358 仕方がないよね?
「おーーい。碧ちゃーーん!! 真珠姫ーーっ!!」
だが、どちらの竜からも返答はなかった。
「もう、陛下を呼んじゃおうか?」
「究極だな」
莉奈が諦めて肩を落とせば、エギエディルス皇子が笑っていた。
兄のフェリクス王を呼ぶのは、最終手段である。
ーーカンカンカンカンカンカン!!
冗談はさておき、どうにかしないといけない。
まさか、本当にこんな下らない理由で、国王様を呼べる訳がない。
さすがの莉奈も、そのくらいは分かっている。
だから、莉奈は魔法鞄からフライパンと棒を取り出し、フライパンの底を棒でおもいっきり叩いたのだ。
声は聞こえなくても音には、反応するかもしれない。
ーーザッザッザッ。
ーーだが、反応はなかった。
「な?」
あんな感じなんだよと、ローレン補佐官が肩を竦めていた。
近衛師団兵達も、当然声は掛けてみたし、大きな音も出したのである。でも、聞こえないのか、聞いていないのか無心で穴を掘っていた。
力づくで止めるのは、ハイリスク過ぎて勇気が必要だ。
だから、番の莉奈の話なら聞くかもと、呼んだようだ。
「仕方がないなぁ」
莉奈はため息を吐くと、柵をヒョイと横飛びして入って行った。
「おい、気をつけろよ?」
エギエディルス皇子が心配そうに、その背に声を掛けた。
一心不乱に掘っているのだ。そんな竜にふらっと近付くのは、番でも危険を伴う。
「分かってる」
心配してくれるエギエディルス皇子にお礼を言って、莉奈は土のかからない横方向から、碧空の君に歩み寄った。
さすがの莉奈も、竜の背後なんて危険過ぎて近寄れない。
近寄りながら莉奈は、ゴソゴソと魔法鞄を漁る。
確か、黒狼宮で貰った "アレ" があったハズ。
「話を聞かない碧ちゃんが悪いんだからね?」
一応、断りを入れた莉奈は、何かを取り出し腕を大きく振りかぶった。
そして、ソレを碧空の君の頭に目掛けて投げ付けたのだ。
「ヨシ!」
麻袋は、半円を描く事なく、一直線にズバッと碧空の君に向かって行った。莉奈、豪腕である。
ーーボフッ。
莉奈の投げ付けたのは、拳大ほどの麻袋だった。
その麻袋は逸れる事もなく、見事に碧空の君の頭に命中したのであった。
「ンギャーーーーッ!?」
麻袋が当たって"ナニ" かがもわんと出ると、碧空の君は悲痛な叫びを上げた。
ーーボフッ。
「ヒギャーーーーッ!?」
碧空の君の悲鳴にビックリした真珠姫の頭にも、もれなく当たった。
莉奈は平等だった。
「「ンア゛ァーーッ!!」」
莉奈に当てられた麻袋により、悶絶する2頭の竜。
頭を振ったり、揺らしたりして何かを必死に落とそうとしていた。
消防車並に大きな竜が2頭ももがいていれば、僅かに地面がガタガタと微振動する。
「お前……何を投げたんだよ」
エギエディルス皇子は、憐んでいた。
竜が可哀想なくらいに、悶えているからだ。
「カイエンペッパー」
「カ? なんだよソレ」
「激辛唐辛子 "ペッパーZ"の粉」
この世界にも、色々な唐辛子はあるみたいだが、最強に辛い唐辛子が "ペッパーZ" だ。
最後の唐辛子とでも言ったところか。ハバチョロと同じで、タバスコにも使われている。
「うっわ、最悪」
カイエンペッパーという言葉は知らないエギエディルス皇子も、唐辛子とペッパーZは知っていたのだ。
だから、竜の頭が赤くなったのかと、ものスゴく渋い顔をしている。
「お前、エゲツないのな」
同じように渋い顔したローレン補佐官が、口を押さえていた。
絶対、目や鼻が痛いヤツじゃんと、竜を憐んでいた。
「え? じゃあどうやってアレを止めれば良かったの?」
「リナなら、蹴り一発でKOだろ?」
真珠姫を倒したみたいにと、ローレン補佐官が言えば、聞いていた全員がもれなく、うんうんと大きく頷いていた。
「レディに失礼じゃない?」
莉奈がプクリと頬を膨らませたら
「「どこにレディがいるんだよ」」
とエギエディルス皇子と、ローレン補佐官がすかさずツッコミを入れたのは言うまでもなかった。




