441 口は災いの元、莉奈も災いの元?
「あ、そうだ。せっかくですから、リヴァイアサンの鱗を部屋に飾ります?」
あれから、リヴァイアサンを解体したシュゼル皇子に、リヴァイアサンの身や鱗をいくつか貰ったのだ。
薄い蒼とも碧ともとれる鱗は、厚みはあるのにガラスの様に透けている。光を通せばステンドグラスみたいに、キラキラと輝いて見える。
ランプシェードの代わりに囲って置けば、さぞ幻想的になるに違いない。
キラキラ好きの竜にはもってこいの品ではなかろうか。
だから、狩り獲って来た王竜も勲章か戦利品みたいな感じで飾るかなと、莉奈は思ったのだ。
「いらん」
だが、速攻で返事が返ってきた。
「え? でも光に通すと綺麗ですよ?」
「ふん、我よりもか?」
「……」
あぁ、そういう事ですか。
リヴァイアサンの鱗の方が綺麗だと言ったら、コレ絶対に不機嫌になるヤツだ。
莉奈的には、竜は竜。リヴァイアサンはリヴァイアサン。
鉱物鉱石的な美しさと、半透明でガラスや水晶の様な美しさとでは別だし、どちらもものスゴく綺麗で比較するモノではないと思う。
だが、王竜は自分が1番でなければ気に入らないのだろう。
「王竜を魔物と比べるなんて、おこがましくて出来ませんよ。それに、リヴァイアサンを倒した王竜が1番だって、他の竜に申し訳なくて言わないだけですよ?」
実際には、何が1番かなんて莉奈には分からないけど。
王竜的には皆が1番という結果になり、どこかモヤッとして腑に落ちないのだろう。
美容液を塗ってあげた真珠姫も、口にはしなかったがそんな感じだった。
碧空の君は、美容液の特別感が薄れたとボヤいていたけど。
莉奈の言葉にイマイチ納得いかない王竜は、ポツリと唸る様に言った。
「やはり、不死鳥を狩ってくれば良かったか」
「不死鳥」
その言葉が耳に入り、莉奈は思わず瞳が爛々としてしまった。
不死鳥とは小説や漫画、ゲームなどでは、不死と名が付く様に永遠の時を生きると言われている鳥だ。別名、火の鳥とも呼ばれ、文字通り火に包まれている鳥で書かれている事が多い。
そんな鳥までいると考えると、莉奈はワクワクしてしまった。
「……あれ?」
でも、火の鳥って火に包まれているから火の鳥だ。
莉奈はハテ? と疑問が口から次々と漏れていた。
「どうした、竜喰らい」
「不死鳥って、別名"火の鳥"とか呼ばれたりします?」
「そうだな」
「うっわ。焼かなくても既に"やきとり"だ」
焼いて食べる前から、焼き鳥だ。
肉体はどうなっているのだろうか?
不死鳥からは、いつも香ばしい匂いがするのだろうか? 焼かなくても食べれたりするのだろうか?
だとしたら、手間いらず? いや、羽根はどうなっているのかな。
莉奈は疑問しか浮かばず、ポロポロッと口から漏れ出ていた。
「お主、魔物は喰らう方向以外には頭は働かんのか?」
王竜は莉奈が、不死鳥まで喰らおうと考えるとは想像もしなかった。
人が普通に考えるのは討伐方法か、素材の活かし方だ。
食す方向に考えるのは人ではなく、もはや魔物の域である。
王竜は唖然呆然としていた。
「"バハムート"もいるのかな?」
莉奈の想像は逞しく、さらに広がりを見せていた。
神龍リヴァイアサンがいるなら、同じ神龍だと思うバハムートもいそうだなと。
その言葉に、王竜は珍しくビクリとした。
「……いたらどうするつもりだ?」
「美味しいのかな……と?」
「……っ!?」
莉奈がそう小さく呟けば、王竜は今度は目を見開き身震いしていた。
「……?」
こんなに驚愕し怯えた王竜を見るのは、初めてだった。
莉奈がどうしたのかと口を開きかければ、何故か王竜はゆっくりゆっくりと後退りしていた。
莉奈を狂気を見るかの様に怯えてさえ見えた。
「どうしました?」
「……あの王が選んだ娘だけの事はある」
「え? どういう意味ですか?」
莉奈がキョトンとして訊ねれば「アヤツより恐ろしい」と、王竜はブルッと身震いし地をトンと蹴った。
「王?」
「番は喰らうでないぞ?」
「はぁ??」
王竜はそう言って、まるで逃げるかの様に莉奈の前から消えたのであった。
「……え? なんで?」
莉奈、王竜の言動がまったく分からずである。
碧空の君を食うなとはどういう意味だ。
友達みたいな竜を、食べる訳がない。
だが、莉奈が何故そんな事を言われたのか、理解するのはすぐだった。
たまたま宿舎にいる莉奈に会いに来て、つい会話を立ち聞きしてしまった近衛師団兵のアメリアが、顔面蒼白で教えてくれたのだ。
「リナ。"バハムート"って……"王竜"の異名だよ」と。
莉奈が食べてみたいと言った"バハムート"とは王竜の事だった。
皆も王竜は王竜と呼んでいたし、莉奈も王竜は王竜だと思い込んでいた。だから、まさか他の呼び名があるなんて、これっぽっちも考えた事もなかった。
不死鳥がフェニックスや火の鳥と呼ばれる様に、王竜もバハムートと呼ばれる事がある様だった。
うん。怯えて当然だ。
目を見て「お前が食いたい」と言ったようなものだから。
◇◇◇
ーーその後。
何度も土下座して拝み倒し、王竜と莉奈のわだかまりが解けたのは、しばらくしてからである。
竜達にはフェリクス王とは違った意味で、さらに怯えられる存在になってしまった莉奈だった。




