表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖女じゃなかったので、王宮でのんびりご飯を作ることにしました  作者: 神山 りお


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

488/665

488 女の子らしくしてみた



 癒しのエギエディルス皇子だった。

「やだなぁ、タピオカですよぉ」

「語尾を伸ばすんじゃねぇよ。バカっぽい」

 たまには可愛らしくしようかなと、とりあえず語尾を伸ばしてみたのだが、エギエディルス皇子には大不評であった。

 確かに、語尾を伸ばすと頭がお花畑な感じはするよね。しかもイラッとするから不思議。

「え〜、エギエディルス様ったらぁ、ひどぉ〜い」

 莉奈は胸の前で手を握り小首も傾げ、莉奈の中で想像する"あざとい"口調と仕草で言ってみた。

 後は、相手の腕に胸でも押し付けたりすれば、小説や漫画だと大抵の王子や貴族の坊ちゃんは、ビックリするくらい簡単にコロッといく。

 莉奈は、アホらしくてそこまではやれないけど。




「お前、スライム食って、頭がイカれたんじゃねぇか?」

 頑張ってやってみたのだが、同じ王子でも、エギエディルス皇子には何一つヒットしなかった。

 むしろ、身をブルッと震わせ腕を高速で撫でていた。鳥肌がおさまらないらしい。

「エドは立派な皇子になりそうだね?」

「は? 意味が分からねぇ」

 変な事を言ったと思ったら、急に素に戻る莉奈。

 イカれたと言ったのに褒められたエギエディルス皇子は、ますますブルッと身を震わせていた。

 小説は小説だと思うけど、エギエディルス皇子にコレは効かない様だ。

 自分に対する扱いは酷いなと思いつつ、引っかからないエギエディルス皇子に莉奈は、少しだけ安心したのだった。

 ただ、他の令嬢がやったのならと、考えに至らないのが莉奈の悲しい所である。




「なんだかんだ、タピオカが気になってるんでしょ?」

 黒スライムなどを魔法鞄マジックバッグにしまった莉奈は、エギエディルス皇子の肩を突いてニヨついていた。

 あれだけ拒否していたが、実は気になるから来たのだと思ったのだ。

「気にならねぇよ。大体スライムなんか誰が食うんだよ」

「エド」

「不敬の極みだ。牢に入れてやる」

 莉奈とエギエディルス皇子の奇妙なやり取りに、アメリアが顔を青くさせていた。

 莉奈がエギエディルス皇子にする言動は今更だ。だが、話している内容がオカシイ。"スライム"と言っていたからだ。




「え、タピオ……え、スライム??」

 莉奈がタピオカだと言っていたのは、本当はスライムなのではと、気付いたらしい。

「あ、後で"タピオカ風ミルクティー"作ってあげるね? アメリア」

「"黒スライム入りミルクティー"の間違いだろ」

 莉奈がニッコリと笑う隣で、エギエディルス皇子が鼻で笑っていた。

 タピオカ? スライム?

 アメリアの頭の中は大混乱である。何が正解で不正解なのか分からない。

「スライム……」

「やだな、アメリア。タピオカ"風"ミルクティーだって」

「お前、偽証罪で捕まえるぞ?」

「だから、あくまでも"ふう"だって言ってんじゃん」

「詐欺師の常套句みたいな事、言ってんじゃねぇよ」

 なんでも"なになに風"にして誤魔化せば良い訳ではないと、エギエディルス皇子は呆れていた。

「……」

 スライムだタピオカ風だと、莉奈とエギエディルス皇子の異様な会話に、アメリアは唖然としていた。

 頭の中を整理してみると、どうやらさっきのは黒スライムであって、莉奈が勝手にタピオカだと口にしているだけの様だった。

 だから、タピオカ風であってタピオカではないのだろう。

 いつも答える莉奈が、疑問系で誤魔化し口を濁す訳である。




「リナは……スライムまで食べるのか」

 ロックバードは鳥系。ブラッドバッファローは牛系の端にはいる。

 だが、スライムはどこを遡ってもスライムである。

 獣系でない魔物まで食べる気でいる莉奈に、アメリアはもう何も返す言葉が見つからなかったのであった。





 ◇◇◇





「リナ。それは何?」

 どこに行っても何をしても、莉奈は注目の的である。

 瓶の中に用意した砂糖水に、乾燥させた黒スライムを入れていれば、誰とは言わずと声が掛かった。

「黒糖タピオカの素」

 あくまでもスライムだと言いたくない莉奈は、黒スライムをタピオカ風、あるいはタピオカの素と言う事にした。

「「「黒糖タピオカの素?」」」

 聞いた事もない食材に、皆は眉根を寄せたり、首を傾げたりしていた。

 これでも一応、王宮の料理人である。色々な食材に触れてきた。だが、黒糖タピオカの素など、聞いた事も見た事もない。




「冷たいミルクティーに入れて飲むと美味しいよ?」

 たぶん。

 まだ食べた事がないので、確証がない。だが、莉奈は何故か確信に満ちていた。

「シレッとスライムを普及するのはヤメろ」

 厨房に付いて来ていたエギエディルス皇子が、呆れ返っていた。

 ずっと付いて来るなんて、ストーカーか監視ではないか。まぁ、当然後者だが。

「やだぁ、もうエギエディルス様ぁ」

「だから、その話し方もヤメろ」

「えぇ〜?」

「気持ち悪い」

 さっきの延長で、ブリッ子風に言ったのだが、やっぱりエギエディルス皇子には不評らしい。

 そんな莉奈の様子を、厨房にいた皆は怪訝な表情をして見ていた。

 スライムという言葉が頭に入らないくらいに、莉奈の様子がオカシイ。




「あ、リックさん。冷たいミルクティー作ってく……え?」

 厨房にいつもいるリック料理長に、ミルクティーを作ってもらおうとお願いをしようとしたら、額に手をあてられた。

「リナ。熱でもあるんじゃないか?」

「いや、変な魔物モノでも食っただろう?」

「拾い食いでもしたの?」

「「「……大丈夫??」」」

 リック料理長を筆頭に、心配の声が上がっていた。

 冗談だとしても、いつもハキハキ言葉を口にする莉奈でなく、クネクネとしていたからだ。

 ただ、大丈夫の前に"頭"が付いている様な間があったのは気のせいだろうか?

 心配してくれるのは大変ありがたいが、心配の方向が違うと思う。



「不敬だ。エド、皆を牢に」

「却下だ」

 莉奈がエギエディルス皇子のマネをしてそう言えば、即刻で跳ね返された。

 王族に甘やかされている莉奈とはいえ、何の権限すらないのが現状である。

 そんないつも通りの2人のやり取りを、皆は微笑ましく思う今日この頃だった。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ