424 なんか、閉めちゃうよね?
「リナ、何してるの?」
莉奈が再び何かし始めれば、興味津々とばかりに覗いている。
食材がデビルフィッシュでなければ、表情は明るいのだから笑ってしまう。魔物は食べられる様になってきたのに、デビルフィッシュはまだダメですか。
「ん? ついでに、エドが好きな海老もフリッターにしようかと思ってね」
どうせ食べたければ、この海老の様に処理するだろうと考えながら、莉奈は冷蔵庫にあった海老の殻を剥き始めた。
もちろん、背腸も忘れずに取る。ジャリッとして食感を悪くさせるからね。
ただ、海老フライみたいに筋切りはしない。丸くなってもコレは構わないからだ。
「海老なら手伝うよ」
と料理人達が言うものだから、現金である。
ならば、その勢いでコレもと莉奈がイカをスッと出して見せれば、ススッと潮が引いたみたいに後退した。
もう、笑うしかない。
今度こそ諦めて、海老を手伝ってもらう事にした。
「誰か、卵白に塩を少し入れてメレンゲを作ってくれる?」
「分かった〜」
「アレ? さっきメレンゲなんか使ったっけ?」
海老の殻を剥き始めた料理人が、首を傾げていた。
イカのフリッターの時には、メレンゲを使わなかったからだ。
「どうせなら、違う方法でフリッターにしようかなと」
フリッターと一口に言っても、他の料理同様でやり方作り方は様々である。
王宮は大人数がいるし、違う方法でやっても無駄にならないからイイよね。家庭なら、こんなに色々な方法は出来ない。
「ボウルに小麦粉、片栗粉、水を入れて良く混ぜ合わせる。そこに、別のボウルに塩を入れて泡立てたメレンゲを、2回に分けて加えて、ふんわりと混ぜれば衣の出来上がり」
「なんか、スポンジケーキ作りに似てるね」
「だね。ちなみに海老の代わりにバナナを使うと、お菓子になるよ?」
家では、ホットケーキミックスの粉で作っていた。
でも、この衣は甘くないから、砂糖とかハチミツとか後がけして食べたい。まぁ、1番合うのはチョコレートソースだよね。
シュゼル皇子に出す時は、口を滑らさぬ様に気をつけなきゃ。だって、さすがに忘れてくれているかもしれない。
そんな事を考えながら、莉奈が2人の皇子のために作ろうと衣をもう1つのボウルに取り分けていたら、隣でせっせとバナナを輪切りにしている人がいた。
「早っ!!」
食べたい物に関しては、行動が早い。
莉奈は笑ってしまった。
期待しかない表情で輪切りのバナナをもらった莉奈は、海老のついでに揚げた。
だって、エギエディルス皇子は……いや、シュゼル皇子が喜ぶだろうからね。
カラッと揚がったバナナのフリッターには、チョコソースがないのでハチミツをかけてみた。
「エビにはマヨネーズが合う」
常備してあるマヨネーズを冷蔵庫から出してもらって、別添えにする。
タルタルソースが1番だけど、マヨネーズ好きはマヨネーズで試食だ。莉奈は今、塩気分なので塩にしたけど。
「海老、プリップリ」
莉奈は海老のフリッターに、思わず口が緩む。
揚げたては格別だよね。
衣はカリッふわ、海老はプリッである。
「海老のフリッター、美味しい!」
「メレンゲって、お菓子だけじゃないのね」
「海老はおかず、バナナだとお菓子だぞ!?」
「同じ衣なのにこんなにも違うんだな。他の食材でやるとどうなるんだろう?」
「マンゴーがあるから、それでやってみようよ!」
料理人達はエビやバナナのフリッターを食べた後、他の食材も試すつもりの様である。
魚介類は失敗はないと思うけど、果物は選ばないと美味しくないと思う。まぁ、失敗しても莉奈が食べる訳じゃないからイイけど。
莉奈は試食を終えると「頑張ってね」と皆に言って、魔法省のタール長官の執務室へ向かったのであった。
◇◇◇
ーーバタン。
莉奈はノックをして、タール長官のいる執務室に入ろうとしたのだが、そこに予想外の人物の姿が見えて思わず扉を閉めてしまった。
相手に失礼どころか不敬過ぎる行動だが、もはや条件反射というヤツである。
閉めたら余計に開けづらいのだけど、もはやそんな事を考える暇もなく閉めてしまった。
逃げた所でさらに怪しまれるし、どうしようかと扉を背にして莉奈が考えていると、背後の扉がゆっくり開いた。
「リ〜ナ?」
ほのほのとしたシュゼル皇子がそこにいた。
笑顔って、皆を幸せにするモノだと誰が言い始めたんだろう?
シュゼル皇子の笑顔は、時に恐怖を感じるんですけど。
「申し訳ありません。いらっしゃると思わなかったので、つい?」
「つい?」
つい、何なのだとシュゼル皇子のにこやかで薄黒い笑顔が、莉奈の身体をさらに突き刺していた。
人の顔を見て"つい"逃げるとは、どういう理由があるのだと。
莉奈はチョコレートの事が頭を掠めた……とは言えず、愚策過ぎる言い訳を口にした。
「殿下のご尊顔が、あまりにも眩しかったので……」
ホホホのホと、口元を押さえて渾身の笑顔で答えてみれば、シュゼル皇子の手が莉奈の頬を捉えた。
「そうですか? では、ゆっくりと堪能して下さい」
「ふぇ?」
まさかの返しに、莉奈は固まった。
目の前にシュゼル皇子の美貌があるのだから。
シュゼル皇子に言わせれば、莉奈の挙動など分かり易く可愛いモノだった。
侍女なら多々あるが、莉奈が自分に見惚れる姿はほとんどない。
なのに、こう言うのだから、何か思う所があるに違いないとシュゼル皇子は即座に感じ取っていた。
だが、莉奈が自分に隠す企みや思う事など些細な事が多い。だから、逆に揶揄ったのである。
そんな事など露知らず、シュゼル皇子からの渾身の笑顔で返された莉奈は、今度は違う意味で心拍数が爆上がりであった。
香水とは違う、ふわりと擽る甘美な香り。
耳に心地良い美声。
そして、甘い笑顔。
莉奈は腰が抜けそうな身体に、喝を入れてこう返した。
「お、お菓子、食べますか?」
ーーぷっ。
シュゼル皇子の目が点になるのと同時くらいに、笑い声が聞こえた。
シュゼル皇子の背後で、タール長官が思わず吹き出したのだ。
第三者の視点から見たら、2人は見つめ合う恋人の様なのに「お菓子食べますか?」である。莉奈にしたら、一生懸命恥ずかしさを誤魔化すために考えて言った言葉なのだろうが、斜め上過ぎてシュゼル皇子からも笑いが漏れたのであった。




