420 辣油はラー油でイイ!!
「結局、その赤い油は何なの?」
難を逃れていたラナ女官長が、苦笑いしながら莉奈に歩み寄ってきた。
何が起きるか分からない時は、やらかす莉奈の側にいた方が逆に安全な場合もあるからだ。
「辣油」
「ラーユ?」
「ピリ辛の調味料」
酢が入っているタバスコより、ラー油の方が舌にガツンと刺激が来る気がする。
ラー油が入ると一気に中華な気分になるよね。
「タバスコとは違うのね」
「うん。タバスコみたいにお酢は入れたりしないね」
そう説明していて、莉奈はフと気になった事がある。
「そういえば、タバスコって、ハバチョロとかペッパーZから作ってるって聞いた事があるけど、なんでタバスコっていうの?」
あっちの世界では、タバスコは"チレ・タバスコ"っていう、唐辛子の一種を使った調味料だからタバスコと、名がついた様な話を聞いた事がある。
なら、この世界でもタバスコという唐辛子は存在するのだろうか? と素直に疑問を感じたのだ。
「さぁ?」
とラナ女官長が首を傾げていたら、リック料理長が代わりに教えてくれた。
「"タバスコ"が作ったから」
「え?」
「ハバチョロ農家のバス・タバスコが考案したから、タバスコと呼ばれる様になったって耳にした事がある」
「バス・タバスコ……」
なんだ、それ。
サンドウィッチ伯爵みたいなノリだった。
あっちと同じ物だけど、由来が違うのは面白い。
「ソレもリナが"ラー油"と言わなければ、リナ油とか呼ばれる。グフッ」
厨房を出禁になってしまった侍女サリーが、カウンター越しにこちらを覗いてグフリとイヤな笑みを浮かべていた。
バス・タバスコやサンドウィッチ伯爵の例を考えれば、あり得ない事もない……が。
ーーリナ油。
ものスゴく嫌なネーミングである。
「リナ……油」
ラナ女官長が、顔を逸らして笑いを堪えていた。
「「「ぷっ」」」
黙っていた皆も、堪らず失笑していた。
リナ油がツボにハマった様である。
「もう、餃子あげないよ!?」
チラチラ莉奈を見ながら笑うものだから、莉奈は抗議するのだった。
◇◇◇
餃子のつけダレは醤油のみ、醤油にお酢を入れた物、そこにラー油を足した3種類をとりあえず用意した。
家では酢胡椒一択だったけど。お酢が真っ黒になるくらい胡椒を入れて、餃子に浸けるのがものスゴく美味しい。
お酢で口がサッパリするし、胡椒がピリッとしてアクセントになるから、次々と餃子に手が伸びた。真っ黒になるまで胡椒を入れても、辛さを感じないのが不思議。
「餃子旨っ!!」
「中の肉汁がスゴく美味しい」
「皮がパリッモチって、たまらん」
「モチモチしてイイよね」
「羽根がパリパリしてて、香ばしくて美味しい」
「醤油? 塩と違って、この独特な風味が美味しいよね」
はふはふしながら皆で焼き立ての餃子を突けば、初めての餃子はあっという間に皿からなくなった。
リリアンは、次から次へと素早く手を伸ばして口に放り込んでいたから、人の倍は食べていた気がするけど。
皆にお伺いも立てない勇気ってスゴいよね。
「ラー油の辛さと香りがいいな」
「辛味がいいわね」
リック料理長は奥さんのラナ女官長と仲良く、餃子も調味料も味わっていた。
食感や風味、色々と考えおさらいしながら食べていたみたいだ。
「白飯が食べたい」
そんな皆を見ながら、莉奈はポツリと呟いた。
タレを多めにつけた餃子を、白飯の上にチョンチョンと置いてから、口にかっ込みたい。
そもそも一つじゃ物足りないけど。
「ご飯か」
リック料理長が莉奈の呟きを拾っていた。
想像したのか、確かに合いそうだとリック料理長も頷いていた。
「だけど、皮を作る作業も……」
「……この肉詰め作業は大変だよな」
美味しいと食べていた料理人達は、食べ終わるとポツリと呟いた。
餃子が皿からなくなると、悲しい現実に向き合い始めたのである。
挽肉を作る作業も、皮を作る作業も大変だが、最後に待ってるのはこの包む作業だ。
なれない上に、それなりの個数を作らないといけない。
味見ではないのだから、1人一個なんて訳にはいかないだろう。
「え? 私は陛下達の分しか作らないよ?」
皆が悲壮感漂う目で訴えてきたので、莉奈はハッキリ断った。
家で作る時は、弟と仲良く作業したけど、それだって何時間もかかったのだ。家族の分でもそうなのに、皆の分なんてゾッとする。
「「「リ〜ナ〜」」」
皆の縋る様な声が響くのであった。




