400 迷彩柄
とりあえず、1時間くらいしたら竜の広場に行くと伝え、莉奈はいつも通り銀海宮の厨房に向かった。
「リナ、お前の番がさっき来たよ」
おはようと厨房に入れば、近くにいた料理人からそう言われた。
どうやら、あの2頭は先にココに来た様だった。
「心臓が止まるかと思った」
「竜と喋ったの初めてだし」
「今もちょっとドキドキしてる」
莉奈は苦笑いするしかない。
いる場所を問われたのか、一部の料理人が興奮した様子で話していた。
あのコンビが、莉奈のおかげか莉奈のせいでチョイチョイ来る様になったから、怖いものの少しは慣れたみたいである。
「あ、そうだ。糠漬けモドキの野菜クズを捨てなきゃ」
すっかり忘れる所だった。
莉奈はいそいそと、端にある莉奈専用の冷蔵庫を開けた。
莉奈が色々と作れる様にと、一部スペースを開けてくれたのである。
「うん? ずいぶん白いけど、これは正解なのかな?」
鍋で作ったパンの糠床モドキは、それらしく見える? けど。
本来の糠漬けは、糠そのものの色だから黄土色。育てれば、少し茶色にはなるけれど。コレは白っぽい。
初めてだから、何が正解かも分からない。
「ま、いっか」
どうにかなるだろうと、考えるのをやめた莉奈は、野菜クズをゴミ箱に捨て、コレに漬ける野菜を何にするか食料庫を見に行く事にした。
「ニンジン、ニンジン」
定番のニンジン、大根、キュウリ辺りがいいかなと探していると、チラッと光る何かが見えた。
天井に魔石が埋まっていたのだ。色は水色っぽいから水か氷の魔石だろう。
あるとは知っていたが、上など見る事はなかったので気付かなかった。
「上がどうしたんだい?」
付いて来ていたリック料理長が、莉奈と同じ様に見上げた。
「え? あそこに魔石が埋まっているなと」
「あぁ、氷の魔石」
「そっか、氷なんだ」
魔法鞄も活用してはいるけど、毎日使うと鞄が傷む。皆が使い易い様に、ココを大きな冷蔵庫にしていると聞いた事がある。
見て料理を考える時もあるから、必要なのだと教えてくれた。
なるほど、氷の魔法が活用されていたのか。
「魔法鞄がなかったら、ひょっとしたら冷凍庫もあったのかもしれないね」
魔法の鞄があるから腐らない。氷が欲しい時は魔法で作れるから、冷凍庫は必要なかったのである。
「あぁ、なるほど、冷凍保存」
莉奈と一緒にいる内に、色々な知識を持ったリック料理長は、莉奈のいわんとしている事が分かった。
凍らせれば保存が効くという事も、莉奈といたから理解出来たのである。
「わ、コレもニンジン?」
棚を見ていたら、木箱に入ったニンジンを見つけた。
形はニンジンだけど細長い、そして、自分の知っている色とは異なる。
「サンダール地方のニンジンは、スゴくカラフルなんだよ」
リック料理長は笑いながら、教えてくれた。
この時期からはいつもの産地ではなく、違う所から仕入れているのだそうだ。だから、いつものオレンジ色ではなく、白や黄色、紫色なのだと。
ニンジンはオレンジだと頭が認識しているから、違和感ありまくりだ。
気持ちの悪いくらいに、カラフルだったとうもろこしを思い出す。
「なら、この不気味な野菜は?」
その隣りに置いてある野菜を莉奈は指差した。
形としてはカブみたいにプックリしているが、色がオカシイ。
白はともかく、そこに紫色やピンク色も混じっていて、なんかこう迷彩柄である。正直言って気持ち悪い。
「大根」
「え?」
「大根」
「……」
莉奈、絶句である。
この世界の大根はハンドボール程の大きさ、形はカブみたいで柄が迷彩だった。
アレ? 今まで普通にあった野菜達はどこですか?
「エギエディルス殿下は今のリナみたいに、この時期の野菜を見ると渋い顔をなされるよ」
リック料理長は苦笑いしていた。
時期によって産地がガラリと変わるから、いつもの野菜も色や形など様々になるとの事だった。
確かに、昨日まで普通にオレンジ色のニンジンが、今日は紫色になって出て来たらギョッとするよね。
エギエディルス皇子の渋い顔が想像出来て、つい笑ってしまった。
それでも、彼の事だ。残さずしっかり食べるのだろう。
「この大根とニンジンでいっか」
莉奈は他の野菜を探すのを諦めた。
試作段階だし、見た事もないカラフルな野菜にやる気が削がれたのだ。
「野菜はそこにそのまま漬けるのかい?」
持って来た野菜をゴシゴシと洗う莉奈を見て、リック料理長が訊いた。
「ニンジンは包丁の裏で、軽く皮を削いで適当な長さにする。大根は……キモい」
「キモいとか言うなよ」
莉奈の呟きに、マテウス副料理長が苦笑いしていた。
「とりあえず、皮は剥いて漬かりやすい大きさに……うっわ、中までカラフル」
迷彩大根を半分に切って見たら、絵具を適当に垂らした様に中まで紫やピンクに染まっていた。
日本で売られている赤カブの漬け物は、中まで均一に赤いけど、これはマダラ模様である。実に食欲が削がれる。
美味しいのかなぁ〜と不安になりつつ、ニンジンと一緒に適当に切ってパンの糠床に埋めた。
どんな味かちょっと味見してみようと、莉奈は迷彩大根を小さく切り、そのまま口にしてみた。
シャキシャキと良い歯応え、見た目はキモいけど、味は大根と変わりはない。青首大根と同じ様に少し甘さを感じる。
なら、漬けても美味しいだろう。
莉奈はパン糠床を冷蔵庫にしまい、まな板に残ったカラフルな野菜とにらめっこしていた。
「何してるんだ?」
しばらく、野菜とにらめっこをしていたと思ったら、莉奈がニンジンを切り始めたのだ。
リック料理長は、何をやり始めたのかとマジマジと莉奈の手元を見ていた。
「このニンジンは色が派手だから、こうやって飾り切りにしてスープとかクリームシチューに入れると、可愛いかもしれない」
莉奈は輪切りにしたニンジンを、綺麗に飾り切りして見せた。
「「「おぉォォーッ!!」」」
皆にどうかなと見せれば、歓声が上がった。
「すげぇ!!」
「ニンジンが花になった!!」
「可愛い」
そう、莉奈がしたのはニンジンを花に見せた飾り切り。
型抜きがあれば簡単だけど、ないから手作業だ。碧空の君も好きそうな可愛い飾り切りである。
「エドのスープとかには、コレを入れてあげると喜ぶんじゃないかな?」
白いクリームシチューに入れれば、カラフルだから映えて可愛いシチューに早変わりだ。
家には型抜きがあったから弟と一緒に作って、カレーやシチューに入れてたなと思い出す。
「確かにエギエディルス殿下は喜びそうだな」
リック料理長が大きく頷いていた。
莉奈も喜ぶエギエディルス皇子を想像してみたが、何故か向かいに座るシュゼル皇子の喜ぶ姿が浮かんだけど。
あれ? オカシイな。花より星形にでもしたら、エギエディルス皇子は喜ぶかな。
莉奈はそんな事を考えながら、余った野菜を魔法鞄にしまい、飾り切りの花は皆が手本にするというから小皿に置いといた。
「あっちでリリアン達は何作ってるの?」
新人組のリリアン達は、昼食用にと何か作っていた。
色々と問題を起こすリリアンも、珍しく真面目に作業をしている。
「あぁ、ロメインレタスとベーコンのサラダだよ」
ロメインレタスを千切り、スライスした玉ネギとトマト、カリカリに焼いたベーコンを載せたサラダだと、リック料理長が説明してくれた。
カリカリベーコンを作る時に出た油は、蒸したじゃがいもと混ぜるのだそうだ。
無駄がなくて、美味しい料理だよね。
「ドレッシングは?」
「簡単なオリーブオイルと塩、それに酢を混ぜた物。後は定番のマヨネーズだな」
個人で味を足せる様に、粒マスタードとカイエンペッパーは別に置いておくとの事。
「それ、全部混ぜても美味しいよね」
その2種類のドレッシングを混ぜれば、フレンチドレッシングの出来上がりである。
皆が気付いているかは知らないけど。
「「マジか」」
「あ、混ぜた事もあるよ〜」
一部の人が驚いていると、リリアンは混ぜた事があるのか、混ぜた事のない仲間を見て笑っている。
リリアンは冒険心が強いと言うか、何も考えていないから、1皿に色んな物を載せて食べているからね。必然的に混ざるのだ。
それを聞いていた莉奈は、材料的にちょうどいいからと、もう一つドレッシングを添える事を提案する。




