470 疑いの目
「スライムじゃねぇだろうな?」
昼食時に、さっそくポム・スフレといももちを出したら、エギエディルス皇子が真っ先にそう莉奈に訊いてきた。
このメニューのどこに、スライム要素がありますかね?
食べる前から怪訝なエギエディルス皇子に、莉奈は苦笑してしまった。
「スライムはまだ中庭に干してるよ」
「なら、永遠に干しておけ」
「なんでだよ」
それなら一体何の為に下処理したのか分からない。
エギエディルス皇子の言葉に、莉奈は思わずツッコんでしまった。
「とにかくそれは、ジャガイモ料理のポム・スフレといももちだよ」
作って出した自分が言うのもナンだが、ポム・スフレと並べるといももちが庶民的過ぎる。
ポム・スフレがフェリクス王兄弟なら、いももちは莉奈。まさにそんな感じだ。
「ん? どっちもジャガイモなのか?」
「そうだよ」
莉奈がそう言うと、エギエディルス皇子は2つの料理を見比べていた。
豪華な盛り付けのポム・スフレ。
素朴ないももち。
調理工程もまったく違うし、食感も違う。どちらも一口ずつ口にして目を丸くさせた。
「ん!? コレはポテトチップスに似てるな。こっちはなんだ? モチっとしてる」
「なんでしょう。初めて口にする食感ですね?」
エギエディルス皇子とシュゼル皇子が、初めて食べるいももちに仲良く小首を傾げていた。
餅米がないから、当然お餅など食べた事がないのかもしれない。
餅に似た食感の料理もないのか、ポム・スフレよりいももちに興味深々の様だった。
「食感が面白いな」
フェリクス王も、初めての食感を楽しんでいる様子だった。
「チーズが入ってて旨いけど、やっぱりスライムじゃーー」
「ないよ」
口にした事のない食感に、どうしても今朝見たスライムが頭を横切るらしい。
アレもプルンとしているから、口にしたらと想像したのだろう。
エギエディルス皇子は莉奈に何度も、しつこいくらいに確認していた。
「じゃあなんで、ジャガイモがモチモチするんだよ?」
「しらん!」
いももちはモチモチする物。何故かなんて、微塵も考えた事もない。
莉奈がそう言い切れば、フェリクス王とシュゼル皇子は笑っていた……が、執事長イベールは莉奈の口調に青筋を立てていた。
「この膨らんでいるのも、ジャガイモですか?」
「ですね。2枚重ねて揚げたポテトチップスだと、想像して頂ければ近いかと」
ポム・スフレをナイフで軽く崩し、生ハムとサワークリームをのせて口にしたシュゼル皇子は小さく微笑んだ。
「パリッとした食感と、生ハムのねっとりした食感。そこにサワークリームのほのかな酸味とハチミツの甘み、口いっぱいに色々な食感や味が広がって美味しいですね」
「ありがとうございます」
褒めて貰えたと、莉奈がニコリと微笑んで返した瞬間、次のシュゼル皇子の言葉に笑顔が固まった。
「この空洞にアイスクリームを詰めたら、美味しそうですね?」
「……」
どうして、空洞にアイスクリームを入れたがるのかな?
そこは、何かを詰めるためのスペースではないのだけど?
「……そうか、紅イモ」
アイスクリームには、ジャガイモよりサツマイモの方が合うと思う。
揚げたて熱々のサツマイモに、キンキンに冷えたミルクアイス。大学イモやスイートポテトにトッピングしても美味しいよね。
「紅イモ?」
そんな事を考えていたら、口から漏れていたらしく、シュゼル皇子に拾われていた。
だが、莉奈はその視線にまったく気づかず、テーブルの上にあるワイングラスの中の水を見て、いらん事まで思い出し口を滑らせる。
「アレ? イモといえば、ホーニン酒があるなら、イモ……」
芋焼酎もありそうだよね? と思ったのだが、鋭い視線にハタと我に返った。
「"イモ"なんだ?」
「……」
"酒"という言葉にフェリクス王までが釣り上がってしまった。
莉奈は、王兄弟の強い圧と視線にやっと気付き、口を慌てて押さえた……が時すでに遅しである。追求の目が突き刺さっていた。
そんな莉奈が、誤魔化すために口から出た言葉は、もっと最悪だった。
「えっと、芋虫?」
「気持ち悪っ!!」
「「……」」
途端にエギエディルス皇子は身震いし、フェリクス王とシュゼル皇子は苦虫を噛み潰したような表情に変わっていた。
スライムを食べようとする莉奈の事だから、芋虫も食べようと考えていると思われたみたいだった。
まぁでも、芋虫はともかく、燻製させたサンショウウオをトッピングしたジェラートが日本にはあったハズ。
この世界ではまだ、サンショウウオは見た事はないけど、ヤモリは中庭で見た事があった。
そう思い出したら、莉奈は1度押さえたハズの口から、また余計な言葉が漏れていた。
「アイスクリームの上にヤモリの姿焼きーー」
「リ〜ナ?」
シュゼル皇子の良い笑顔が、それを制したのは言うまでもなかった。




