397 バレちゃった
「リナ〜!!」
手入れの行き届いている花や木々を見ながらのんびり歩いていたら、後ろから自分を呼ぶ声がした。
ラナ女官長と侍女のモニカである。
「美容液を作りに行くんでしょう? 私達も一緒に行くわ」
莉奈が黒狼宮に行くと分かったのか、2人はご機嫌な様子で小走りにやって来た。
これから美容液を作りに行くのだと、察した様だ。
「サリー達もすぐ来るわよ?」
他の侍女達も仕事の合間に、美容液の瓶詰め作業の手伝いに来るそうだ。
サリーといえば、あれからちゃんと侍女服を洗っているのだろうか?
「洗わせてるわよ」
莉奈の考えを読み取ったラナ女官長が、苦笑いしていた。
執事長イベールに告げ口すると脅したら、少し考えた後洗う様になったとか。
考える意味が分からないと、莉奈は思ったのだった。
◇◇◇
「美容の女神、リナ様。お待ちしておりました」
「「「お待ちしておりました」」」
黒狼宮の調合室に着いたら、仰々しく女性陣が一斉に頭を下げてきた。
「……何を言ってるのかな?」
莉奈は頬が引き攣った。
人に頭を下げられる事などないから、気持ちが悪くてしょうがない。
大体、美容の女神って何?
後ろにいるラナ女官長とモニカは、吹き出していたけれど。
「だって〜」
と侍女やら魔法省の研究員の女性曰く、王宮勤めは楽な仕事ではなく、なんだかんだと水仕事が多いので、冬場は特に手荒れが酷くなるのだそうだ。
オマケに、王宮内では爵位のある令嬢も多く勤めているので、領地内で社交をする場面も多々ある。だから、美に関しては死活問題だとか。
それを聞いた莉奈は、社交界に縁がなくて良かったと、心の底からホッとする。
「あ、美容液のお礼にドレスを作ってあげるわね?」
と侍女モニカを含めたどこぞの令嬢達が、満面の笑みで言ってきたので「お気持ちだけで充分でございますわ」と口に手を添えて笑って返しておいた。
貰っても着る機会はないし、そんな機会も欲しくない。
「ドレスは何着あっても困らないわよ?」
「いらな〜い」
ラナ女官長が半分真面目に言っていたが、莉奈はタンスの肥やしだと苦笑いしたのであった。
◇◇◇
【オールインワンジェル】
ミツバチ科であるルルミツバチ、主に働き蜂の分泌液とポーションを特別な配合で精製した物。
「うん、出来ちゃった」
莉奈は【鑑定】で確かめ空笑いしていた。
こんな簡単に出来ちゃっていいのだろうか?
この間の美容液は、確か"キラービーもどき"のローヤルゼリーだったけど、違うミツバチでもちゃんと作れるらしい。
しかし、美容液を寸胴鍋で作る日が来るとは思わなかったよ。
「後は瓶に詰めるだけだよ」
莉奈がそう言って、美容液のたっぷり入った寸胴鍋を渡せば、ラナ女官長達は待ってましたとばかりに瓶詰め作業に入った。
それを見ていた莉奈は感心していた。
美容液を入れる瓶は無色透明だけど、オシャレで可愛かったからだ。
香水の瓶みたいに、蓋の部分が花になっていて、ものスゴく高級感がある。
瓶なんて言うから、ついどこにでもある何も変哲もない瓶を想像していた。だけど、ラナ女官長達が用意していたのは、某有名化粧品メーカーの売り場にありそうな、女性らしく華やかで可愛い瓶だった。
安っぽい入れ物に入れると、やはり安っぽく感じるし、オシャレな瓶に入れると、途端に高級感が出るから不思議だ。
やっぱり、なんでも見た目って大事だなと、改めて思う莉奈だった。
◇◇◇
莉奈達が、美容液の完成で盛り上がっていた頃。
白竜宮では真珠姫と碧空の君が、竜の広場で仲良く日向ぼっこをしていた。
『のどかですね〜』
『風が吹くと、そよそよと気持ちがいい』
2頭は並んで翼を折り曲げ、猫の様に身体を丸くさせてのんびりとしていたのだ。
フェリクス王のいるこの王城は、外敵や魔物が来る事などほとんどなく、竜達にとっても楽園であった。
心往くまま、のんび〜りまったり過ごしていたのである。
そんなのんびり過ごしていた2頭の前を、ふらりとやって来た王竜が横切った。
竜がどんなに大人しく歩いたところで、振動は起きる。
まったりとしていた2頭は、その振動に少々ご機嫌斜めである。
『これだから、野蛮な雄は』
真珠姫はわざとらしく、大仰しいため息を吐いてみせた。
のどかな時間を邪魔されたので、嫌味を込めたのだ。
『……』
王竜はチラッと2頭を見て、フンと鼻で笑った。
野蛮とはどの口が言うのだ、である。
知る人は少ないが、竜に関して言えば、血の気が多いのは実は雌が多いのだと言われている。
それは産んだ卵を守るために、性質上好戦的になりやすいのだと、雄は本能で知っていた。
雄なら躊躇する場面でも、雌は卵を守るためなら番である雄さえも、迷う事なく噛み殺すのだ。
しかも、頭の大きさこそ違いはあるが、体格に関しては雄も雌もほぼ変わらないし、戦闘能力や魔力は個体別で性別は関係ない。
ならば、番という情を簡単に切り捨てられる雌の方が、余程恐ろしい存在ではないのだろうか。
王竜は、真珠姫に反論するだけ時間の無駄だと、空に翔ける事にした。
いくら竜の頂点に君臨しようが、同類の雌を怒らせても良い事などない。
まぁ、有り体に言えば、面倒くさかったのだ。
「ん!?」
王竜が逃げる様に、羽ばたこうとした時ーー。
碧空の君が目敏く何かを見つけ、声を上げた。
「黒いの……王よ、ちょっと待って下さい!!」
「……」
王竜は羽ばたくのをやめ、至極面倒くさい視線を碧空の君に向けた。
無視して飛び立つのもアリだったのだが、不意に声を上げられタイミングを逃してしまったのである。
「どうしました? 碧空の」
隣にいた真珠姫は、唐突に声を上げた碧空の君をキョトンと見ていた。
「真珠姫!! あの王の太腿、太腿を見て下さい!!」
「え?」
「鱗が妙に1枚だけ、キラキラとしていませんか?」
と碧空の君が右翼を、とある場所を示す様に広げればーー。
「ん?」
「は?」
その言葉に反応した真珠姫も王竜も、碧空の君が凝視する場所に視線をゆっくりと動かした。
動かした先とはーー。
そう、王竜の左足の太腿である。
ーーキラリン。
王竜の太腿の鱗が何故か1枚、神々しく光って見えた。
「……」
王竜、自分の脚を見たまま絶句である。
何故、いつから、自分の鱗は煌々と輝いていたのか。
痛くも痒くもないが、衝撃的過ぎて言葉が出なかったのだ。
「な、な、なんですか、その鱗は!?」
「何故、そんなにキラキラと輝いているのですか!?」
「何をしたのですか!!」
「いつから光り始めたのです!?」
「「どうしてですか!?」」
真珠姫と碧空の君は、その光り輝く鱗に魅入り、王竜の周りを興奮した様子でウロウロしていた。
王竜の鱗は、黒いダイヤモンドと呼ばれる程の美しさで唯一無二。
1頭で温泉にコッソリ入っていたせいか、王竜の鱗はいつ見てもキラリと光り綺麗で羨ましかった。
ただでさえ綺麗なその鱗が、さらに光り輝いていたとなれば、美に目覚めた真珠姫と碧空の君の目は、王竜の左の太腿に釘付けである。
その鱗はどうした。
いつから、光り輝いていたのか。
どうして光っているのか。
それはもう瞳をギラギラとさせ、事細かく説明しろと王竜を追い立てていた。
「「王よ!!」」
ウザいなと王竜の目が半目になりかけた時、真珠姫と碧空の君が顔を近付け追求の瞳を向けた。
「……」
煩いと一蹴するつもりだった王竜は、2頭のあまりの剣幕に押され口端がヒクヒクする。
いつの世の雌も、面倒くさいなと思う王竜なのであった。




