403 王竜と莉奈
「野竜なんて、俺初めて見たかも」
「野竜どころか、あんなに竜がいた事に驚きなんですけど!?」
「だよな。竜って、数が少ないって聞いてたけど結構いたのな」
「私、白竜宮を壊されるかと思った」
「あたしなんて、足がまだガクガクしてるし」
「何でリナは平気なの!?」
「いや、ていうかなんで、そこら中の竜が集まってたんだよ?」
「「「それな!!」」」
興奮冷めやらぬ白竜宮の人達は、仕事も忘れて雑談をしていた。
何か話していないと、興奮し過ぎて落ち着かないからである。
「いいから、お前達……仕事に戻れ」
「「「はい」」」
上司に言われ、騒いでいた人達は後ろ髪を引かれる思いで仕事に戻るのであった。
一方。竜の広場ではーー。
爪をキラッキラにしてもらい、美味しいご飯まで貰ったエギエディルス皇子の竜は、至極ご満悦な表情で「ピュルル〜」と鳴き、散歩に向かって行こうとしていた。
「エドの竜、かわゆす」
ルンルンとスキップでもしている様に、莉奈から距離を取って地を蹴り上げた小竜。
空を飛びながら鼻歌でも歌っているのか、楽しそうな鳴き声がしばらく小さく聴こえていた。
歓喜の声まで聴けた莉奈も、ご満悦である。
小竜のためにもっと可愛い飾り切りを覚えなくては、と莉奈は白竜宮に足を向けた。
辺りに竜がいなくなると、この広場が途端に広く感じる。
その広大な広場に、ポツンと1人でいると無性に寂しい。世界に自分だけしかいない様な気分に駆られた。
『ヤレヤレ、やっと静かになりおったわ』
頭上から声が降って来たと思ったら、軽い砂埃を立てて、莉奈の背後に王竜が舞い降りて来た。
そういえば、先程の集まりに王竜はいなかったなと莉奈は今、気付いた。騒がしかったので、どこかで静観していた様だ。
「あ!! 足に美容液を勝手に塗ってすみませんでした」
そうだ。そんな暢気な感想を漏らしている場合ではなかったと、莉奈は慌てて王竜に頭を下げた。
勝手な事をした結果がコレなのだ。王竜には1番に謝罪しなければならない。
「ハハハッ!!」
だが、王竜はされた事を怒るどころか、逆に豪快に笑い飛ばしていた。
「気付かぬ我がマヌケだったという事よ。気にするでない」
危害を加える気だったら気付いただろう。
だが、まさか自分に、美容液なる物を塗るなんて想定もしていなかった。元よりおかしな行動を取る莉奈だから、少しばかり言動がおかしくても"リナ"だからと気にも留めなかったのである。
「まぁ、太腿では少々カッコがつかんがな」
塗られた事より、光る部位が気に入らない様子の王竜。
自分の左脚を見て、少しだけ不服そうな声を出す。
「よろしければどこかお詫びに、違う場所を塗りましょうか?」
なら、お詫びも兼ねて、満足する部位に改めて塗ってあげようかなと、莉奈は思い立つ。
「よいのか?」
「構いませんよ? 迷惑を掛けたのは私ですし。いつもお世話になってますし」
お伺いを立ててきた王竜に、莉奈は快諾した。
自分とは言わず迷惑かけているのは確かだし、どうせなら王竜の好きな所に塗ってあげたいからね。
「うむ。なら、どこかに……」
王竜はそう言うと、翼を広げたり手を見たりしていた。
どこに美容液を塗ってもらうか、吟味しているのか真剣だ。
「爪なんか良いと思いますよ?」
エドの竜は手の爪に塗ってあげたら、ものスゴく喜んでくれた。王竜はどうだろう。
「爪か」
王竜は莉奈にそう勧められ、自分の右手〈右前足〉を見た。
しばらく考えた後、王竜はうむと決めた様子で呟いた。
「あぁ、そうだ。ならば我の宿舎に、目印として飾っている鱗を綺麗に磨いておいてくれ」
「え?」
「良く考えたら、自分が綺麗になる必要性が見出せん。部屋に置いてある物で十分だ」
さすが王竜と感服すれば良いのだろうか。
光り物が好きな竜でも、冷静に考えたら自分である必要はないと思ったらしい。
まぁ、王竜らしい判断だなと頷く一方で、やっぱり王竜も光り物好きなんだなと苦笑いする。
「わかりました。丁寧にかつ綺麗に磨かせて頂きます」
ついでに、部屋の掃除もしておこうと莉奈は考えた。
「うむ。礼と言ってはなんだが、部屋にいくつか木の実が転がっていたハズ。欲しければ勝手に持って行くがいい」
「え? 木の実ですか?」
「そうだ。独特な風味のある木の実でな。人はまったく食わんようだが、たまに塩味が欲しい時に食っているのだ。興味があるなら持っていくといい」
「ありがとうございます」
もちろん、鑑定を使える王竜は人にも害はないと、理解した上で莉奈に勧めたのだ。
誰も見向きもしない木の実でも、お前ならば存外料理に活かせるだろうと。
それを聞き、どんな木の実だろうと、莉奈は少しだけワクワクしていた。
「あぁ、ただ」
王竜は空に羽ばたこうとして、思い出した様に振り返った。
「木の実の外皮はやたら硬い。頑張って割れ」
「え? あ、はい」
そう言って小さく笑った王竜は、軽やかに地を蹴り空に溶けて行ったのであった。
王竜がそこまで言うのだから、ものスゴく硬いのだろう。
それが原因で、人は食べないのかもなと、王竜は笑っていた。
どれくらい硬いのかな? と考えながら宿舎に向かう莉奈なのであった。
◇作者のひとりごと◇
この間、何も考えずにお茶を飲もうとしたら、口を開け忘れてお茶を溢した神山です。:(;゛゜'ω゜'):う、うそぉ
何も考えないにも程があるなと、思いました。_| ̄|○ 〈ガックリ
誤字脱字の報告、ありがとうございます。^ - ^




