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聖女じゃなかったので、王宮でのんびりご飯を作ることにしました  作者: 神山 りお


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473 もはや阿鼻叫喚?



「足りない」

 以前服用した時は、このくらいで脱力感が襲ってきたのだが、今回は効果が長いのか、一向に切れる気配がない。

 それどころか莉奈はまだまだ身体が高揚していて、真珠姫を蹴り倒したくらいでは満足出来なかった。

 しかし、目の前でヒクヒクしている真珠姫をこれ以上蹴るのは、さすがの莉奈でも気が引ける。

 どうにかならないものかと、辺りを見渡した時ーー




 日向ぼっこで寛いでいた竜達と、たまたま目が合ったのだ。そう、たまたま。

 断じて他の竜を、蹴り倒そうと思った訳ではない。

 だが、ちょっと、いや少し相手にしてくれたら治るかもと、チラッと頭に過ったのも確かである。

「「「ピギャャーーッ!!」」」

 それを察したのか分からない。

 だが、ただ莉奈と目が合っただけなのに、何故か悲鳴に似た声を竜達は次々と上げていた。

 真珠姫との戦いに呆然としていた竜達は、妙にギラつく莉奈と視線が合い、次は自分だと目を恐怖の色に変えたのだ。

 殺気か勘が働いたのか、目が合ったら殺されると勝手に解釈した竜達は、バタバタと我先に争うように次々と空へ駆けて行ったのであった。





 ーーこうして。






 あの和やかだった広場には……竜が一頭もいなくなったのである。





「「「…………」」」

 演習を中断していた近衛師団兵達は、呆然だった。

 なんだか分からないまま戦いが始まり、なんだか分からないままに終わったのだ。

 さらによく分からないのは、何故か関係のない竜達まで悲鳴を上げて逃げていったではないか。

 竜が慌てふためいて逃げ回るなんて事態があり得ない。

 理由は分からない。だが、原因は分かる。莉奈に恐怖し逃走したのだ。生き物の頂点に立つハズの竜達が……である。

 状況は理解不能だが、その異様な光景に既視感を近衛師団兵達は感じていた。

 あえて"誰"とは言わないが、"誰か"に似ている気がする。

 …………オカシイ。

 近衛師団兵はそんな莉奈を見て、何故か膝を折りたい心境にかられていたのだった。





 ◇◇◇






「どこに行くのかな?」

 一頭もいなくなった訳ではなかった。一頭だけ残っていたのだ。

 莉奈が空高くに逃げた竜達を見上げていたら、元凶である真珠姫はまさに今、コソコソと去ろうとしていた。

 勢いそのままで行動してしまった真珠姫だったが、莉奈に蹴られ一気に頭が冷えたのだろう。

 そして、この状態の莉奈と関わるのは、得策ではないと判断した様である。

「いえ、ちょっと……」

「ちょっと?」

 莉奈に話し掛けられビクリとするも、真珠姫はそう口にしながら距離を取る。しかし、莉奈は引き下がらず距離を縮めようと歩み寄った。

「せっかくだから、もうちょっと話そうよ?」

「け、け、結構です!!」

 莉奈の目がいつもと違い、恐怖を感じ取った真珠姫の足が、先程よりさらに速くなっていた。

 距離を取ろうとする真珠姫。それを縮めようと追いかける莉奈。

 いつの間にか、竜の広場では奇妙な鬼ごっこが始まっていた。




「何やってんだ、アレ」

「どうなっているんでしょうね?」

「……」

 騒ぎを聞きつけた王族ブラザーズは、その様子を柵越しに眺めていた。

 王兄弟達は、フェリクス王がしばらく城を空けるため、公務や政務などの引き継ぎやらをしている最中だった。

 そこへ、血相を変えたラナ女官長や警備兵からの報せ。

 またかと苦笑いが漏れたものの、竜と人である。万が一の事があってはと慌てて来て見れば、何故か鬼ごっこ状態だった。

 しかも、真珠姫が莉奈を追い回しているのではなく、どう見ても逆である。

 どうしてこうなっているのか近衛師団兵に訊けば、案の定また闘っていたらしい。

 最終的に、ボコボコにされた真珠姫が逃げ回るハメになった……という事の様だ。

 しかし、走る事に不向きな竜がドスドスと走り回る姿は、異様である。

 エギエディルス皇子は苦笑いし、シュゼル皇子はほのほのと、長兄フェリクス王はため息を吐いていた。




「翼とは」

 シュゼル皇子がのんびりと呟いた時ーー

 真珠姫もその事を思い出したのか、莉奈に捕まる瞬間に地をトンと蹴り上げ、すんでの所で空に逃げられたのであった。





 ーープツン。




 真珠姫が空に溶けたのと同時に、莉奈は電池が切れた人形の様に、突如力が入らずフラリとしていた。

 シュゼル・スペシャルの効力が切れたのである。言いようもない脱力感が身体全体を襲ってきた。やはり、アレは飲むものではないなと、地に崩れながら莉奈は思った。




「ったく、面倒の掛かる女だな」

 地に落ちると思った瞬間、フェリクス王の呆れた声が莉奈の頭上でした。

 言葉とは裏腹に、彼の口調と行動は優しい。

 倒れてケガをする前に、フェリクス王が左腕で支えてくれたのだった。

「ひょっとしなくても、また例の魔法薬を飲んだな?」

「……」

 フェリクス王にはお見通しの様である。

 ヘロヘロの莉奈は、もはや肯定も否定の言葉も出なかった。

「また作ったのですか?」

「……」

 ダメですよと、シュゼル皇子がやんわりと咎める声に、「なら、真珠姫をどうにかして下さい」と言う声を、すんでのところで飲み込んだ莉奈なのであった。












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