443 超メモネックス
莉奈はオカシイなと目を擦り、今度はさらに詳しく【鑑定】をして視た。
【超メモネックス】
どんな瀕死の樹木も、根に撒いたり散布させると、瞬時に元気になる。
特殊な配合で作られた魔法薬。
〈用途〉
細菌や病気、傷で弱った樹木を回復させ、水分や養分の吸収力を高めたり、光合成を活発化させる。
〈その他〉
飲料水ではない。
樹木以外には劇薬である。
ただし、一部の樹木・植物系の魔物に撒くと、急成長したり活性化したり、時には進化や変異する事がある。
「……」
莉奈、絶句である。
肥料や活性剤、あるいは栄養剤みたいなモノを作るつもりだった。
なのに出来たのは、それ以上の魔法薬だった。
夜更けの変なテンションによる、色々なアレンジが良くなかったのか。
今まで"特別"な配合という表示はあったが、"特殊"な配合とはなんだろう?
"劇薬"なんて表示も今までにないし、植物系の魔物に与えると何かヤバそうだとか…… ツッコミ所の多い魔法薬となってしまった。
……う〜ん??
でも"聖木"は樹木であって魔物ではないし……。
人に飲ませる事もない。
「なら、いっか」
だって元気になるのだもん!!
莉奈の切り替えは、山の天気より遥かに早かった。
放っておいても枯れてしまうんだし、別にあげても構わないだろう。
だって、枯れたら困るから植え直したんだもんね!!
莉奈はポジティブな方向にベクトルが向き過ぎて、聖木にコレを与えた時にどうなるかなど、まったく考えていなかったのであった。
◇◇◇
「リナ、今日は早いな」
銀海宮に入った途端に、警備兵に声を掛けられた。
一瞬、ビクッとなったが、「ご苦労様です」と莉奈が微笑めば「いつも美味しいご飯をありがとうな」と手を軽く振られた。
早朝組がパンを作り始める時間なので、料理を作れる莉奈がうろついても不審には思われなかった様だ。
「ふぅ」
別に悪い事をするつもりはないけど、この妙な緊張感はなんだろうか?
莉奈はドキドキする胸を、思わず押さえた。
堂々として中庭に行けばいいのに、何故かコソ泥の様に中庭に来た莉奈。
学校の校庭より大きな中庭に、以前焼き鳥を焼いた憩いの場がある。
湧き出る水を利用した池の真ん中に小さな島が、そこにガゼボみたいな建物があるのだ。
そこで、焼き鳥を焼いたのを思い出し、腹が鳴った。
莉奈のお腹は元気そのものである。
そのガゼボを通り過ぎ、少し先に行くと聖木があった。
「うっわ、ダメだこりゃぁ」
ポジティブ思考な莉奈でも、一見でそれがダメな状態だと分かった。
街路樹くらいの大きさの聖木は、萎びてるなんてレベルはとっくに過ぎ、まさに死にかけである。
葉の色は茶色を通り越し、灰色。枝は元気がなく、項垂れているかの様だ。幹は何故か、奇妙な穴が何個か空いている。
おそらく、ポンポコちゃんが噛み付いた痕なのだと推測する。
「よくぞご無事で」
コレを無事というには無理がありそうだが、瀕死でも生きているのだ。
木の生命力だけで、奇跡的に微かに生きている状態だろう。
莉奈は作りたてホヤホヤの"栄養剤"? 【超メモネックス】を魔法鞄から取り出した。
それと同時に、お玉も取り出した。
「元気にな〜れ。元気にな〜れ」
黙ってパシャパシャと撒くのもと思った莉奈は、お玉で超メモネックスを撒きながら祈りの言葉を口にする。
胡散臭い宗教の様に、聖木の周りを回りながら撒いていた。
時には幹にも掛け、土にも染み込ませ、グルグルグルグルと何周も。
何回か回し掛けていると、寸胴にたっぷりあった超メモネックスが空になった。
だが、聖木に変化はない。
「失敗??」
鑑定魔法も万能ではなく、稀に誤差や間違いがある……とシュゼル皇子が言っていた。
一応何度も確認はしたが誤表示だったのかと、莉奈がションボリ肩を落とした時、それは起きた。
聖木がほのかに光ったかと思うと、ミシミシと奇妙な音を立て始めたのだ。
莉奈が思わず後退りしても、聖木からする音は激しくなるばかりであった。
ミシミシ、ピシピシとラップ音みたいな異様な音を立て、聖木はかなり早い速度で"成長"していた。
「……ぇ」
か細かった幹は、ひと回りふた回りなんてレベルではないくらいに、大きく太く膨らみ、今にも地に着きそうだった枝は、見る見ると張りを取り戻し横へ上へと増やしていった。
枝など、莉奈の腰回りより遥かに太く逞しく成長している。
背丈は空高く伸び過ぎて、先が見えない程だ。
おそらくだが、この銀海宮を軽く超えているだろう。
それと同時に風が吹くだけで落ちそうだった葉も、手の平より大きく立派に生え変わり、青々と生い茂っていた。
莉奈が呆然としている間にも、枝や葉はさらに成長し拳ほどの蕾が。
それもしばらくすればプクリと膨らみ開き始めた。いくつもの蕾は、次々と桜に似た薄いピンク色の大きな花を咲かせている。
それは、まるで笑顔を見せる様に綻び咲いていたのだ。
瀕死だった聖木は、莉奈のおかげで今まさに満開を迎えたのである。
風で揺れた花や木はサワサワと小さな音を立て……まるで、莉奈にお礼を言っている様にも聞こえた。
あの細く瀕死だった聖木が、背の高いマッチョの様に成長してしまった。それは、電柱が鉄塔に化けたくらいに劇的で衝撃的である。
今いる銀海宮より遥かに背が高く、頭一つ突き抜けている。幹は小さな家ならスッポリ入りそうなくらいに立派で極太。
やたらと大きな花は桜みたいで綺麗だけど、懐かしさより恐怖を感じる。
……どゆこと?
……なんでこうなったの、コレ??
莉奈は無意識に【鑑定】を掛けていた。
【聖樹】
別名"神樹"と呼ばれる樹木。
その身から放つ不思議な光は聖なる力を持ち、聖木同様に周りに魔物を寄せ付けない。
だが、その力は聖木を遥かに凌ぎ、広範囲に影響を及ぼす。
聖木が聖樹になる事はほとんどなく、成長した姿は神の奇跡と言われる。
「はぁぁーーーーっ!?」
莉奈は驚愕の事実に、堪らず叫びを上げていた。
莉奈は元気に戻ればいいなと、思っていた。
だが、元気に戻るのではなく、元気に成長した。
"聖木"は今や立派な"聖樹"へと成長を遂げ、莉奈の前で優しく微笑む様にサワサワと、そして見守る様に神々しく淡く発光しているのであった。




