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聖女じゃなかったので、王宮でのんびりご飯を作ることにしました  作者: 神山 りお


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376 レッツ・ゴー!!



 雲一つない空には、キラキラと満天の星が輝いていた。

 街灯やネオンの少ないこの世界では、星は何十倍も輝いて見える。夜空を見ると、アッチの世界とどこか繋がっている気がして、ホッとする。

 月が2個あるのを見ると、ここが異世界だと思い知るけれど。



 下を覗けば、そこには雲海が広がっていた。

 薄い雲の隙間から、チラチラと街の灯りが見える。上にも下にも星空があるみたいで、とても幻想的でつい魅入ってしまう。実に壮大で、息を飲むくらいに綺麗な景色だった。




「雲海なんて、初めて見ました」

 莉奈は惚ける様に呟いた。

 チラッと後ろを振り返れば、王城は雲海の上にあり、まさに天空の城だった。

「今日は大分風があるが、凪の夜の海は、夜空に溶け込む」

 風のない時にまた今度、連れて行ってやると、フェリクス王が言ってくれた。




 王竜の背は、想像以上に快適だった。

 鳥の様に風に上手く乗るのか、翼はほとんど羽ばたかせない。それでも少し羽ばたく時に、多少上下に振られたものの、気になる程は揺れない。

 ものスゴく優雅な飛行である。

 隣に並行して飛ぶ真珠姫や碧空の君も、飛ぶ姿が実に優美だ。



 王都は大きいと思っていたけど、竜で空を飛んでいるから、あっという間に抜けていた。




 ーーギャーッギャ。




 そんな時。

 微かに、何かの魔物の鳴き声が聞こえた。

 遠いからか暗いからなのか、いくら目を凝らしてもここからは姿が見えない。



 

「北北西、1000。ワイバーンが数匹おるな」

 王都リヨンの端の上空で止まった王竜が、1キロ先の魔物を感知し確認した様だ。

「"ワイバーン"」

 王竜の声を聞いて放っておけと言うフェリクス王の前では、莉奈が瞳をキラキラとし呟いていた。

 ワイバーンがどんな魔物か知らないが、コウモリみたいな翼を持つ翼竜みたいな生き物だと想像する。

 どんな魔物なのだろうと考えると、なんだかワクワクした。




「怖くないのですか?」

 右側で並行して飛ぶ莉奈の番、碧空の君が莉奈の喜ぶ様な声に驚いていた。

 生き物の頂点に立つと言われている竜でさえ、ワイバーンは厄介な魔物だ。

 だが、その存在を感じ、怯えるどころか高揚している素振りを見せる莉奈に、碧空の君は肝が据わっていると感心さえしていた。

「だって、皆がいるんだもん。怖い訳がない」

 莉奈は楽しそうに笑った。

 自分1人だったら恐怖しかないが、ここにはフェリクス王や王竜までいる。一体、何に恐れるのかが分からない。




「我が、お前を振り落とすとは思わぬのか?」

 王竜は、莉奈が自分に寄せる絶大な信頼に驚愕していた。

 何十年も連れ添った番ならまだしも、知り合って間もない莉奈が、そこまで自分に向けるその絶大な信頼はどこから来るのか。

「王はそんな事しないも〜ん」

 莉奈は、楽しそうに即答した。

 竜は気難しいし、自分が一番で自由な生き物だが根は優しい。特に王竜は、莉奈に対して気遣ってくれる様な気がする。

 そんな、王竜が言葉通りに莉奈を空に放り投げる事はないだろう。



「ほぉ?」

 と王竜が愉快な声で応えると、両翼を再び脇に折り畳んだ。

 無条件に信頼する莉奈に、気分を良くした王竜が遊び始めたのだ。

「おい」

 それに巻き込まれたフェリクス王は、堪ったものではない。

 抗議の意味も含む不機嫌そうな声を上げたが、すでに王竜は翼を折り畳んでしまったので、プツンと何かが切れた様に真下に急降下した。

「落っちる〜!」

 莉奈は胸の奥がゾワッとする浮遊感と高揚感が、楽しくて笑っていた。

「チッ」

 逆にフェリクス王は舌打ちを漏らしていた。

 フェリクス王は好き勝手にやられ不愉快極まりない様子だったが、莉奈の気分は真逆で爽快であった。

 右へ左へ、上や下に予測不可能な動きが面白くて仕方がない。



「何、あの遊び」

 エギエディルス皇子が呆れ半分、羨ましさ半分な表情をしていた。

 兄王はものスゴく不愉快そうだったが、莉奈はものスゴく楽しそうだ。

 あんなに楽しんでいる王竜を初めて見た。

 エギエディルス皇子、シュゼル皇子は周りでクルクルと遊ぶ王竜達を見ていて苦笑いしていた……が、真珠姫の動作に思わず声を上げた。

 それを見ていた真珠姫も真似をして、両翼を折り畳んだのである。

「あ゛?」

「え?」

 2人の皇子が唖然とする中、身体はガクンと真珠姫ごと急降下したのである。




「わぁぁぁ〜っ!? マジかよ、馬鹿じゃねぇーーの!?」

 羨ましいとは少し思ったけれど、まさか自分が同じ目に遭うとは思わなかったエギエディルス皇子は、叫び声を上げた。

 自ら飛ぶならともかく、強制的に内臓がフワリとなる奇妙な浮遊感。爽快より不快でしかなかった。




 そんな中、莉奈は1人楽しそうな声を上げていた。

 調子に乗った竜達が、競うように右へ左へ旋回し急降下すれば、星空や街の中に突っ込むみたいで面白い。

 雲海を突き抜けたり入ったり、星空に吸い込まれそうになったり、ものスゴく楽しくてワクワクドキドキが止まらない。




 最上級、極上の遊びである。

 ジェットコースターなんて比じゃないくらいに迫力があるし、風を切り雲を突き抜け、夜空に溶け込むような爽快感は、竜にしか出来ない。




「いやっほぉ〜っ!!」

 莉奈は終始ご機嫌だった。




 だが、3兄弟には大大大不評だったらしく、この後、厳重注意を受ける王竜と真珠姫の姿があったのであった。





















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