467 ブクブク、ジュワジュワ
「ん! スゴいパリパリしてる!!」
「ポテトチップスより、食感が軽いわね」
「中が空洞だから、より軽く感じるのかも」
「「「ポテトチップスと味はほとんど同じだけど、食感が楽しくて美味しい!!」」」
揚げたてのポム・スフレは、食べ慣れた味なので好評である。
だって、こう言ったら身も蓋もないけど、食感が面白くなっただけのポテトチップスだからね。
「膨らむなんて面白いな」
リック料理長がポム・スフレの空洞を見ながら、不思議そうにしていた。
揚げる発想はあっても、こんなに膨らむとは想像していなかった。
「ちなみに、均等に膨らませるのは難しいよ?」
厚さが均等でないと、ムラが出来て膨らまなかったりする。
ただ揚げるだけだが、作るのが難しいポテトチップスなのである。
「厚みと、揺らすのがポイントか?」
「後は、油の温度と高温の油に移すタイミングかな?」
ジャガイモの表面がぷくぷくしてからでないと、高温に移した時にしっかりと膨らまない。そのぷくぷくは、油を揺らしたり掻き回したりする事で出来るのだろう。良く分からないけど。
「ジャガイモを揚げるだけなのに、色々あるんだな」
「こんなに膨らむなんて想像もしなかったですよね」
リック料理長とマテウス副料理長が、感心して大きく頷いていた。
フライドポテト、ポテトチップス、そして、このポム・スフレ。
ジャガイモを切って揚げるだけ、工程はそれだけだが、全て食感が違う。ただ揚げるだけなのに、奥が深いなと感心する皆なのであった。
「で、リナは何をしているんだ?」
味見をしている皆をよそに、莉奈だけはいそいそとまだ何か作り始めていた。
ジャガイモを薄くスライスしているし、卵白やらコーンスターチやらを用意していたのだ。リック料理長は、ワクワクするし気になって仕方がない。
「ついでだから、王族に出す様な豪華バージョンのポム・スフレでも作ろうかと」
「「「豪華バージョン」」」
莉奈がそう口にすれば、皆の手が止まった。
「いつも食べてるポテトチップスが庶民向けなら、今食べたポム・スフレはそれより贅沢な感じ。で、今から作ろうとしているのは、さらに面倒……じゃなかった、お上品な料理」
「「「お前、今、面倒くさいって言おうとしただろう!?」」」
莉奈が言いかけた言葉を、料理人達は笑いながらしっかり拾ってくれた。
コレはポテトチップスみたいに素揚げではないから、少しだけ面倒くさいのだ。
「だって、ただ揚げれば、出来上がりじゃないんだもん」
莉奈は口を尖らせていた。
なら、作らなければいいのだが、そんな事は誰も言わない。新作を教えてもらえるのが楽しくて、嬉しいからだ。
「さっき、皆が薄くスライスしてくれたジャガイモを偶数枚用意する」
「偶数枚?」
「そう、コレは2枚1組で作るポム・スフレ」
油を揺らしたり、違う温度で2度揚げしない代わりに、工程が少し面倒くさくなる。
エギエディルス皇子が可愛くなければ、こんな物を作ろうと思わないポム・スフレである。
「ジャガイモの水分を取った後、片方には卵白を塗り、もう片方にはコーンスターチを付ける」
「片方ずつで付けるのが違うんだな?」
「そう。で、重ね合わせてくっ付ける。見た目が悪くなるので、重なってない余分な部分は包丁で切り取る」
全く同じ形のジャガイモはないから、どうしてもピッタリと重ならない。なので、型抜きで綺麗に抜くか、包丁で切り揃えるといい。
「なるほど」
リック料理長が莉奈の隣で、見ながら作っていた。
こういう低姿勢な所が、リック料理長を含め皆のスゴい所だ。
王宮に勤めているのだから普通なら、プライドが邪魔をして素人に教えを乞おうとは思わないだろう。
「しっかりくっ付いたら、低めの温度の油でひっくり返しながら、1分か2分くらい揚げる」
「低めってどのくらい?」
「手の平を翳して、あ〜熱いかも? なくらい」
莉奈はさっき使った油を温め直して、手を翳して見せた。
油を計る温度計はないし、手か菜箸で調べるか経験しかないよね。
「「「急に職人技」」」
皆は目を見張り、そして苦笑いしていた。
莉奈の料理は、適当の様で適当ではない証拠だ。素人は見た目や手の平を翳して温度なんて分からない。煙が出れば熱いのは分かるが、それ以外の温度が分かるのは、慣れた人だけである。
「まぁ、菜箸で計るなら、濡れたフキンで菜箸を湿らせた後、しっかり水気を拭いて油に浸ける。で、菜箸の先から泡がブクブク出てきたら150度から160度くらい。先だけじゃなくて、菜箸の全体から泡が出ててきたら、170度から180度くらいの温度だよ」
莉奈は良く分からないと言う人に、油に菜箸を入れて手本を見せた。
揚げ物を良く作る人なら、菜箸で計らなくても、熱気で大体分かってくる。
莉奈も揚げ物が大好きだから、自然と身に付いた技術である。
天ぷらやトンカツは粉やパン粉を先に油に飛ばすと、浮いて来る速度や広がり具合、音などで温度が分かる。
「ちなみにからあげの時は白い粉を先に入れると、粉の揚がり方や広がり具合で分かるよ?」
「「「白い粉」」」
言いたい事は分かるけど、どうして莉奈はいつも小麦粉の事を"白い粉"で例えるのだろう? と思う皆なのであった。




