372 縁起物?
ツマミを出す予定はなかったけど、エギエディルス皇子があまりにも可愛かったので、彼には大好きなロックバードのからあげを、フェリクス王とシュゼル皇子にはタコのからあげを出した。
後はメインの3種類のピザである。
「この間食べたナンとは、また違って見目にも華やかですね」
「な? で、このパリパリがいいよな!!」
「タコのからあげは、この食感が面白くて美味しいですね」
「俺は、ピザはこのベーコンとニンニクのピザが1番ウマイと思う。シュゼ兄は?」
シュゼル皇子とエギエディルス皇子が、楽しみながら食べていた。
1人でノンアルのカクテルの中身を当てられた事と、色々と貰えた事で、さらにご満悦なエギエディルス皇子は、ニコニコ楽しそうにしながらピザを食べている。
ピザを各種一切れずつ食べた後、ニンニクがガツンと効いたピザが気に入った様だ。
「私はこのトマトの酸味がクセになる。マルゲリータですね」
今ここに、チーズにハチミツをかけただけのハニーチーズがあれば、シュゼル皇子はもちろんソレだろうけど。
ナンで作ったピザもどきで出したから、作らなかったんだよね。
「タコのからあげには、リナの言う通り白ワインが合うな」
チラッとフェリクス王を見れば、もはやピザの感想じゃないし。
ピザを一通り食べた後、酒の肴にと出したタコのからあげと白ワインに舌鼓を打っていた。
食感が面白くて旨いと気に入ってくれた様だった。
ピザの方は、フェリクス王の食べた量的に、エギエディルス皇子と同じベーコンとニンニクが好みっぽい……と莉奈は思う。
「しかし、最近手に入れたホーニン酒までカクテルにするとはな。ジンベースでもねぇのに、マティーニ系」
サケティーニを飲んだ結果。
フェリクス王は見事に当てていたけど、ジンベース=マティーニ系だと豪語しただけに、その気分は複雑らしい。
「マティーニだけでものスゴい種類があるのですから、その全部がジンベースって事はないと思いますよ」
今はお酒を飲めないシュゼル皇子は、玄米茶をゆったりと飲んでいた。
莉奈に貰った "ビーズ・キッス" や他のカクテルを、後の楽しみにして、今は仕方なくお茶で我慢しているのだ。
「そうだったな」
カクテルを出し始めた当初に、マティーニ系の種類が多くあると聞いていたのだ。
それをすっかり忘れていたフェリクス王だった。
「ちなみに、ホーニン酒にライムジュースとレモンジュースを少し入れると "サムライ"。ホーニン酒をロックで、グラスにライムを添えると"サムライロック" っていうカクテルになります」
基本、どのお酒もライムやレモンを添えたり、入れたりする事が多いよね。
お酒の風味を邪魔しないで、サッパリするから美味しいんだと思うけど。
シュゼル皇子は、カクテルとかで甘味に飽きたら酸味に逃げて、また甘味って結果的に繰り返しそうだ。
「ホーニン酒のカクテルも色々とあるのか」
フェリクス王はそれを聞いて、至極満足そうにしていた。
まだまだ、楽しみがあると思ったのかもしれない。
「そうだ、リナ」
フェリクス王は何かを思い出したのか、リナを視線で呼び付けた。
魔法鞄を漁っている所を見ると、またタコとか食材かな? と莉奈は歩み寄る。
だが、フェリクス王がテーブルに出したのは、食材にはまったく見えなかった。
形は、工事現場に良くある三角コーンと似ている。大きさは莉奈の片腕くらいの長さで、色はクリーム色っぽい。
「何コレ?」
莉奈は初めて見る物に、眉根を寄せる。
「なんだと思う?」
フェリクス王に訊いたのだが、答えではなく質問で返されてしまった。
面白そうに莉奈を見る限り、珍しい物か莉奈が欲しがる物なのだろうか?
いや、揶揄っている可能性も多いにある。
「軽っ!!」
触っても良いと許可を得て、莉奈が持ち上げて見れば、見た目より遥かに軽かった。
ひっくり返して見ると、中は空洞でいよいよ三角コーンみたいだ。
だが、この世界に三角コーンがあるとは思えない。
厚さは1cmもなさそうで、とにかく軽くて薄い。叩くとコンコンと音がして硬く頑丈。質感的には、骨というより爪に近い。匂いは特にしない。
「え? まさかの帽子?」
莉奈は頭に被ってみた。
頭がすっぽり入る辺り、まったく違うだろう。
「帽子にするなら、俺の番のをやろうか?」
それを見ていたエギエディルス皇子が、お腹を抱えて笑っていた。
まさか、頭に被るなんて思わなかったのだ。
「え? 番?」
莉奈は番〈竜〉と言われ、もう一度ソレをマジマジと見た。
番のをと言うのだから、竜に関係する物である。
竜が関係する、三角コーンみたいな物。
「あ!! 脱皮の皮!?」
莉奈は答えに結び付き、驚愕と喜びが混じった声を上げた。
そうなのだ。コレは三角錐の形だ。
爪ならカーブがかかっているだろうし、脱皮はしないだろう。角や牙は生え変わるモノであるから除外だ。
背や腹の鱗はトゲトゲとしていない。コレは首の周りの脱皮の皮なのだろう。
「エディの言葉で、良く脱皮の皮だと分かったな」
フェリクス王が呆れ半分、感心半分の様な表情をしていた。
竜と言うだけのヒントで、普通はソレが脱皮の皮だとは想像しない。しかも、見た事もないのにである。
「首の所のでしょう!? スゴい!! 王竜のですか!?」
「あぁ」
急に上昇した莉奈のテンションに、フェリクス王は呆れ笑いをしていた。
竜の脱皮の皮を見て喜ぶのは、近衛師団や冒険者、あるいは商人くらいだ。しかも、それは有効利用や売買出来るから喜ぶのであって、莉奈みたいに純粋にではない。
大抵の女性は、汚いと言うのが普通の反応だ。
やはり、コイツはどこかオカシイとフェリクス王は思う。
「硬くて頑丈、オマケに軽いなんて、最高じゃないですか!!」
「竜の脱皮の皮なんか見て喜ぶヤツ、初めて見た」
エギエディルス皇子がボソリと呟く。
王竜にも初見で飛び掛かる様に見ていたが、まさか脱皮した皮にまで食い付くとは、エギエディルス皇子は驚くより呆れていた。
「何言ってんのエド!! 脱皮、脱皮だよ!? 竜の脱皮の皮なんて滅多にお目に掛かれないんだよ!?」
「……」
「しかも、王竜のだなんて縁起物だよ縁起物!!」
「……」
ものスゴい食い付きに、エギエディルス皇子はドン引きだった。
何がどう縁起物かも理解できない。
莉奈が興味を持つとは分かってはいたが、こんなに食い気味に来るとは想像をしていなかった。
「え? 見せるだけ? いや、そんな訳はないですよね? くれるの? くれるんでしょう!? くれるんですよね!?」
「落ち着け。欲しけりゃ、くれてやる」
フェリクス王はその食い付き様に、若干苦笑いが漏れていた。
普段、自分が見つめれば恥ずかしがるクセに、今はものスゴい前のめりである。
莉奈の恥ずかしがる基準がまったく分からない。
「やったーーっ!!」
莉奈、王達がいるのにも関わらず、竜の脱皮の皮を掲げ歓喜の声を上げた。
幻想世界の竜がいるのも、未だに不思議で楽しいのに、竜の脱皮の皮を手に出来た。莉奈は、その非現実の様な感覚に興奮していたのである。
「脱皮の皮なんか、何が嬉しいんだよ」
エギエディルス皇子は、莉奈のあまりの喜び様に呆れつつ、生温かい目になっていた。
そんな物で喜ぶなら、自分の番のも見つけ次第あげようかなと思っていたのだ。
「カッコいいじゃん」
「貰ってどうすんだよ」
「部屋に飾る」
「……」
飾るのかよと、エギエディルス皇子はさらに呆れていた。
竜の脱皮の皮は、武具や装飾品として、重宝されるモノなので、加工もせず飾る人間はほとんどいない。
金持ちにしても、稀少なモノを持っているのだと、誇示して飾る事もあるが、決してそのままではない。
大概、模様を掘ったり宝石を埋め込んだりして飾るのだ。
莉奈みたいに、純粋に竜の脱皮の皮を飾る人間はいないのである。
「リナなら、なんなく竜の脱皮の皮を手に入れられそうですね?」
その様子を見ていたシュゼル皇子が、玄米茶を飲みながら感心した様子で言っていた。
竜に気に入られている莉奈ならば、強請れば貰えそうだなと。
「ちょうだい? って言って、貰えないのですか?」
「リナは、日焼けで剥けた皮を、誰かに下さいと言われたらあげますか?」
え? 気持ち悪っ!!
莉奈は、思わず想像してブルッと身体が震えた。
竜もトカゲやヘビと同じで、成長過程や身体を清潔にするために脱皮する事がある。
だけど、その脱皮の皮は、竜にとってはいらぬモノだとしても、誰かに言われてどうぞとあげたくないのだろう。
人間だって、日焼けで剥けた皮を誰かにくれと言われたら、断るに違いない。
なるほど。竜もそういうものか。
……となれば、ますます貴重なモノである。
竜は脱皮をしてもイモリやヤモリみたいに、自分で食べたりはしない。だが、宿舎でわざわざ脱皮をしたりしない。
外でしたとして、その皮を提供する訳がない。だから、竜の脱皮の皮はこの国でも手に入れるのは難しい様だ。
それを王城の外で探すとなると、至難の技なのだろう。
「え? なら、コレはどうやって手に入れたのですか?」
テンションがだだ下がった莉奈は、フェリクス王に訊いてみた。
くれと言ってもくれない物が、どうしてあるのだ。
「アレの宿舎に転がっていた」
「……」
どういう理由でかは知らないが、コレが一つ宿舎の隅に転がっていたらしい。
脱皮しきれなかった物か、脱皮の初期に気付かずに落ちたのか、そんなところだろうとフェリクス王は教えてくれた。
「貴重なモノですが、本当に戴いても?」
「お前はどの口で言うんだよ?」
莉奈が恐る恐るもう一度念を押してみれば、フェリクス王は笑って返していた。
そうなのだ。莉奈は良いかと訊きながら、脱皮の皮を背に隠していたのである。
もう返せと言われても、返さんぞ? と。
それには、シュゼル皇子もエギエディルス皇子も笑っていたのであった。




