483 シュゼル皇子の本気を感じる、今日この頃
「リナ。何か届いたわよ?」
後片付けが終わった後、莉奈が碧月宮の自室に戻ると、ラナ女官長と侍女のモニカが待っていた。
自室の高そうなテーブルの上に、やたら重そうな石臼がデンと鎮座している。
「うっわぁ、マジであった」
冗談であって欲しいと思っていたが、本気で石臼が部屋に届いていたのだ。
内側に溝のある円柱の石が2個重なっていて、上の石には縦に刺さる様にハンドルが付いている。TVでしか見た事はない石臼が、目の前にあった。
「何なのコレ?」
「"石臼"」
「え?」
「石臼」
「「……石臼」」
莉奈が無表情のまま説明すれば、ラナ女官長とモニカも唖然としていた。
一般庶民でも石臼を見る機会は少ないのだから、貴族である2人は見た事なんてないのだろう。
「……え? あれ? 石臼って……確かチョコレートを作る?」
「……だよ」
大分前に話したチョコレート作りの工程に、石臼作業があった事をラナ女官長は覚えていたらしい。石臼を見て若干頬が引きつっている。
「……原材料が見つかっちゃったの?」
ラナ女官長がキョロキョロしながら、莉奈にヒッソリ耳打ちした。
真珠姫がカカオことカカ王を、莉奈に手渡したのを見ていたが、それがチョコレートの原料だとは2人は知らない。
だが、チョコレートを作る工程に、石臼をゴリゴリする作業があるのは莉奈から聞いていた。だから、とうとうチョコレートを作るのかと思ったらしい。
「……」
莉奈は思わず黙ってしまった。
あの時、真珠姫に貰ったのが"カカオ"だよ……と。
「……見つかって……はない」
「なら、何で」
「見つかったらすぐに作れる様に……」
「「あぁ〜」」
カカ王の存在を伏せて説明すれば、ラナ女官長とモニカは苦笑いしていた。
2人は莉奈が、まだカカ王の存在を知らないシュゼル皇子に、段々追い詰められているとは知らない。しかし、チョコレートを作る工程を少しだけ知っているから、何故か他人事には思えなかった。
「もう時間の問題じゃないかしら?」
ラナ女官長が頬に手をあて、深いため息を漏らしていた。
一般庶民であれば当てもなく探すのは難しいが、彼は王族であり宰相様である。情報も簡単に手に入るし、自由に出来る資金が潤沢にあるのだ。
人を動かす権限も資金もあるのだから、最悪である。
さらに最悪なのが、彼が竜を番に持っている事だ。カカ王のある場所さえ分かれば、文字通り飛んで行ける。
そして、莉奈がいるのだから、原材料や道具が揃えば作れてしまう。それがいかに大変だとしても。
なら、シュゼル皇子が探さない理由がなかった。
「その時はよろしく」
莉奈は渋々、石臼を魔法鞄に入れた。
部屋に置いたままでもイイけど、視覚による圧が強いから力が出ない。
「何"その時"はって」
「死なばもろともでしょ?」
「「いやぁぁ〜っ!!」」
莉奈が力のない笑みを浮かべれば、ラナ女官長とモニカは叫び声を上げた。
何故、一蓮托生な事態になっているのか。
他人事だと考えていたが、他人事ではない様だ。
シュゼル皇子には悪いが、カカオ豆など一生見つからなければいいのにと思う3人なのであった。




