486 ケンカする程、仲がイイ
ーーそうか。
コレは、飾りと実益を兼ねた"非常袋"的な意味合いのネイルアートなのだ。
お腹が空いたら果物食べて、怪我を負ったらポーション使って……。
……うん。
フェリクス王の言葉を借りるなら、まさに"イカれてやがる"である。
魔王は論外だとして、この世界最強の生き物が竜ではないのか? 何故、その竜に非常袋なネイルアートを施した。
何歩か譲ってヨシとしても、エリクサーの瓶なんか戦闘中に簡単に割れるでしょ。
「真珠姫……愛されてるね」
「……ただアホなだけですよ」
何はともあれ、シュゼル皇子は真珠姫の身を案じているのだろう。
莉奈が空笑いしていれば、真珠姫が盛大なため息を吐いていた。
自分を大切に思う気持ちはありがたいが、その方向が盛大に間違っている。真珠姫は色々な意味で悲しかったらしい。
「早く食べないと、果物は腐るんじゃない?」
だって、くっ付いているの生の果物だし、防腐処理なんてされてないだろう。放っておけば、腐って臭う事間違いなし。
「今、食べろと!?」
莉奈が何気なしに言ったら、真珠姫が目を剥き出しにして怒っていた。
泣いたり怒ったりと忙しい竜である。
「まぁ、とりあえず……エリクサーと高級ポーションはもったいないから取ってあげるよ」
王竜と同じくらいに強そうな真珠姫に、こんな大層な魔法薬なんて使う機会はないだろう。使う前に割れる可能性しかない。
シュゼル皇子には後で言うとして、先に取ってしまおうと莉奈は思ったのだ。
以前、碧空の君のネイルアートの時に、接着剤と一緒に貰った剥離剤が魔法鞄にあったから、それで取ってあげるか。
「全部取って下さい!!」
「えぇ〜っ」
「爪に果物なんていりません!!」
「……そ」
それを言ったら、竜にネイルアートもいらんでしょうよ。
莉奈はついそう言いたくなってしまったが、ものスゴい形相の真珠姫を前に、喉から出かかった言葉をゴクリと飲み込んだ。
ヒヤヒヤしながら見ている竜達にも申し訳ないし、ここは大人しく真珠姫の爪を元通りに戻してあげる事にした。
ーー作業をする事、十数分後。
とりあえず、何も付いていない状態に戻った。
「ちょうどいいので、碧空の君みたいに爪を飾って下さい」
ホッと一息する間もなく、莉奈の頭の上にそんな言葉が降って来た。
偉そうに……何がちょうどいいのかな。面倒ではないか。
「あなたは口を開けば面倒面倒と!! この女王たる私の爪を綺麗に出来る誉れをーー」
「何が"誉れ"なんだよ。ただの我儘じゃん」
「……なっ!!」
思っていた事が口に出ていたのか、莉奈がブツクサ言っていれば、真珠姫は自分を綺麗にする事を誇りに思えとホザいて……いや、言っていた。
何故、真珠姫を綺麗にする事が私の誉れなのか、莉奈には理解不能である。莉奈に言わせれば、ただやって欲しいだけだろうと文句しか出なかった。
「誉れだなんてそれらしい事言ってないで、素直に言葉にした方が可愛いと思うけど?」
フンと鼻を鳴らして偉そうに言う真珠姫に、莉奈は鼻で笑い返してあげた。自分の番の相手だけでも大変なのに、2頭なんて面倒過ぎる。
莉奈が何を言っても動じないと分かった真珠姫は、おずおずとしていた。
「……ぅ、碧空のみたいに爪を綺麗にして下さい」
「面倒だから嫌です。以上」
真珠姫の面倒な願いをブった斬り、莉奈は帰ろうと踵を返した。
大体、シュゼル皇子が一生懸命やってあげたネイルアートを、莉奈は許可もなく剥がしてしまった。忘れない内に謝罪をしておかねばならない。
「な、な、あなたが素直に言えばやると言うから言ったのに!?」
「やるなんて一言も言ってなーーい!!」
真珠姫と莉奈はモメにモメ始めていた。
碧空の君は数歩下り、盛大なため息を吐き静観する事にした。
竜とケンカする人間は、後にも先にも莉奈だけだろう。その内容が実にくだらないから笑いも出ない。
碧空の君はさらに数歩下りながら、自分の右前足〈右手〉をチラッと見てニヨる。
莉奈は竜とケンカする程豪胆だ。
だが、彼女のおかげで質素でつまらなかった部屋はカラフルで可愛くなったし、素っ気なかった食事も華やかで楽しくなった。
オマケにこのネイルアートは、キラキラしてスゴく美しい。
真珠姫と言い争う莉奈を見て、番にして良かったなと、碧空の君は暢気に独りごちていたのであった。




