表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖女じゃなかったので、王宮でのんびりご飯を作ることにしました  作者: 神山 りお


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

355/678

355 まさに、タコ殴り



「竜が美容って」

「竜を馬鹿にする訳じゃないけど、美容液なんかいる?」

「え? それを言うなら風呂だって良く分かんねぇよ」

 厨房では、奇妙な表情をした皆が、ザワついていた。

 竜が美容だの美容液だのと、騒いでいればそんな顔にもなるよね?



「んじゃそれ、碧ちゃん達に言って」

「いや、ムリ無理」

 莉奈が笑って返せば、竜にモノを言うなんて、無理だと皆は手や顔を横に振っていた。

 ガッと掴まれたらどうするんだと、怯えている。

 莉奈がこの間、目の前で拐われて以来、皆は竜のご機嫌をますます読む様になってしまったのだ。



「ほらほら、手を休めない」

「「はーい」」

 リック料理長に注意され、皆はピザ作りに専念する。



「さて、ピザ作りは皆に任せて、私はタコ料理でも作るかな」

 莉奈も、頭を切り替える事にした。

 自分で言っておいてナンだけど、温泉に浸かる竜は壮大とか言う以前に、かなりシュールだよね?

 そして、碧空の君に乗る事は、しばらくは諦めよう。

 だってあの子、いつも部屋にはいないし、いたらいたで何か作らされるし。今は温泉探しに行っちゃったし、期待するからガッカリする訳だから、期待しなければイイ。



「塩茹でか?」

 莉奈が樽からタコを1匹取り出したので、若い料理人が声を掛けた。

 ピザだけではないのかと、ワクワクしている。

「ん? タコ食べた事あるの?」

「あぁ、都会じゃ "デビルフィッシュ" とか言われて食わないみたいだけど、俺の育った村とかは普通に食うよ」

 塩茹でか、なんて咄嗟に出たものだから、食べた事があるのか聞いてみると、漁師の村では食べる地方も極稀にあるそうだ。

 エギエディルス皇子は、都会人とかいう以前に王族だから、余計に縁がなかったのかもしれない。

「タコは何して食べてるの?」

「塩茹でか、タコ焼き」

「タコ焼き!? タコ焼きあるの!?」

 莉奈は目を丸くさせた。

 タコ自体を食べる習慣がなさそうなのに、まさかの "タコ焼き" に莉奈は驚きを隠せない。



「バカにするなよ。タコ焼きぐらいあるさ」

「マジで? 出汁は何を使ってるの?」

「え、出汁?」

「私の国では、昆布とか鰹節とかから取ってるけど」

「か……かつおぶし??」

「やっぱり形は丸いの? 器具とかは?」

「器具??」

 莉奈は、タコ焼きの存在を知り、嬉しくて半ば詰め寄る様に聞いたのだが、料理人は首を捻りに捻りまくっていた。



「どんな "タコ焼き" なの?」

 まさか、この世界にタコ焼き器があるとは思えない。

 だから、お玉とかで丸く焼いているのだろうか?

 莉奈はワクワクしていたのだがーー。

「どんなって……ただ、タコを焼いただけだよ」

「ただ焼いただけ?」

「そうだよ」

 莉奈の嬉々とした表情に、料理人は気まずそうに言った。

 王都では割と手に入る油も、村では油も高価な物らしく、簡単にタコも魚も塩茹でか塩焼きが一般的なのだとか。 

「焼いただけ……なんだ"イカ焼き" かよ」

 串に刺して焼いてないみたいだけど、ただ焼いただけなら、要はそういう事だ。


 

「なんだよ、イカ焼きって」

「ただ焼いただけのイカ」

 莉奈は期待してしまった分、ガッカリしていた。

 小麦粉生地で作った丸いタコ焼きを想像したのだが、屋台で良くあるイカ焼きのタコバージョンだった。



「ちなみに、リナの言ってた "タコ焼き" ってなんだよ?」

 逆に知りたいと、料理人が眉を寄せながら聞いてきた。

 出汁とか鰹節とか、何なんだと。

「丸いやつ」

「なんだよ、丸いやつって」

 適当過ぎる説明に、皆はさらに眉を寄せていた。

「小麦粉を出汁で溶いて、塩茹でしたタコを入れて丸くして焼いたモノ」

「??」

 莉奈の事だから、姿煮のタコを丸々入れているのだろうと、皆は勝手に想像していたのだが、豪快過ぎてグロいモノだった。

 なら違うかと考えたものの、皆はさっぱり分からず、全員首を傾げるのだった。



「大丈夫。材料も道具もないし、作れないから」

 莉奈は、好き勝手に想像されている事を知らず、腰に手をあて自信満々に笑った。

 だって、材料は代用品があるけど、タコ焼きはタコ焼き器で丸く焼くからタコ焼きだ。

 丸くないのは、もはや海鮮お好み焼きじゃないのかな?

「それのドコが大丈夫なんだよ」

 リック料理長は呆れ笑いするのだった。





 ◇◇◇




「とりあえず、タコを下茹……え? 下処理しないの?」

「え?」

「え?」

 タコを塩茹でしとくと言ってくれた料理人は、塩で軽くタコのヌメリを取った後、塩を入れたお湯にドボンと入れようとしていた。

 だから、それだけなのかと、莉奈は思わず言ってしまった。

「塩で軽く揉んだ……けど、違うのか?」

 莉奈はやり方が違うのかと、料理人は鍋にタコを入れる手を止めた。

「塩揉みだけだと、タコ硬くない?」

 ヌメリを取るには塩だけど、塩だけだと塩自体にタコを硬くする性質があるから、もう一手順が必要だと聞いた事があったのだ。

「硬いけど、そういうもんだろ?」

 違うのか? と目を丸くさせていた。

 村では皆、塩で揉んで、塩茹でするやり方でやっていた。だから、そういうモノだとずっと思っていたのだ。



「タコは塩でよく揉んでヌメリや汚れを取った後、コレで叩くと柔らかくなるんだよ?」

 莉奈は、食料庫から持って来た "大根" を手にした。

「え?」

「「「大根??」」」

 皆は、冗談だと思い、信じていなかった。

 莉奈は、たまに適当な事も言うし、突拍子もない冗談を言うからだ。

「塩でヌメリを取った後、こうやって大根でバンバン叩く」

 莉奈は、マナ板にのせたタコの足を、皮を剥いた大根で叩き始めた。

 誰が考えたか知らないけど、なんでこんな事を始めたんだろ。

 タコのヌメリ取りだって、日本のとある漁師町では、洗濯機にタコと塩を一緒に入れて、取るって話を聞いた事がある。

 タコ専用の洗濯機があるって面白いよね。



「えぇ!? マジで何をやってんの?」

「だから、タコを柔らかくしてるんだよ?」

 家でやるには少し近所迷惑だけど、ここは誰も文句を言わない。だから、ちょっとしたストレス解消になる。

 渾身の力を使う必要はないけど、大根でバシバシ叩くのは面白い。

 「タコ殴りにするぞ!」って言葉を聞いた事があるけど、その語源って案外、こういう所からきているのかもしれないと、莉奈はタコを叩きながら思った。





 ーーバンバンバンバンバン。


 



 莉奈は、楽しそうにタコを殴……叩いていた。





 ーーバンバンバンバンバン。





「「「……」」」

「なんで、そう不審そうな目で見るかな?」

 全く信じていない料理人達は、莉奈のやる事を不審そうな目で見ていたのだ。

 遊んでいる様にしか見えないらしい。




「だって、柔らかくするにしても、わざわざ大根で叩く必要ある?」

「大根をチョイスする辺り、胡散臭い」

「叩くにしても、なんで大根なんだよ。棒でいいじゃん」

「……」

 眉根にシワを寄せて、遠巻きに見る料理人達。

 その表情に、莉奈はタコを叩く手を止めてしまった。



「だって、"大根" だからさぁ」

 信じられないんだよと、料理人達は苦笑いしていた。

 絶対、莉奈が自分達を揶揄っているのだと。




「大根のなんとかって成分が、タコを柔らかくするんだよ。まぁ、叩かなくても、擦り下ろしたモノで揉むとか、大根と一緒に煮てもイイんだけど」

 とにかく、大根の成分とタコが合わされば良いのだろう。

 家は、茹でタコしか買わないから、大根で叩く機会はなかったけど。叩いてみたかったから叩いてみた。

「じゃあ、なんで叩いたんだよ?」

「日頃の恨み」

「誰にだよ!?」

 莉奈はサラッと恐ろしい事を言いながら、再びタコを叩き始めた。

 誰に何の恨みがあるのか、料理人達は苦笑いしか出なかった。

 



 恨みはともかく、莉奈が大根で叩いた単純明快な理由は、この2つだろう。

 1、大根を擦り下ろすのも、切るのも面倒だから。

 2、ただ、単に面白そうだから。



 莉奈の性格が分かってきたリック料理長と、マテウス副料理長は、多分そうではないかと仮説を立てて笑っていた。













誤字脱字の報告ありがとうございます。

 (๑╹ω╹๑ )

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ