447 聖魂とクシャミ
「ビン、瓶」
とりあえず、瓶にあの【聖魂】とやらを入れておこうと莉奈は慌てて魔法鞄を漁った。
持ち運ぶには特殊な入れ物が必要だが、とりあえずしまっておく事くらいは出来るハズ。いつ消えるかも分からないので、莉奈は消えない内に一つくらい取っておきたかったのだ。
「まずは説明しろ!!」
空瓶を取り出した莉奈は唐突に走り出し、フヨフヨ浮いている光を捕まえようと右往左往していた。
エギエディルス皇子は何の説明もなしに行動する莉奈に、呆れしかなかった。
「その光みたいなヤツは何なんだよ?」
気になったエギエディルス皇子も、近くに来て聖樹を見上げる。
莉奈はお構いなしに、自分より高い所を飛んでいる光に向かい、ウサギみたいにピョンピョン飛び跳ねていた。
「エド! あの光"聖魂"なんだって!!」
「あ゛? 聖魂?」
「アレを持ち歩くと、弱い魔物を寄せ付けないんだって!!」
「マジかよ!!」
「「「なんだって!?」」」
その説明に、エギエディルス皇子や警備兵達が驚愕していた。
聖木はどこに生えるかも分からないし、持ち運びが出来ない。だが、これは持ち運ぶ事が出来る。
となれば、聖木より遥かに活用の幅が広くなる。
強者までではないのが残念だが、一々小者の魔物の相手をしなくて良いのは僥倖である。
「瓶に入れればいいのか!?」
エギエディルス皇子も慌てて莉奈に空瓶を貰い、聖樹の光の捕獲を試みる。
「うん。あ、だけど特殊な入れ物じゃないと、効力はなくなるみたいだよ?」
「なら、取ってどうすんだよ!!」
「だって、毎夜に現れるか分からないんだから、とりあえず空瓶に入れといて考え……とりゃぁあ〜っ!!」
ユラユラと光が1つだけ下に降りて来たのを見た莉奈は、空瓶の蓋を開けそれに飛びついた。
莉奈の素早い動きに、エギエディルス皇子は呆気だったが、莉奈は見事に聖魂を1つ捕獲する事が出来たのであった。
◇◇◇
「これはコレで綺麗だね」
空の瓶に入れた聖魂は、蛍の光の様にふわりふわりと優しい光を放っていた。
時には強く、時には優しく、生き物の様に光が変化している。
「なんかランプみたいだな」
エギエディルス皇子も頷いた。
瓶に入れた聖魂は、光の魔石を使ったランプみたいだった。
日が出ていないため、それが余計に幻想的でとても綺麗である。
「で? どうすれば、効力が持続すんだよ」
何も考えていない莉奈と違って、エギエディルス皇子は色々と考えている様だった。
「え? 知らない」
「知らないんじゃねぇんだよ。お前【検索】持ってんだろ!?」
「あ、そうか」
鑑定を持っていないエギエディルス皇子の方が、莉奈の魔法の使い方に詳しかった。
確かに、【検索】という手があったか。
莉奈は言われるがまま、聖魂とやらを【鑑定】し【検索】をして視た。
【聖魂】
聖樹から溢れる聖なる光りの集合体。
半径5m〜50mと個体により効力が異なるが、弱小の魔物を遠ざける力を持つ。
〈用途〉
特殊な入れ物に入れると、その効力を長時間保つ事が出来る。
だが、効果は半日〜3日と個体により異なる。
〈その他〉
食用ではない。
聖木からも極々稀に溢れる事がある。
「"特殊な入れ物"に【検索】を掛けて視ればいいのかな?」
莉奈は首を傾げながらも、"特殊な入れ物"に【検索】を掛けて視た。
【特殊な入れ物】
聖魂の魔力を持続させるための物。
器は特に選ばないが、エーテルを少量染み込ませた布や綿を入れておく必要あり。
検索で視た事を説明しながら"エーテル"って初めて見たなと、莉奈は目の前にいるエギエディルス皇子を見た。
「エド、"エーテル"って?」
「魔法回復薬」
「なるほど?」
ポーションが傷などに効くなら、エーテルは過度に使った魔力の補充薬。
魔力を使い過ぎると疲労感と目眩を起こすとか。
「あ、だからか」
だから、竜が狩って来た魔物の鑑定をしまくった時に、あんな症状が出たのかと莉奈は納得した。
エーテルはポーションより高価らしく、戦闘中でない限り使用しないとか。
傷は跡が残るし、後遺症があるのでポーションでなるべく治すが、魔力疲労は寝て治るから、基本的に使用しない様だった。
「エーテルって何から作るの?」
「基本は"エナ"の木から採取した葉と魔法水だな」
ポーションはマナの木で、エーテルはエナの木だとエギエディルス皇子が説明してくれた。
作り方はポーション同様に色々な方法があるらしい。
生の葉から成分を抽出させて作る方法。
乾燥した葉を混ぜる簡単な方法などなど。
基本の材料はエナの葉と魔法で作った水の2つを使い、その2つを使って精製した魔法回復薬を"エーテル"と呼ぶ。
ただ、簡単に乾燥させた葉をただ混ぜるだけでなく、蒸留させたり抽出させたり面倒で難しい工程をする程に、効果が高くなり"高級"になる。
莉奈がゲオルグ師団長からよく貰う"ポーション"は、1番簡単な作り方で作られた回復薬で、ポピュラーな物らしい。ポーションは低中高と、主に3種あるそうだ。
ちなみにゲオルグ師団長に貰ったコレ、低級ではあるけれど、れっきとした魔法薬なので値段は可愛くない。
「ならここに、布や綿にエーテルを染み込ませて入れとけばいいのか」
莉奈の説明で理解出来たらしく、エギエディルス皇子は聖魂の入った瓶を感慨深げに見ていた。
彼の事だから遠征に行く機会の多い、近衛師団兵や警護にあたる冒険者に持たせられたらなと考えているのだろう。
ーーヘックション!
鼻が急にムズッとした莉奈は、エギエディルス皇子の横で豪快なクシャミを一つ。
ーーその瞬間。
瓶に入っていた聖魂が、ピンと弾ける様にして消えた。
「「「……」」」
皆、絶句である。
莉奈のクシャミで聖魂が消えたのだから。
「お、お前〜っ!!」
「えぇ?? いや、偶然だし言いがかりでしょ!?」
瓶に入っている聖魂がたまたま、莉奈のクシャミのタイミングで消えただけ。
例え火だとしても、瓶に入っているのだからクシャミは関係ない。
だが、あまりにもタイミングは良過ぎて、皆は莉奈を疑っていた。
「クシャミで消える訳がない!!」
そんな簡単に聖魂が消えたら、何も出来やしない。
莉奈は絶対、誰かが自分の噂をしているんだと思うのであった。




