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聖女じゃなかったので、王宮でのんびりご飯を作ることにしました  作者: 神山 りお


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421 八角は六角か七角だと思っていた



「リナ? まだ何か作るのか?」

 莉奈が冷蔵庫から鶏肉こと、ロックバードのムネ肉を取り出し始めたのを見た皆が、俄かに騒めく。

「エドの好きな からあげを作ろうかと思ってね?」

「あぁ、それはいいな」

 エギエディルス皇子はからあげ大好きっ子だからね。

 フェリクス王も肉好きだし、一石二鳥である。





 ーーバンバンバン。




 厨房に異様な音が響き始めた。

「お前……何をやってるんだよ」

 マテウス副料理長が頬を引き攣らせていた。

 莉奈がロックバードのムネ肉に切り込みを入れたと思ったら、今度は何故か小さな片手鍋の底を使って、徐に肉を叩き始めたからだ。

 からあげを作ると言っていたハズなのに、莉奈がどういう理由で叩いているのか分からない皆は、ドン引きである。

「鶏肉を平たく伸ばしてる」

 麺棒がないから鍋底を使っているだけ。ワイン瓶だと割れるかもしれないから。

 家でやっていたら絶対に怒られるだろうけど、ここは意外にもフリーダムだ。呆気に取られているとも言うが。

「え? からあげってそんな作業あったの?」

「ないよ」

 ラナ女官長が目を見張っていたら、リック料理長が苦笑いしていた。

 普段料理を作らないラナ女官長からしたら、これも必要な作業だと言われたら納得しそうだった。




「あ」

「「「あ?」」」

 急に作業を止めた莉奈に、皆も手を止めた。

「リックさん、後やっといて?」

 莉奈は1枚だけ鶏肉を平たく伸ばすと、叩いていた片手鍋をリック料理長に手渡したのだ。

 リック料理長は咄嗟に片手鍋を受け取りつつ、頭の中はハテナマークが浮かんでいた。

「へ? やっといて? え? 何を?」

「鶏肉をこんな風に、平たくしといて?」

「しといてはイイけど、お前はどこに行くんだ?」

「材料を探して来る」

「は? あ、オイッ!?」

 莉奈はそう言うが早いか、リック料理長に後は丸投げして厨房から出て行ったのであった。

 リック料理長、片手鍋を持ち唖然である。

 説明という説明もなしに、莉奈は消えたのだ。



「材料を探して来るって……どこに?」

 隣にいたラナ女官長も唖然としていた。

 大抵の物は、この厨房にあるハズ。なのに、今から探すと厨房を出る意味が分からない。

「リナの事だから、隠し調味料として虫でも捕りに行ってる。グフ」

 まだそこにいたサリーが、面白そうに笑っていた。



「「「虫」」」

 そんな訳があるハズがない……と強く否定出来ないのは何故だろう。

 まさかと思いつつ、少し不安になる皆なのであった。




 ◇◇◇




 そんな疑いをかけられていると思ってもいない莉奈は、転移の間を使って【黒狼宮こくろうきゅう】に来ていた。

 香辛料やハーブ系は銀海宮の厨房より、黒狼宮の方が断然豊富だからだ。

 最近は、どの宮も基本的には同じメニューが出る事が多いが、以前は宮ごとに違った。軍部の白竜宮は肉を使った料理が多かったし、ここの黒狼宮は野菜系が多かった。

 今も、他と同じメニューに加え、野菜多めの料理やハーブ系の料理がプラスで選べるのである。



「あ、リナだ」

「どうしたの?」

 調合室の皆に挨拶をすると、莉奈は調合室の奥にある薬の棚に歩み寄った。

 以前、ローヤルゼリーを作った時に入って見たら、薬としても使う香辛料がかなり豊富に取り揃えてあったからだ。



「何探してるの?」

 莉奈がキョロキョロしていたら、研究員らしき人が訊いてきた。

「う〜ん。花椒ホアジャオ、クローブ、シナモン……えっと、八角、フェンネル、陳皮ちんぴ?」

 莉奈は思い出し指を折りながら、欲しい香辛料の名前を口に出す。

 とりあえず、目の前にシナモンがあった。全種類は無理だと思うけど、何種類かは欲しいところだ。

「リナ……もう、ウチに来なよ」

 自分より遥かに料理や香辛料にも詳しい莉奈に、唖然となり呟いた。

 知らない香辛料の名前もあるし、興味がある。もっと詳しく知りたいなと、一緒に探しながら研究員は思ったのだ。



「粉がいいの? そのまま?」

「粉」

 莉奈の欲しい香辛料を、いつも使っている研究員がサクッと見つけ、小さな作業台の上に次々と用意してくれた。

 一緒に探しながらも、半分は面白いなと香辛料の棚を見ていた莉奈は、とある麻袋に目が止まる。

「スターアニス?」

 袋に入っていた"スターアニス"なる物を見つけ、思わず手に取った。

 何だろうと袋を開けて見れば、乾燥している茶色の小さな花がたくさん入っていた。8枚の花弁を持った星みたいな花で、なんだか可愛い。

 それを見て莉奈はアレ? と瞬きした。それが莉奈の知っている香辛料の"八角"と同じに見えたのだ。




 【スターアニス】

 キュウシキミはマツブサブサ科のシキミ属に属する常緑性高木の1種であり、芳香を持つ。


 〈用途〉

 その果実はスターアニスと呼ばれ、とある世界では大茴香 、八角と呼ばれる。

 果実を乾燥させた物は、香辛料や香料として使用出来る。


 〈その他〉

 食用だが、美味しくない。

 粉末は胃腸薬。マナの葉やポーションと混ぜると風邪薬となる。




 思わずスターアニスに【鑑定】を使った莉奈は目を見張った。

「……八角じゃん」

 八角は八角としか呼んだ事はないので、八角は八角だと思っていた。

 いや、この世界にあったとしても異世界の事だから、七角とか六角とか微妙な違いくらいだと勝手に思っていた。

 なのに"スターアニス"。なんだよ、カッコいいじゃないか。

 でも、考えてみれば醤油も大豆製品ではなく"ユショウ・ソイ"という名の木の実だったのだから、八角も当然こちらの名や形であってもおかしくなかったのだ。

 常識が通じないと知ったハズなのに、つい莉奈の常識で探してしまっていた。

 しかも、莉奈がずっと花っぽいから花だと思い込んでいた八角が、実は果実だった事に、2度驚いていたのである。

 こっちの世界だから……ではなく、鑑定の表示を見る限り八角は果実なのだろう。

 少し知っただけで知ったつもりになっていたけど、勘違いや思い違いをしていた事もあったのかもしれない。

 莉奈は、勉強不足だなと反省していた。



「リナ?」

「え、あ、ごめん。ありがとう」

 話し掛けられ我に返った莉奈は、探してくれた研究員に慌ててお礼を言った。

 ……となるとだが、当然"陳皮"も違う名称で存在する可能性があったのかもしれない。

 そう思って再び棚を見た莉奈は、すぐに遠い目をして諦めた。

 薬草棚は壁一面にあるのだ。棚以外の引き出しや、麻袋に入っているのも含めたら、実に膨大である。目を酷使する以前に、面倒くさいなと諦めたのだった。



 結果、あったのはクローブ、シナモン、フェンネル、八角ことスターアニス。

 なければないで、シナモン、クローブ、ナツメグで代用しようと思っていたのだけど、これだけあるのだ。代用品は必要ないだろう。

 ちなみに、莉奈は気付いていないが"陳皮"とは乾燥させた蜜柑の皮の事。生薬として使われる事もあるので、探せばあったかもしれない。







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