458 こんにちは、スライムちゃん。そして、さようなら
5月はもう終わったと勘違いして、更新忘れていました。
(`・∀・´)あら? まだ5月だ
誤字報告で気付きました。^ - ^(笑)
「まぁ、とにかくスライムくらいなら問題ないだろう」
ゲオルグ師団長は自分達もいるしと、門扉から外に出る事を許可してくれた。
但し、走り回らない様にと。
子供ではないのだから、走り回らないと返したのは言うまでもない。
◇◇◇
「なんか、プルプルしてるね」
透明のスライムは"色ナシ"と呼び、あまり害がない魔物なので進んで駆除はしないとか。個数が目立つようなら間引き程度に、との話だった。
その色ナシが、莉奈の数m先でプルプルしている。
無色透明と言っても、クラゲより少し透明度が高い程度だ。
透けているので、身体の中も良く見える。身体の真ん中くらいに核と呼ばれる赤い部分があり、そこから腸みたいな器官に繋がっていている感じ。
「そう言えば、ブルースライムは氷を作らせる道具として、使われてるんだよな」
「え? そうなのか?」
「この、王都育ちのボンボンが。金がある奴らは魔石を使った冷蔵庫を使ってるだろう? だけど、一般市民はそんなのは高くて使えないから、ブルースライムに作らせた氷を、氷屋から買って保冷庫に入れとくんだよ」
「「そうそう」」
と頷く警備兵の仲間に、若干数名「へぇ」と感心する者がいた。
実家が金持ちでなければ、魔石を使用する冷蔵庫は持っていない。魔石が高額な上に、魔力が空になれば、再び魔力を入れて貰う必要があるからだ。
それも、また高いお金を支払ってである。
一般市民には、まず無理であった。
莉奈は、王城で生活させてもらっているから、詳しくは知らなかったが、ブルースライムは上手く使えば、氷製造器として重宝するみたいだ。
その氷を売って商売する氷屋が、街や村にはあるらしい。
「あのスライムは何か役に立たないの?」
せっかく存在しているのだし、ブルースライム同様に何かに使えないのかと莉奈は皆に訊いた。
「役に立たないんじゃないか?」
「いや、待てよ。トイレのスライムって色ナシの培養じゃなかったか?」
「あ、そうだよ、そう!! ゴミ箱のスライムも色ナシのだ!」
1番害のない色ナシのスライムを培養して、トイレやゴミ箱に使用していたみたいである。
王宮やお金のある家は、浄化魔法付きトイレだけど。
しかし、色ナシスライムは本当に怖くないのか、スライムという魔物がいるのにも関わらず、皆は全然気にしていなかった。
「それでは、皆様……色ナシスライムちゃんに合掌」
莉奈は色ナシのスライムに向かって、手を合わせた。
だって、あの魔物のおかげでトイレが清潔なのだし、ゴミが少なく済むのだ。スライム様々ではなかろうか。
莉奈がそう言えば、皆もスライムに向かって手を合わせていた。
「「「ありがとうございます」」」
「「「ってなんでだよ!」」」
ノリツッコミをしている警備兵達。
皆、楽しい人達だなと、莉奈は笑っていた。
◇◇◇
「なんか、ポヨンポヨンしていて可愛いよね?」
色ナシスライムは、人がいても怖がらず逃げずにそこにいた。
スライムがどういう心境か分からないが、莉奈がゆっくり近づいてもポヨンと跳ねている。
地面は硬いのに、こんなに跳ね上がるなんてスゴい筋力だ。
スライムに筋肉があるか謎だけど。
「油断してると危ないぞ?」
莉奈の数歩後ろには、ゲオルグ師団長達がいつでも莉奈を守れる様に控えている。
だが、1番は魔物に近付かない事だ。
「ほら!!」
莉奈がもう少し近くで見ようと、一歩踏み出した途端に、スライムが莉奈の顔を目掛けて飛んで来たのだ。
ゲオルグ師団長が莉奈の前に出ようとした瞬間ーー。
ーーバシン!!
「危なっ!!」
莉奈は考える間もなく、顔に飛んで来たスライムに、上段回し蹴りをかましていた。
サッカーボールでも蹴るかのごとく、無防備に蹴られたスライムは、数メートル離れた城壁にベシャリと打ちつけられ、すぐにズルリと力なく地に落ちていた。
いきなり始まった"莉奈VSスライム"は、戦うまでもなく即時終了となったのだった。
「いやぁ、ビックリした」
まさか、飛んで来るなんて思わなかった莉奈は、安堵のため息を一つ吐く。
あぁやって、顔に飛び付いて窒息させるのだろう。
莉奈は、咄嗟に身体が動いて良かったと、掻いてもいない汗を拭っていた。
「「「……」」」
ビックリしたのは莉奈だけではない。
助けようと構えていたゲオルグ師団長達は、莉奈の瞬発力と蹴りの破壊力に唖然となっていた。
言動は淑女ではないが、見た目だけなら莉奈も守られるべき一般人。なのだが、竜が一目置く少女なのを忘れていた。
彼女は無抵抗とはいえ、あの真珠姫を倒した強者だったという事を。
ゲオルグ師団長達は、城壁近くで潰れたスライムを見て、改めて莉奈が只者ではないと認識させられたのだった。
「おっ? まだいた」
木の陰に潜んでいた色ナシスライムを見つけると、莉奈は怖がりもせず追撃に備え、軽い仕草で構えていた。
その姿勢に皆は再び唖然である。それは、初めて魔物を見た少女の姿ではないからだ。
例えどんなに訓練を重ねた者であっても、魔物との初めての対戦は一瞬躊躇いがあるものだ。
なのに、莉奈は違った。驚きながらも、冷静に対処し倒していた。
ーーオカシイ。
莉奈は知らないが、警備兵達はフェリクス王から"出来る範囲内で莉奈を守れ"と勅命を受けている。
だが莉奈は、弱いとはいえ、一応魔物であるスライムを"武器なし"で一撃で倒したのだ。
その姿に皆は引き攣る様な笑みを浮かべ、自然と顔を見合わせ「アレ?」と密かに首を傾げていた。
『陛下。我々は一体何から、彼女を守れと言うのでしょうか?』と。




