439 竜が狩り獲り、採取して来たモノ
「で、どうするんだコレ?」
莉奈の言動も腹もいつも通りだなと諦めたエギエディルス皇子は、兄2人にこの魔物の扱いを訊いた。
ただでさえ貴重な魔物だが、莉奈の指令? により超が付く程 稀少価値な魔物が集まっている。
初めは唖然としていたエギエディルス皇子も、今は見た事もない魔物の数々に興奮気味だ。
ナイフのような鋭い爪を持った巨大な熊、羽根がカラフルな虹色の鳥、足がムカデみたいにたくさんある羽根の生えた虫。
頭が3つある獰猛そうな獣、鋭利な牙を持つ兎、ツノが生えた蜥蜴。
キラキラ光る羽根が生えた馬、首にトゲがあり目が6個あるワニ。
多種多様さとその数に、莉奈は改めて自分のした事の重大さに、乾いた笑いが漏れていた。
「フェル兄、コレ」
魔物を見ていたエギエディルス皇子が、山積みの魔物の下から何かを見つけた。
「んぎゃ!」
フェリクス王は逃げない様に莉奈の首根っこを掴むと、エギエディルス皇子の指を差した場所を見た。
そこには樹齢何年か分からない程の大木が、根っこから引き抜かれた状態で転がっていた。
青々と生い茂っていたと思われる葉も、今は水も与えられる事もなく少し萎びているし、根はほとんどが無残にブチ切れていた。
竜が丁寧に掘って持って来る訳がないから、かなり強引に引っこ抜いたのだと想像する。
【聖木】
いつどこで、何時生えるか解明出来ない木。
別名"神木"と呼ばれ、その身から放つ不思議な光は聖なる力を持ち、周りに魔物を寄せ付けない。
世界でも超稀少な樹木。成長すると聖樹となるが、聖樹になるのはさらに稀。
〈用途〉
旅人や冒険者達は"宿り木"と呼び、疲れた身体を休めるための拠り所として重宝している。
その効力や範囲はその樹木により異なる。
幹や葉だけでなく根や樹液に至るまで、防具や装飾品、薬として重宝される。
〈その他〉
一部食用である。
数十年に1度程度に生る実は、大変美味。
稀に咲く花や生る実は、他の素材と特別な配合で調合すると魔法薬となる。
樹齢数百年のマナの木が、進化し聖木になるとも言われている。
ーーパシン。
フェリクス王に繰り返し叩かれ、莉奈の頭は落ちそうである。
「……抜いて良いモノなのでしょうかね?」
魔物を寄り付かせない超稀少な樹木。
抜いたり傷付けたりする事での影響が未知数で、未だかつて抜いた者はいない……とされている。
抜いた事を隠匿している可能性もあり、さだかではない。
ただ、古来から抜いた地域や国に厄災が起きるとの噂が……。
もしかしなくても、その地や生態系に起きるだろう影響は絶大である。
シュゼル皇子にも予想がつかないらしく、どうしたものかと微笑みながらも困惑している様だった。
「え? どう考えても、絶対ダメなヤツだろ」
世間をあまり知らないエギエディルス皇子ですら分かる。
コレは絶対に抜いたら駄目な樹木だと。
「どこの誰だ、聖木を抜いて来た竜は」
フェリクス王は、盛大に舌打ちをしていた。
訳の分からない指令を出した莉奈は莉奈で問題だが、この樹木を引っこ抜いて来た竜はさらに大問題である。
魔物を寄り付かせない木が、ドコからかなくなったのだ。
その聖木のおかげで維持されていたであろう、その付近の生態系は確実に崩壊する。
また、その聖木を進路に入れていた旅人達は絶望するし、魔物を討伐し休むつもりで来た冒険者は、根こそぎなくなったその地に愕然とする事だろう。
そして、心身共に休める稀少な場所がなくなり、困窮するに違いなかった。
フェリクス王は眉根を揉んでいた。
100歩譲って魔物の件はいい。稀少な魔物は大半が凶暴な輩が多いから、その魔物がたとえ一時的だとしても少なくなれば、市民の生活も脅かされなくなるからだ。
だが、聖木は違う。
数枚の葉を採取する程度ならともかく、ここにあるのは葉なんて可愛い物ではなく、聖木その物。影響が計りしれなかった。
「エギエディルス、早急に近衛師団をここへ。数名を連れ、ソレを銀海宮の中庭に移植しろ。それが終わったら、イベールの手伝いに回れ」
「分かった」
「シュゼルとお前は分担して【鑑定】【検索】し記述」
「御意に」
エギエディルス皇子はフェリクス王に指示され、白竜宮に走って行った。
シュゼル皇子は作業に取り掛かるため、魔法鞄から記述するための紙とペン、後はそれを書くのに必要な小さなテーブルと椅子を二脚出していた。
ここで座ってやるみたいだ。
「イベール、お前はヴィルと共同し薬になる素材の確保と、武具になる素材を別々にし保管。その全てを記載し報告しろ」
「御意」
フェリクス王はこの聖木が、どこに生えていたモノか調査する様だった。
執事長イベールは魔法省タール長官と協力し、解体や素材の保管と報告せよとの王命を受け、タール長官のいる黒狼宮へと消えた。
ーーバチン!
「いったぁい!!」
もう莉奈の頭は捥げそうである。
皆が素早く動く中、莉奈は何もせずボンヤリと突っ立っていたために、フェリクス王に叩かれていた。
「ボケッとしてんじゃねぇよ。お前もとっとと作業に移れ」
「え?」
「シュゼルの補佐に回れ」
「あ、えぇ!?」
シュゼル皇子と"お前"と言っていたが、お前とは自分の事だったのか。
莉奈は目を丸くしていた。
フェリクス王の言っていたのは、この竜の広場に置かれていく膨大な数の魔物の鑑定と検索、その全ての記載をしろとの事。
10や20なんてモノじゃない。ザッと見ただけでも100は軽く超える。
その全てを視て、紙に記述するのだ。莉奈は気が遠くなりそうだった。
「ぎょ、御意に?」
マジ? と言いたかったがフェリクス王に睨まれ、莉奈は渋々作業に移る事にした。
そうか、だからシュゼル皇子は椅子を二脚用意したのだ。
なんか、大事になってしまったなとボンヤリ考えながら、シュゼル皇子に書き方を教わる事にした。
ささっと終わる気はしないが、やらなきゃ首が飛ぶ。
シュゼル皇子はチラッと魔物の山を見て楽しそうに笑うと、莉奈に丁寧に説明をしてくれた。
「リナ、分かりましたか?」
「あ、え? はい」
要は【鑑定】や【検索】で視たまんまを記載すれば良い感じなので、読み書き出来れば莉奈でも出来そうだ。
だが、ホッとしたのも束の間だった。
「これだけの素材が運ばれて来るのであれば、そこに"カカオ豆"があるかもしれません。一緒に頑張りましょうね?」
「……え? あ……はい?」
……カカオ豆?
それって、この世界では"カカ王"とか呼ばれるカカオ豆の事ですか?
え? まだ探してたの?
シュゼル皇子の笑顔と記憶力……そして、執着に似た情熱が怖い。
カカオ豆の存在なんて、莉奈はとうの昔に忘れてた。
確かにこれだけ色々とあるのだから、可能性は大いにある。真珠姫がまた手に入れて、ここに置いているかもしれないし、なんかの拍子にポロッと漏らさないとも限らない。
うっわぁ、どうしよう。
カカオ豆があっても怖いが、それよりも……実は大分前に手にしていました、なんて知られたら?
色々な事を考えていたら、胃がキリキリしてきた莉奈なのであった。




