437 昼間に見える星も綺麗だな〜
「「「……」」」
泣き笑いをしながら、皆は朝から悪魔のパンをムシャムシャと食べていた。
一口も二口も今さら同じだ……と諦めたらしい。
「美味さの中に、罪悪感を感じる日が来るなんて」
「パンじゃなくて、リナが悪魔だ」
だが、食べる手を止められないと泣いていた。
ちなみに、そのパンは"罪悪のパン"とも呼ばれたりもする。
そんな皆を見ながら、莉奈は悪魔の様な笑みを浮かべていた。
「リナ」
皆の葛藤に笑みを浮かべていたのが、罰だったのだろうか?
音もなく現れた執事長イベールに、前触れもなく首根っこをガシリと掴まれた。
「え゙?」
不意を突かれた莉奈は目を丸くしつつ、何事だとイベールに問うが、氷の執事長様はいつも以上に無表情だった。
「な、な、何? え? えぇーーっ!?」
訳の分からないまま、莉奈はイベールにズルズルと引き摺られ、厨房を後にしたのであった。
莉奈、また何かやらかしたな?
皆は生暖かい目で見ていたが、すぐに切り替えた。
「さ、さぁ!! 皆、仕事だ仕事!!」
「そうだな。仕事だ!!」
「今日も1日頑張ろう!!」
料理人達は、イベールの様子にタダごとではないなと感じたが、自分達ではどうする事も出来ない。
むしろ、サボったりしてこちらに飛び火がこない事を祈るしかない。皆は、いつも以上に気合いを入れて作業に戻るのだった。
◇◇◇
抵抗するだけ無駄だと悟った莉奈は、人形のようにイベールに引き摺られて来た。
すれ違う人達が目を逸らす中、莉奈が連れて来られたのは【白竜宮】の一角にある竜の広場だった。
てっきりフェリクス王の執務室だと思っていた莉奈は、連れて来られた理由がいよいよ分からない。
そして、氷の執事長イベールは無抵抗の莉奈をポイッと地に捨てた。
「んぎゃ」
優しさも気遣いも全くない扱いが、いっそ清々しい。
「もぉ、なんなんですか?」
イベールに優しくされた方が恐ろしいと思いつつ、服を叩きながら立ち上がれば、莉奈の目の前に王族ブラザーズが……。
ーーあら?
「こんな朝から、どうか致しましたか?」
フェリクス王達がいるのだから、莉奈を呼んだのは彼等だろう。
だが、莉奈にはフェリクス王が何故、こんな早朝に自分を呼ぶのか分からなかった。
今さら過ぎるけど、乱れた服や髪を手で簡単に直す。
「どうかしましたか、じゃねぇんだよ」
「え?」
「コレは何だ?」
そう言ってフェリクス王が一歩横に移動すると、莉奈の視界が大きく開けた。
莉奈の目の前には、ネズミがいる遊園地と同じ敷地くらいの広大な竜の広場がある……ハズだった。
いや、敷地面積は変わらない。いつもは竜がのんびりと過ごす場所である。
だが、今は竜の代わりにそこを埋め尽くすくらいの"何か"が点々と、場所によればこんもりと山積みになっていたのだ。
ーーえ?
その異様な光景に、莉奈は口が半開きのまま固まった。
「なんですか? コレ?」
驚愕を通り越して、何をどう言っていいのかも分からない莉奈。
何故、自分が呼ばれたのだと、フェリクス王を見た。
「んぎゃぁ!! 痛いイタイ痛い!!」
「ソレをお前に、訊いてるんだろうが」
途端に、莉奈の頭を鷲掴みしたフェリクス王。
王に対して、質問を質問返しで答えるのは不敬である。しかし、フェリクス王の言動からして、その事を怒っている訳ではなさそうだった。
「リナ。お前、竜に何を言ったら、こんな大量に"魔物"を持って来るんだよ」
涙目になっている莉奈に呆れているエギエディルス皇子が、フェリクス王の代わりにもう一度訊いた。
そうなのだ。
現在、この広大な竜の広場には竜ではなく、動物園や水族館でも見た事もない生き物、いわゆる魔物がところ狭しと転がっていたのであった。
「し、知らないよ。そんな事」
見た者の話を聞けば、どうやら竜達が嬉々として魔物を討伐して、ここに運んで来ているらしかった。
だが、莉奈には何故、自分に聞かれるのかサッパリであった。
「あ゙ぁ?」
だが、莉奈のその返答にフェリクス王の目が眇んだ。
竜が何かする=莉奈の仕業。
その訳の分からない方程式が、すでにこの王城では当たり前になっていた。
なので、竜が何かをすれば、莉奈が絡んでいると誰しもが思っていた。
しかし、竜が何故こんな事をしているか分からない莉奈は、なんでもかんでも自分のせいにするなと、王族相手に猛抗議する。
「竜が何かするたびに、私が関与していると思われるのは心外です!!」
「ほぉ? なら、この惨状はお前は一切関与していないんだな?」
口端を上げ、フェリクス王が莉奈を軽く睨んだ瞬間ーー。
莉奈は何故か走馬灯の様に、この数日の出来事が思い浮かんですぐ消えた。
「いえ、ガッツリ関わっていると思われます!!」
ーーゴン!!
「関わってんじゃねぇか!!」
ピシリと敬礼して答えれば、莉奈の頭には、フェリクス王の失笑と拳が落ちてきた。
やっぱり誤解でもなんでもなく、お前のせいじゃないかと。
「……ん゙ぁ」
莉奈、あまりの痛さに悶絶である。
星って、夜じゃなくても見えるんですね?
莉奈は初めて、漫画に出てくる様な星空を朝早くに見たのだった。
◇◇◇
竜が魔物を集めて持って来る理由は簡単。
莉奈が美容液と引き換えにと言ったので、竜達は素直に自分が考える限りの"レアな素材"を探して持って来ているのだ。
莉奈が一頭につき1つと限定しなかったため、竜達はアレもコレもととりあえず採取、あるいは討伐して置いているのだろう。
期限は本日の夕刻。
元から闘争心が高い上に、やった事もない競争に面白がった竜達は、我が1番だと競いに競い合い、今、この広場にありったけを集めてしまった……という訳だ。
ただ、その量がちょっと? かなり? いや超が付く程に異常だというだけ。
そして、何も知らない者達は、見た事もないこの現状というか惨状に、唖然呆然としていたのである。
「「「……はぁ」」」
と莉奈が説明してみれば、王兄弟だけでなくイベールまでもが、深いため息を吐いていた。
呆れ過ぎて開いた口が塞がらない様子だった。




