352 箱の中
「さて、ピザを作りますか」
昼食を食べ終えた莉奈は、一息つくと厨房に戻った。
夕食のピザの準備があるからね。
「ピザって、この間食べたナン? みたいなヤツだろ?」
マテウス副料理長がボウルを用意しながら、訊いてきた。
事前に、ピザモドキとして出したからね。
「そうだね。作り方も大体似てるし。ちなみにピザ生地はザックリ言うと2種類ある。もっちりしたパンタイプと、サクッと軽いクリスピータイプがある……んだけど」
「あるんだけど?」
「私はクリスピータイプしか作った事がないから、パンタイプを食べたかったら気合いでどうにかして?」
莉奈は、料理人達に丸投げした。
家族全員が、ピザ生地はクリスピー派だったから、もっちりパンタイプの作り方は知らないのだ。
ドライイーストを入れて作るんだろうと、想像はするけど……ドライイーストはないし、パン酵母で代用すれば作れるだろう。
「どうにかしてって何だよ?」
「クリスピータイプって何?」
「そもそも、何が正解か分からねぇんだけど、気合いでどうにかなるものなのか?」
料理人達から、次々と疑問の声が上がった。
それもそうだ。基本があっての応用だ。
「まぁ、生地は色々とあるんだよって話。作り方はしらんけど」
「「「知らねぇのかよ」」」
料理人達は、相変わらず適当な莉奈に笑うのだった。
「とりあえず、クリスピータイプを作ってみよう」
莉奈は薄力粉と砂糖、少量の塩を何も考えずにボウルに入れた。
コレもパンと同じで色々な作り方はあるけど、発酵時間も短く簡単な作り方にする。
今まで真剣に考えて見なかったけど、この適当に入れた分量が適量なのかもしれない。
そして、何となくこうかな? って想像してみると、作った事がないパンタイプの生地も、ザックリと作り方が頭に浮かぶのだから、コレももしかしたら【技能】なのかもしれない。
莉奈は、料理に必要な技能を結構持っているのかも、と実感する今日この頃だった。
莉奈が大雑把だが、手際よく作り始めればーー。
「薄力粉と塩、それと砂糖を使うんだな?」
勉強家の料理人達が、メモを取ったり頭に叩き込み始めた。
基本は食いしん坊な料理人達も、仕事モードになれば別人の様になる。大体の人が1度で作業を覚えるから、莉奈はスゴいなと感心していた。
「粉類を手で良く混ぜたら、真ん中を窪ませて、そこにぬるま湯を少しずつ入れながら混ぜる」
説明しながら莉奈は、指を立ててクルクル掻き回すように混ぜていた。
「強力粉で作るとどうなるの?」
「しらん」
「真ん中を窪ませるのはなんで?」
「しらん」
「ぬるま湯でやるのは?」
「しら〜ん」
だって、そう言うものだと料理本に書いてあるだけで、理由なんか書いてなかったもん。
ただ、強力粉で作ればクリスピータイプにはならないし、水でやると粉が発酵しにくいんだとは想像は出来る。
真ん中を窪ませるのはぶっちゃけ、どうでもイイと思う。最終的にまとまれば良いかな〜なんて。
「で、あらかた混ざったら……」
「捏ねるんだな?」
「ピンポーン。正解で〜す」
さすがに分かっているなと、莉奈は正解の声を上げたのだがーー。
「え? ピン?」
「ピンポーン?」
「何、ピンポーンって?」
料理人達が一斉に莉奈を見た。
ピンポーンとは何なのだと。
「え?」
「「「え?」」」
莉奈が驚いた声を上げれば、料理人達は莉奈の驚いた声に驚いていた。
そうか、家族では当然のように正解だと "ピンポーン" なんて擬音を使っていたけど、アレはクイズ番組の正解の機械音だ。
コッチではTVはないし、クイズ番組なんてないのだから、ピンポーンと言ったところで通じる訳がなかったのだ。
説明を求めるような皆の目に、莉奈は首を捻りに捻る。
TVなんて言っても分からないだろうし、クイズ番組なんて言っても理解出来ないと思う。
どう説明しようと、考えながら莉奈は口を開いた。
「えっと、私の世界では問題に正解すると音が鳴る?」
「え゛ぇっ!?」
「正解すると音が鳴る〜っ!?」
「どういう事だよ」
莉奈の説明に、厨房全体がザワついた。
正解すると音が鳴るとは、どういう事なのか。皆はますます分からなくなり、互いに顔を見合わせていた。
それもそうだ。日常において何かに正解すると、音が鳴るなんて事がある訳がない。
「頭の上から? アレ、違うか。テレビじゃない……箱の中にいる人がーー」
「「「箱の中にいる人ーーっ!?」」」
「リナの世界では、人が箱の中にいるのかよ!?」
「なんで箱に人が入っているの!?」
「か、かか棺桶、棺桶で生活しているのか!?」
莉奈の意味不明な説明に、厨房はさらにザワついていた。
アレ? オカシイな。
この説明だと私の世界では、人が箱や棺桶で生活している事になってしまった。
そうではないんだと、莉奈は慌てて弁解する。
「違う違う!! 液晶……えっと、ガラスに人がたくさん映ってーー」
「「「イヤーーーーッ!!」」」
莉奈が説明を足せば、今度は女性陣が全員、恐怖で震え上がっていた。もはや、大絶叫である。
「ゆ、幽霊!? 幽霊って事!?」
「リナの世界では問題に正解すると、棺桶から人が這い出て来て来るの!?」
「違うわよ!! 窓ガラスに人の顔がたくさん浮かび上がって、ピンポーンって言うのよ!!」
「「「ギャャアアアーーーーッ!!」」」
莉奈の説明がヘタ過ぎたのか、厨房は阿鼻叫喚の嵐が吹き荒れた。
…………どうして、そうなった。
TVの説明をしたハズなのに、何故かゾンビ映画かホラーみたいな話になってしまった。
莉奈は大至急、説明が上手くなる【技能】が欲しいと思う今日この頃だった。




