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聖女じゃなかったので、王宮でのんびりご飯を作ることにしました  作者: 神山 りお


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455 ゲオルグ師団長の傍迷惑な愛



 竜の宿舎を後にし、さてどこに行こうかと考えた。

 フェリクス王から"大人しくしていろ"と念を押されている莉奈は、ならばと普段あまり行く機会のない城壁に散歩がてらに向かっていた。

 厨房に行けば、何もしないという選択肢はない。皆が忙しなく動いているのに、ボケッと突っ立っている訳にもいかない。

 皆を見てると何か作りたくなるし、手伝わなきゃいけないしね。



「綺麗な庭だなぁ」

 銀海宮正面にある庭は、王城にある庭で1番大きな庭だ。

 要人が来ると1番に目に付く、いわゆるヴァルタール皇国の顔とも言われるのだから、立派であるのは当たり前。だが、毎日誰かが手入れをしているため、草花や木は切り揃え整えられているしゴミなど一切落ちてない。

 ちゃんとした庭番がいるから、いつも綺麗である。

「おぅ、リナ」

 庭園を散策していたら、見知った声が聞こえた。

 庭師らしき人物の隣に、王宮内で1番大きな体躯をしている者がいた。言わずもがな、近衛師団長のゲオルグである。

 軍部のトップが庭番と何の用があるのだろう。

「何しているんですか?」

「いや、ロッテがな。最近、花に夢中になってるんだよ。だから、何か小さな庭園でも造ってやろうかと」

 庭師にアドバイスを求めていたのだと、ゲオルグ師団長は笑っていた。

 ゲオルグ師団長の実家は侯爵家だから、大きくて立派な庭園がある。小さなと言うのだから、たぶんロッテだけの庭園を新たに造ってあげるのだろう。

 相変わらずの愛妻家で、1人娘ロッテを可愛いがっているみたいだ。

 ゲオルグ師団長を見ていると、妻ジュリアは猛アタックした甲斐があったんだなと、つくづく思う。娘のために、自ら花を探して植えてあげようなんて、ものスゴく素敵な事である。

 まさに、理想的な父であり、旦那様ではなかろうか。




「なら、垣根にはククベリーなんかいいんじゃないですか?」

 ククベリーの木の高さは、1mくらいで低めだ。

 垣根には丁度良いし、ロッテも目の前で花が見られるかなと思う。

 花は小さくて可愛いし実が生れば食べられるしで、鑑賞と実用の両方を兼ね備えている。

 まぁ、飽きれば結局、鳥が食べに来るだけになるけど。

「私もそれを今、オススメしていたところなんですよ」

「手入れも簡単だし実も食べられるしで、良いのではと」

「でも、はなぁ。家の庭にはライムの木があるんだが、誰も食べないんだよな」

 ククベリーもそうならないかなと、ゲオルグ師団長はボヤいていた。

 昔は果物屋があまりなかったため、ゲオルグ師団長の庭にも植えたらしいが、今は誰も手を付けなくなったそうだ。

 確かに莉奈の近所にも柿やレモン、イチジクなどたくさんの果物が庭に生えていたが、悲しい事に誰も食べていない。

 せっかく生っても実を収穫する事もしないため、道路によく落ちていて潰れている。莉奈もそこを通るたびに、もったいないと思ったものだ。




「ククベリーと言えば、リナのおかげで食べて貰えてるから嬉しいよ。ありがとうな」

 一生懸命に手入れしてきた庭師の人達が、ものスゴく嬉しそうに笑っていた。

 他にも美味しい果物があるから、身近にあるククベリーは存在感も薄れ、いつしか鳥が食べる実だと思われてしまったらしい。

「なんか訊いてみたら、知らない間にククベリーは赤いのが熟した証拠だって、思われていたしな」

「あぁ、でもアレはたぶん、ククベリーを食べるクク鳥に原因があるんだと思いません?」

「クク鳥?」

「そこにもいるよ」

 クク鳥とは、雀と同じくらいの大きさの鳥で、嘴だけが白い真っ黒な鳥である。

 よくいる鳥なので、莉奈が聞いて辺りをキョロキョロすれば、チュンチュンと歩いていた。

「そうか、クク鳥は腐った果物を好む鳥だって迷信があるから、黒くなっているのを食べる様子を見て、勘違いして広まったのか」

「「「風評被害だ」」」

 腐った物は黒く変色する物が多いから、誰かがなんとなく言った言葉が、勝手に広まってしまったらしい。

 そして、腐った物を好むと言われているクク鳥の存在だ。

 庭師の人達は、しっかり調べて知識があるから、黒いのが熟した証拠だと知っている。だが、すでに広まっている偽情報の方が真実味があり、打ち消してしまった様だった。

 ククベリーも可哀想な存在である。




「あ、そうだ。ククベリーを植えるなら、実をジャムにすればいいんじゃない? パンに塗ったりヨーグルトにも入れられるし、お父さんと一緒に収穫すればロッテちゃん喜ぶんじゃないかな」

「そうか。食育にもなるのか」

「後、ライムの木があるなら、前に教えた"ニコラシカ"をレモンじゃなく、ライムに代えて作ればジュリアさんが喜ぶかも」

「なっ!」

 途端にゲオルグ師団長の表情が、キラッとしていた。

 "ニコラシカ"とはざっくり言うと、レモンと砂糖を口に含んでからブランデーで味わうカクテル。

 作り方は簡単で、ブランデーを注いだグラスの上にスライスしたレモンで蓋をして、そのレモンの上に砂糖をのせるだけ。口の中で作る面白いカクテルである。

 ライムの木があるならライムの生る季節は、そのレモンをライムに代えればいい。飲んだ事はないけど、柑橘系ならたぶん合うハズ。



「"ジュリアに愛を込めて"……なんて、作ってあげて出したらーー」

「リナ、お前は最高だ!!」

「グェッ!」

 そう提案したら、感極まったゲオルグ師団長に抱き締められた。

 まさに抱き、締めである。

 力の加減って知ってますか? ゲオルグ師団長。息が出来ませんけど?

 遠のく意識の中、抱き締められた事がゲオルグ師団長の奥さん、ジュリアに知られたら、本気で命が危ない気がするなと思った。

「ゲオルグ師団長!!」

「リナが死んじゃうよ!!」

「離して!!」

「「「今すぐ力を緩めてーーっ!!」」」

 莉奈の様子がオカシイと気付いた庭師達が、顔面蒼白で慌ててゲオルグ師団長を離してくれた。

 止められなかったら、莉奈はまさに締め殺されるところだ。

 人を素手で締め殺せる人って本当にいるんだと、莉奈は身をもって知った今日この頃だった。






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