431 ワタ和えと腸《ハラワタ》和えでは気分が違う
「イカの腸」
エドくん。内臓をハラワタとか言うのヤメてもらってイイかな?
途端に自分がゾンビか魔物の様に思えるから。
バーツとアーシェスの宴会はまだまだ続くだろうと思った莉奈は、夕食の時間になったので一応断りを入れて王族の食堂に来ていた。
そして、先にイカ尽くしを出したら、エギエディルス皇子が何だと見た後、徐々にお爺ちゃんみたいに顔を顰めた。
1度見ていたシュゼル皇子は良い笑顔を見せながら、完全に拒否の姿勢を見せたので、イカの塩辛もイカ尽くしも出していない。
「生のイカをイカの腸で和えたのか」
「そうです。陛下の方はホーニン酒を隠し味程度に混ぜております」
フェリクス王もハラワタとか言うし。
そこは濁して"ワタ"と言って欲しいなと、莉奈は思った。
すぐ近くで控えていた執事長イベールは、生のイカと内臓だと聞いて珍しく眉間がピクリと動いていた。
どうやら、イベールもイカの塩辛はダメの様だ。
「イベールさんにも後でーー」
「結構です」
「少しくらい」
「結構」
莉奈が2度勧めてみれば、無表情だが食い気味に拒否してきた。
なので、壁の隅で控えているラナ女官長達を見たら、返事の代わりに目を逸らされた。
あらま。イカの塩辛、大不評ですな。
「塩辛にはホーニン酒が良く合いますので、ライムを添えたホーニン酒"サムライ・ロック"をどうぞ」
いつまでも手を伸ばさないフェリクス王に、莉奈はススッとホーニン酒とイカの塩辛を勧めた。
サムライ・ロックは自分好みにライムを絞って入れてもらう様に、グラスの縁に刺してある。
「食わねぇ選択肢はねぇのかよ」
いつになく強く勧める莉奈に、フェリクス王は怒る素振りもなく笑っていた。
「口に合わないのでしたら、仕方ありませんが」
別に無理して食べてもらわなくとも構わないと、莉奈は一応言っておく。
だって、食事は楽しく美味しくがモットーだからね。
そう言ったら、フェリクス王は莉奈の影響で使う様になった箸で、イカの塩辛を器用に摘んだ。
「マジか」
兄が食べるつもりだと分かり、エギエディルス皇子が化け物でも見るかの様な表情をしていた。
エギエディルス皇子は見たくもないのか、早々に視界に入らない位置に寄せていたけど。
「……っ!」
フェリクス王は一口イカの塩辛を口にし一瞬瞠目した後、サムライ・ロックを口にし味わっていた。
「なるほど、イカの塩辛はホーニン酒だな」
そう言って口を綻ばせた所を見ると、イカの塩辛は大丈夫の様だ。
エギエディルス皇子はその言葉を聞いても、兄王をいつになく胡散臭げに見ているけどね。
フェリクス王がもう一口 口にすると、シュゼル皇子がほのほのと楽しそうにこう言った。
「兄上。イカには寄生虫がいるかもしれませんので、お気をつけ下さいね?」と。
口にしたタイミングで言う辺り、意地が悪い。
先程、意図せず莉奈にされた事がモヤッとしていて、兄王に鬱憤を晴らしたのかもしれない。
ラナ女官長達やイベールが、その瞬間に一歩下がった。寄生虫だけに反応した訳ではない。
事と次第では長弟と喧嘩か、あるいはコレを出した莉奈に叱責があるかもと想定したからである。
だが、フェリクス王は口の中のモノを吐き出す代わりに、何故か不敵な笑みを浮かべていた。
「お前、それで俺が怯むとでも思っているのか?」
「いいえ? イカには寄生虫がおりますので、念には念と注意を促しただけですよ?」
「ほぉ? わざわざ、コレを口にしたタイミングで?」
「たまたまですよ?」
ニコリと微笑むシュゼル皇子を見ていると、やはりワザと口にした瞬間を狙って言った気がする。
だが、フェリクス王は寄生虫の話を聞いてもなお、シュゼル皇子の様に固まらず、イカの塩辛とサムライ・ロックを嗜んでいた。
一向に動じない王。
動揺すると思っていたのに肩透かしを食らった宰相。
寄生虫と聞いて、ますますイカを退ける末っ子皇子。
奇妙な攻防が繰り広げられていた。
……が、出来れば自分のいない所でやって頂きたいと思うのは、莉奈だけであろうか?
「生き物には大抵、寄生虫がいるから別に気にしねぇ。俺はお前と違って"温室育ち"の皇子様じゃねぇしな?」
自分を揶揄った長弟に嫌味を1つ返すと、フェリクス王はイカの塩辛を食べられないシュゼル皇子に見せつける様に嗜んでいた。
「"温室育ち"」
その言葉に引っかかったのは何故かエギエディルス皇子だった。
次兄シュゼル皇子に言った言葉なのだが、まるで自分に言われたみたいな気がしたのだ。
しかし、言われたシュゼル皇子も珍しく、兄王の刺のある言い方にピクリと反応を見せていた。
温室育ちと言われ、何か思う所があるらしい。
シュゼル皇子が何か反論しようと素振りを見せたその時ーー。
変な所で強靭な精神を持つ莉奈が、首を傾げてポソリと呟いた。
「シュゼル殿下が"温室育ち"なら、陛下は冷蔵庫……いや、野生?」
ーーカン!!
「いったぁーーっい!!」
途端に莉奈の額に、ティースプーンが飛んで来た。
まさに口は災いの元である。
「「……野生」」
ーーカン!! カン!!
「いってぇーーっ!!」
「いったぁっ」
弟2人も思わず吹き出してしまい、莉奈同様にティースプーンが額に飛んで来たのは言うまでもなかった。
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