42 ジャンケン
夕食を持った、イベール、エギエディルス皇子が厨房から去ると、にわかにざわめき始める。
イベールのいた、妙な緊張感から解き放たれたせいか……目の前に残る甘味の甘い誘惑か。
「リナ……残りのプリンとかどうするの?」
ハイエナこと、モニカがニコニコと訊いてきた。
正直、振り返りたくない。
だって……モニカだけじゃないでしょ? そう思ってるの。
ちなみに、プリンは7個出来て、エギエディルス皇子、シュゼル皇子、イベールが持っていき……残り4個。
フレンチトーストは焼いてないのが5個。
ここにいるのは、数えてないけど約20人。
圧倒的に足りない……。
……そして、作る気力もない。
「ジャンケンって知ってる?」
莉奈は、おもむろに訊いた。作る気力がない以上どうにかする方法はこれしかないだろう。だってこの人達、譲り合うって言葉知らないみたいだし。
「……なんでしょうか?」
ラナ女官長が、首を傾げた。皆も知らないのか頭に "ハテナ" が見える。
「……ジャンケンっていうのは…………」
莉奈は、皆に説明する。パーはグーに勝ち、グーはチョキに勝ち、チョキはパーに勝つ……と。一応分かるまで説明すると頷いた。
「……じゃ……そういう事で……」
莉奈は、1つプリンを手に持つと、いつものスープをよそい、いつもの固いパンをトレーに乗せ、隣の食堂へと向かった。
一体何がそういう事なのか、分からないモニカ達は莉奈がする事を逐一見ていた。そして食堂へ向かう姿に眉宇を寄せる。
「え?……ちょっとリナ~?」
「何がそういう事なんだ?」
放置されると思わなかったラナ女官長とリック料理長が、ほぼ同時に訊いた。どういう事ですか? と。
「今、ジャンケン教えたでしょう?」
「……う……ん?」
「その残り食べたい人は、ジャンケンして勝った人が食べて」
面倒くさいので、丸投げした。今日はもう作りたくないし、熱意は冷めた。またそのうち……。
「「「えーーーーーーーー!?」」」
長い長いブーイングが厨房に響き渡る。まさかの丸投げに驚愕していた。ひょっとしたら……何かしらまだ作ってくれるかも、と期待していたようだ。
「食べたきゃ、ジャンケンに勝て!! 以上」
莉奈は、面倒くさいので半ばブーイングを無視して、黙々といつものご飯を食べ始めた。勿論プリンは最後に取っておく。
残された者の、プリン、フレンチトースト争奪戦が隣で繰り広げられるのを傍観しながら、ゆっくりと夕食を楽しむ事にした。
「リックさんは、さっきカリカリチーズ食べたからいいとして……」
と、誰かが言った一言で争奪戦が始まった。
「んな訳あるかーーー!! あんなのちょっとだろう!?」
「でも、食べたのは食べた……ですよね?」
「違う!!……っていうか! ジャンケンしろってリナも言っただろう!?」
「ボスは、譲るものだと思いま~~~す」
「アホかーーー!! そんな事をいうなら、料理長として味を知っておく必要があるだろう!?」
「「「聞こえませ~~~ん」」」
「…………なぁっ!?」
わーわーと騒ぐ厨房を横目に……莉奈は、楽しそうだなぁ~と空笑いしながら、スープを啜るのであった。