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聖女じゃなかったので、王宮でのんびりご飯を作ることにしました  作者: 神山 りお


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377 美鱗



 ーー翌朝。




 昨日の今日でご機嫌な莉奈は、朝早くから竜の宿舎にいた。

 夜の散歩に付き合ってくれた王竜達に、感謝を込めて食事を作って来たのだ。

 果物や野菜を色んな形に細工して、カラフルな花を添えた特別な食事である。



「あれ? いない」

 改めてお礼も言いたかったのに、宿舎に行ったら碧空の君も真珠姫もいなかった。

 まさに、もぬけの殻である。

「竜喰らいよ。朝早くにどうした?」

「竜喰ら……碧ちゃん達は?」

 莉奈と言う名前があるのに、なんでいつも竜喰らいとか呼ぶかな?

 王竜が顔を覗かせたので、昨夜のお礼と文句を言いながら、2頭がどこに行ったのか訊いた。



「朝風呂だ」

 さも当然の様に言う王竜。

 朝風呂は当然ではないと思う。

 莉奈は自分もやらない朝風呂をする竜達に、返す言葉が見つからなかった。



「器用だな」

 王竜に昨夜のお礼だと、様々な細工をした果物や野菜を出したら、驚愕していた。

 こんな華やかな果物や野菜は見た事がないと。

「見た目が変わると、なんとなく味も変わる気がしません?」

「少しずつ食えばな」

 王竜はそう言って、面倒くさそうにチビチビと食べていた。

 一応、味わってくれている様だ。

「いつ見ても、綺麗な鱗ですよね」

 傍で王竜の食べる姿を見ていた莉奈は、王竜の鱗の艶を見て素直な感想を漏らした。

「温泉に入っているせいか、黒々艶々してる」

「褒めても何も出ないぞ?」

 目だけ動かし、莉奈をチラッと見た王竜。

 莉奈が力ずくで鱗を剥がすとは思わないが、そんなに褒めてどうするのかと思ったのだ。



「何もいりませんよ」

 莉奈は笑った。

 王竜には、この間鱗を貰ったのだ。過剰に貰ったりはしないし、イヤがる事もするつもりはない。

「触っていいですか?」

「好きにしろ」

 何が楽しいのか分からないが、触りたいと言う莉奈に王竜は好きにさせる事にした。




「王の鱗は一見真っ黒に見えて、紫とか蒼色とか複雑な色をしていてキラキラして綺麗ですよね」

 真珠姫の鱗もそうだけど、一色に見えて光に当たると複雑な色を見せるのだ。

 それが、堪らなく美しい。

「考えた事もない。そんなにも我は綺麗か?」

「綺麗ですよ。宝石みたいにキラキラしてる」

 鉱物と比べるのは、失礼なのかもしれないけど。

 見る角度を変えると、本当に色々な色を見せてくれる。

「そうか、そうか」

 莉奈が素直に褒めれば、王竜は満足そうに頷いた。

 内心そうは思っていても、やはり畏怖の方が強いのか、あまり目の前で褒める人間はいないそうだ。



「あ、そうだ」

 莉奈は、ふと何かを思い付き、魔法鞄マジックバッグからゴソゴソとあるモノを取り出した。



 美肌にはなるけれど、美鱗になるのだろうか?

 王竜の左太腿の鱗の大きさは手の平くらいだけど、半分程度試しに先日作った"美容液"を薄く伸ばして塗ってみることにした。

 竜には効かないと思うけど、少し汚れた鱗が綺麗にはなりそうだと、軽い気持ちでチョイチョイと。




 ーーポゥ。




「え?」

 王竜の鱗が一瞬、淡く光った。

「え?」

 莉奈は思わず二度見した。

 美容液を塗った鱗だけが、ワックスでも塗って磨いたみたいに、やけに光り輝いている気がする。





 ……うん。





 これは、ヤバーーイ!!




 周りの鱗よりも、塗った1枚だけ遥かに色艶が良くなってしまった。

 極端に言えば、ガラス玉の中に、ダイヤモンドが混じってしまった感じだ。

 擬音を付けるなら、ピカーーッと光り輝いている。




「どうした?」

 莉奈が硬直したまま、動く気配がしないので、王竜が声を掛けてきた。

 まさか、自分に美容液を塗られたなんて思いもよらないのだろう。

「え? あ、いや?」

 莉奈は慌てて美容液を魔法鞄マジックバッグにしまった。

 【鑑定】では、肌艶について表記されていたが、まさか鱗にまで効くとは思わなかった。

 【鑑定】は絶対ではない。日々進化すると、シュゼル皇子が言っていた。まさに、こういう事なのだろう。

 アレ?

 真珠姫とか碧空の君にバレたら、イカンのではないかな?

 莉奈は目の当たりにし、背中に変な汗が流れ始めていた。

「あ、その、カ、カレー? カレーを作る約束をしていたなぁ〜と」

「カレー?」

「あ、え、すみません。わ、わたくしめ、朝食なんぞの準備があります故、これで失礼致します!!」

 しどろもどろになった莉奈。

 害はないから問題はないけど、そういう問題ではない気がする。

 人間より、砂埃を被る可能性大な王竜だ。放っておけば2、3日で元に戻るに違いない……というか、そうなるように切に願う。

 この場から早急に立ち去りたい莉奈は、逃げる様に王竜の宿舎から出て行ったのである。




「可笑しな娘よ」

 自分の鱗が1枚、異様に黒々艶々になっている事など知らない王竜は、バタバタと去る莉奈を見て苦笑し、再び朝食をモシャモシャと食べるのであった。

 















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