表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖女じゃなかったので、王宮でのんびりご飯を作ることにしました  作者: 神山 りお


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

425/676

425 知らない幸せってあるよね?



「バナナのフリッターですか」

 彼が警備兵のアンナの部屋にいたのなら驚きでしかないが、ここは魔法省の長官室である。

 今まで王宮以外であまり逢う事はなかったが、シュゼル皇子は宰相であり賢者と謳われる人物。そして、彼の住む場所はこの王城である。どこにいても不思議はなかった。

 でも、不意打ちではドキリとするけどね?

 そのシュゼル皇子は、今はバナナのフリッターに釘付けである。

「好みで、砂糖やハチミツをかけてお召し上がり下さい」

 小さなシュガーポットとミルクピッチャーに入れてあるハチミツを、テーブルの上にコトリと置いた。

「練乳は?」

「ハチミツの方が合うかと思いますけど」

 と莉奈は苦笑いしながら魔法鞄マジックバッグから、ミルクピッチャーに入った練乳を取り出した。

 ならばと、ついでに生クリームも出しておく。

 でも……莉奈の意見としては練乳は合わないと思う。

 バナナの優しい甘さが、練乳のガツンとした甘さに負ける気がする。生クリームは揚げたてのバナナフリッターの熱でダレちゃって、莉奈的には好みではなかった。



「ぁ」

 そんな事を考えていたら、生クリームより合うトッピングを思い出した。

「あ? なんですか?」

 シュゼル皇子の爽やかな笑顔が、莉奈を照らした。

「アイスクーー」

「下さい」

 うん。絶対言うと思っていたよ。

 このアイスクリーム皇子が。



「揚げたてのバナナフリッターに、冷たいアイスクリーム……口の中で新鮮な出会いをしていますね」

 シュゼル皇子はさっそく、バナナフリッターにアイスクリームを少しのせ口に頬張った。

 アイスクリームが甘くて冷たいと思った直後に熱いバナナフリッター。

 冷たいアイスクリームは口で溶ける速度が上がり、口の中でバナナと結び合う。サクふわのフリッターがアクセントとなって、不思議で楽しい食感だった。

「熱い物と冷たい物が口の中に……面白くて美味しい」

 タール長官も口を綻ばせていた。



「デザートの後にと、思いますが……イカのフリッターもどうぞ」

 シュゼル皇子がいなければ、イカから出したのだが、眼力というか圧力に負けたのだ。

 本来の目的のイカ料理を出す事にする。

「「デビルフィッシュ」」

 シュゼル皇子とタール長官の声が、綺麗にハモった。

 しかし、2人の顔は少し違う。シュゼル皇子はバナナフリッター程の笑顔ではなく、タール長官は興味津々の表情だ。

 ゲテモノ……珍味好きのタール長官はともかく、甘味しか興味のないシュゼル皇子も皿に手を伸ばしていた。

 料理人達の様に調理前の姿を見ていないおかげか、タコで免疫が付いたのかもしれない。

「甘い」

 とシュゼル皇子の目が少しだけ、驚いた様子に見えた。

 イカがこんなにも甘いとは想像していなかったのだろう。

「タコより弾力はありませんが、だからこそ歯切れが良くて甘くて美味しいですね」

 タール長官はバナナのフリッターより、満足そうである。



「イカは生でも美味しいですよ?」

 莉奈は次にイカの刺身をテーブルに置いた。

「「生」」

 イカの刺身を前に、2人は一瞬時を止めていた。

 この国では、魚介類をあまり生で食べない。それが、王族や貴族なら尚更の事らしい。

 生食であたる事もあるからだ。

 魚はもちろん肉にしても生食は毒の様に恐ろしいと、避ける人も少なくないとか。

「生のタコと違って、生のイカは透明なんですね?」

 だが、タール長官は気にしない様である。

 じっくりと見ていた。

「そうですね。透明であるのが、鮮度が高い証拠です」

 時間が経つと白く濁ってくるのが、イカである。

 肉や魚は腐りかけが美味しいなんて言う人もいるけど、イカの腐りかけなんてヤバそうだよね?

「そのままでも甘くて美味しいですけど、醤油とかホースラディッシュを付けて食べるのもオススメです」

 莉奈は小皿と、醤油と下ろしておいたホースラディッシュを出した。

 生姜が1番なんだろうけど、ワサビに似てるし違和感なく合う。



「ん! タコとは違った不思議な食感。なんでしょうか、この説明し難い……イカが甘いなんて想像もしませんでした」

 タール長官はイカの刺身が気に入ったのか、醤油を付けたりホースラディッシュを付けたり味わっていた。

 一方、シュゼル皇子は微妙な表情でイカを見ていた。

「刺身……えっと、生は苦手ですか?」

 タコはからあげにして火を通したので、そこまで抵抗はなかったのだろう。

 タコのカルパッチョは、皆がからあげで平らげたためにまだ出してなかった。

「抵抗がないと言えば嘘になりますね。ところで"刺身"とは?」

「え? あぁ、魚介類に火を通さず、そのまま生で出す料理は"刺身"って言うんですよ」

「なるほど。刺身はリナの世界では普通なのですか?」

「え〜と、私の世界がと言うより、私の生まれた国がそういう食文化なんですよ。今は世界でも広がってますけど」

 確かに、今は寿司とか世界中で食べられるけど、当初は他国でも魚を生で食べるなんて、と抵抗があった様な気がする。

 以前は魚介類を生なんて、一部の国や地域限定だったからね。



 シュゼル皇子は、イカの刺身を器用に箸で摘んでいた。

 莉奈が良く箸を使うので、興味があったシュゼル皇子は使い方を教わると、すぐに取得したのだ。

「何故、細長く切るのでしょう?」

「……さぁ?」

 食べ易いからと言いたいけど、食べ易くでいいなら一口大で全然いいハズ。

 考えた事もないなと、莉奈は首を傾げていた。

 切ると甘みが引き立つとか、食感が良いからとか耳にした事はあるけど、たぶんーー。

「寄生虫を切り刻むためじゃないかな?」

 莉奈はなんとなく答えに行き着き、ボソリと呟いた。

 大抵の生き物には寄生虫がいる。それに漏れる事なく、イカにも寄生虫がいる。

 莉奈も小さい時に、母が魚屋で買って来たイカの身の中でウネウネと蠢く"寄生虫"を見た事があった。

 そうだ、思い出した。その時、父が言っていた気がする。

 食感もそうだけど、目視だけで確認出来ない"寄生虫"を切り刻むために、細長く切るんだと。




 ーーブッ。




 再びイカを口にしていたタール長官と、今まさに口にしたシュゼル皇子が仲良く吹き出していた。





「あれ? 聞こえました?」

 それは切る時にちゃんと確認したから大丈夫ですよ?













評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ