったら騒がれ、結局大変な事になりそうだ。
「なんとかならないかな?」
どうしても欲しいのか、唸る様に首を捻ってるモニカ。
モニカさんや……食い意地が滲み出てますけど?
あなた、そんな人でしたっけ?
「まぁ、モニカ達にやるかどうかは置いといて、作ればいいんじゃね? シュゼ兄に何個かあげて、後はリナがどうするか決めれば」
エギエディルス皇子が、紅茶を飲みながら言った。
エドくんや? それって俗に云うとこの "丸投げ" ってヤツじゃないかな……?
残りの行方を私に決めさせるって、ハイエナの群れに放り込むのと一緒ですが?
ク・ソ・皇・子。
「リナ様? 肩をお揉みしましょうか?」
モニカがニコニコしながら言った。
まだ何もしてない彼女の手が、莉奈にはゴマをすっている様にしか見えない。