449 エギエディルス皇子が怖いモノ
「せっかく取ったのに……」
お前のクシャミのせいでと、ブツブツ言うエギエディルス皇子。
ただの瓶だから、効力が消えただけ……だと思うのだが、エギエディルス皇子は可愛く口を尖らせていた。
「いや、取ったの私だし」
ションボリするエギエディルス皇子に癒されながら、莉奈はツッコんだ。
聖魂はふわふわしているが、あまり下の方に降りて来ない。
確かに採取出来たのは、運良くな気がしてきた。
「とりあえず、エーテルと綿を用意しようよ?」
また捕獲出来ても消える可能性が高い。
なら、取る前に準備が必要だと莉奈は思った。
「だな」
「なら、私が黒狼宮からエーテルと綿を持って来ましょう」
エギエディルス皇子が頷いた時、声が掛かった。
声の方向に振り向けば、そこには魔法省のタール長官がいた。
かなり遠巻きだが、警備兵や侍女達が騒がしく集まっている。聖木が成長していた音や警備兵の慌ただしくしている音など、ここから距離のある別宮にいる魔法省のタール長官の耳にも、早々に入っていたのだろう。
その後ろには軍部のトップ、近衛師団長のゲオルグが同じく聖樹を見上げていた。
「入れ物はいかが致しますか? 瓶で?」
ゲオルグ師団長はエギエディルス皇子にお伺いを立てる。
何故、聖木がこんな形に変化を遂げたのかよく分からない。だが、莉奈がいる事でなんとなく察したゲオルグ師団長は、今自分のやるべき事は問う事ではないと理解した。
「瓶か」
瓶でもいいが、何かないかなとエギエディルス皇子は思案する。
持ち歩くにはもっと持ち易いモノはないのかと。
莉奈も聖魂を見ながら一緒に考えていると、光と綿で思い付いた。
「あ、そうだ!! エド。ランタンは?」
「ランタン?」
「取っ手が付いてるから持ち運ぶのが便利だし、何かにぶら下げる事も出来るんじゃない?」
「そうか!! オイルの代わりにエーテルを置けるし、ちょうどいいな」
「では、ランタンを用意致します」
莉奈とエギエディルス皇子がそう話をしていれば、察したゲオルグ師団長はすぐに取り掛かる様だった。
莉奈がチラッと見れば、タール長官はすでにエーテルを取りに行っていなかった。
空気を読めるトップは行動が素早いなと、莉奈は感嘆が漏れるのであった。
「で、アレはどうやって取るの?」
改めて見上げれば、聖魂は家より高い位置をフヨフヨと浮かんでいた。
さすがの莉奈もお手上げである。
「地の壁」
「ぎゃっ!」
エギエディルス皇子が言葉に魔力をのせれば、莉奈とエギエディルス皇子の地面がズズンと一気に持ち上がった。
畳一畳分の面積が、地上3階くらいに。
エギエディルス皇子はそんな狭い幅に余裕に立っているが、莉奈はその高さに少し腰が引けた。
手摺りも柵もないのだ。落ちたらと思うとさすがの莉奈も怖かった。
思わずエギエディルス皇子の服を掴んでいた。
「これで取りやすくなっただろ?」
「いや、まぁそうだけど、持ち上げるなら一声掛けてくれるかな?」
そういう所は本当に兄王にソックリだ。
莉奈はエギエディルス皇子に、フェリクス王の面影がチラリと見えた。
「お前、ひょっとして怖いのか?」
「突然、地面が高くなれば普通に怖いんだよ」
「木に登ってたクセに」
莉奈が文句を言えば、エギエディルス皇子は呆れていた。
さっきは、コレと同じ高さかそれ以上の高さに登っていたのに、莉奈が何を言っているのかエギエディルス皇子にはサッパリ分からない。
「あれは、急に"魔王様"が現れたから」
「……魔王」
あながち否定出来ないエギエディルス皇子は、確かに? と思ったら何故か身が震えたのであった。
◇◇◇
「ランタンに入れたら、なんかイイ感じになったね」
ランタンの底にエーテルを染み込ませた綿を置き、ホイホイと捕まえた聖魂を入れれば、不思議で明るいランタンかランプに見える。
中で淡く光る聖魂は、ほんのり温かさを感じる程度で、触っても熱くはなかった。
「コレで魔物が寄り付かなくなるのでしょうかね?」
中庭のガゼボのテーブルに置いたランタンを見ながら、タール長官がにわかに信じ難いと呟いた。
それもそうである。
鑑定した莉奈でさえ信じられないのだから。
「ケサラン・パセタンみたいだな」
そう言ってゲオルグ師団長が、感慨深げに顎を撫でていた。
「何ですか? ケサラン・パセタンって?」
タンポポの綿毛みたいな生き物だと言われている"ケサランパサラン"なら知っているが、"ケサラン・パセタン"は知らない。
莉奈はゲオルグ師団長を見た。
「タンポポの綿毛みたいな形をした光る魔物……いや、生物だな」
「夜になると淡く発光して、コレみたいに浮遊している事があるんですよ」
森の中とか街とか場所を選ばず、夜遅くにポワポワと光り浮遊する生き物だと、ゲオルグ師団長とタール長官が説明してくれた。
ケサラン・パセタンの詳しい由来は知らないが、語尾を取ると"ランタン"になる事から、光る姿が由来だと言われているとタール長官が教えてくれた。
「……え? 何それ、怖い」
だって、見ようによれば人魂みたいだもん。
コレが夜中に彷徨っているとしたら相当怖いなと、莉奈は思わず眉根を寄せてしまった。
「俺が一番怖いのはお前だよ」
「え? 今なんか言ったでしょ?」
「何も言ってねぇよ」
莉奈に睨まれ、エギエディルス皇子は顔を逸らした。
そのケサラン・パセタンに似た聖魂を追い回していたヤツが、何を言っているのか、エギエディルス皇子には分からなかった。
エギエディルス皇子からしたら、何をしでかすか分からない莉奈の方が恐ろしいとため息を吐くのだった。




