350 腕が6本、足が2本の生き物って、な〜んだ?
「うっまァァッ!!」
「苺にめっちゃ合う!」
「コレは逆に酸味が強い、庶民向けの苺にこそ合うな!!」
「練乳? スプーンで飲みたい」
「それ、分かる!! パンに塗ってもイイかも!!」
1番に食べたマテウス副料理長が、驚きの声を上げれば、次々と歓喜の声が上がり始めた。
「イベールさん、どうですか?」
無言で食べている執事長に口に合うか訊いてみた。
相変わらず、無口で無表情である。
「苺以外には、何に合うのでしょうか」
質問に質問で被せてきた執事長。
素直に美味しいとは、言わないところがらしいと言えばらしい。
キレイに完食したのだから、気に入ったのだろう。
「酸味の強いフルーツなら、基本的に相性はイイかな? とは思いますけど、濃く煮出した珈琲や紅茶に入れると、甘党には堪らないくらいの相性かと」
フェリクス王に出したら、間違いなく極刑レベルの甘さだ。
「珈琲とは?」
「珈琲っていう名前の木になる実を、火炙りにしたり、すり潰したり……」
うっわぁ〜。
良く良く考えたら、珈琲を作るのもチョコレートを作るのも、工程的にはちょっと似てるじゃん!! 面倒な事を言っちゃったよ!!
莉奈は、気が遠くなっていた。
「火炙りってなんだよ? 拷問かよ」
エギエディルス皇子が、執事長の脇からひょこっと現れた。
焙煎を火炙りって言うと、確かに拷問みたいだよね。
「エド。お昼まで待てなかったの?」
「俺が、食いしん坊みたいな言い方をすんじゃねぇよ!!」
もうすぐ昼食なのに、わざわざ厨房に来たものだから訊いてみれば、エギエディルス皇子は違うと反論をした。
「あっ、苺の練乳かけ、味見する?」
「する!!」
練乳がなんだか分からないが、莉奈の作ったモノならば美味しいだろうと、エギエディルス皇子は大きく頷いた。
可愛いなぁと、莉奈の口端は緩みまくる。
「うっま!! 苺がすげぇ旨く感じる」
莉奈から、苺の練乳かけを貰うと、エギエディルス皇子はパクリと食べて瞳をキラキラさせていた。
多分、心の中ではピョンピョンと跳ねているに違いない。
「濃いめの紅茶に入れても美味しいよ?」
「マジか」
さらに瞳をキラッとさせるエギエディルス皇子は、マジで可愛い。
「あ、そんで。フェル兄がちょっと来いってさ」
お前、また何かしたのかよ? って名残り惜しそうに、食べたお皿を莉奈に返したエギエディルス皇子。
「え? 朝、会ってたのに?」
「何をしたのですか」
「何もしてませんよ!?」
執事長イベールが、さも莉奈が何かをやった様な視線を向け、冷ややかに言ってきたので莉奈は否定した。
さすがに、そんな短時間ではやらかした覚えはない。
「なんか、お前に渡したいモノがある? みたいな事を言ってたよ」
「渡したいモノ? なんだろう」
「マヨビームじゃない事は確かだな」
エギエディルス皇子は、小さく吹き出し笑った。
以前、莉奈がふざけて言った話を覚えていたらしい。
揶揄われた莉奈が、エギエディルス皇子をジト目で見ていたら、背後から完全に呆れた声が一つ。
「魔法まで喰らうとは」
マヨビームが何かは分からないが、魔法か何かだろうとイベールは思ったらしい。
誤解を招く様な言い方をするのは、ヤメてもらってイイですかね? イベールさん。
莉奈は反論も出来ず、ムスリとするのであった。
◇◇◇
「タコ」
呼ばれたので、ちょっとビクビクしながら、王族の食堂に来てみれば、樽に溢れそうなくらいにタコがドーンと入ってあった。
「白ワインに合うんだろ?」
「……」
マジか。タコの事なんてスッカリ忘れていた。
フェリクス王にそう言われ、莉奈の口からは乾いた笑いが漏れていた。
確かにフェリクス王が、タコを用意する様に執事長イベールに言っていた様な気がするが、冗談ではなく本当に取り寄せたのかと内心唖然とする。
新鮮なのか樽の中で、タコがウネウネしていた。
「1、2……8」
「気持ち悪っ。良く間近で見ていられるな」
エギエディルス皇子が、莉奈とタコを横目に腕を摩りながら席に着いた。
「エド、タコ嫌いなの?」
「好きとか嫌い以前に食った事ねぇよ」
「え? マジで?」
「タコの別名知ってるか? デビルフィッシュって言うんだぞ? 食うかよ」
だから、王都でもあまり食べられてこなかったとか、エギエディルス皇子がウンザリした表情で莉奈に返した。
どうやらコッチの世界でも、一部の地域では "デビルフィッシュ" なんて呼ばれているみたいである。タコさん、可哀想に。
「タコ美味しいのに」
莉奈はもう一度、タコを見て足を数えて見たのだが、やはり足は8本あった。
異世界もタコの足は8本らしい。なら、イカは10本なのかな?
「コッチの世界のタコも、足が8本あるんだね?」
「あ゛? タコの足は普通8本だろ?」
「そうだけど、私の世界の普通と、コッチの普通が同じとは限らないから」
「ふぅん?」
たまに、8本以上ある個体もいるみたいだけど、タコは概ね8本だ。
同じ生き物や食べ物があると、どこかホッとする。
エギエディルス皇子とそんな話をしていたら、シュゼル皇子がほのほのと、こう言った。
「2本ですよ?」
「「え?」」
「タコの足は、厳密に言うと2本なんですよ?」
「「えぇっ!?」」
エギエディルス皇子と莉奈は、シュゼル皇子にそう言われて目を丸くしていた。
莉奈が今、8本だと数えたばかりである。2本とはどう言う事かと2人は顔を見合わせた。
「一見、タコの足は8本あるように見えますが、生物学上タコの足は2本で、残り6本は腕だと言われているんですよ」
「マジかよ」
「腕」
シュゼル皇子は優雅に紅茶を飲みながら、教えてくれた。
エギエディルス皇子と莉奈は驚愕の事実に、再び目を丸くさせていた。今まで足だと言ってきたから、コレは全部足だと思っていた。なのに、まさかの腕。
「タコ版の阿修羅だ」
「ん?」
「「あ゛?」」
半々でもなく6本が腕。タコは顔は一個だが、阿修羅みたいだ。
莉奈は思わず呟けば、王3兄弟から仲良く疑問の声が上がった。
「 "阿修羅" とは何ですか?」
シュゼル皇子が、初めて聞く単語に首を傾げた。
「え?」
「阿修羅とは?」
小さく呟いたつもりなのに、この方達は本当に地獄耳だよね?
「え〜と。腕が6本ある空想の生き物……じゃない。神様?」
詳しくは知らないけど、インドの神話か何かに出てくる悪神だったハズ。
「お前の世界の神は、腕が6本もあるのかよ?」
エギエディルス皇子が、可愛い目をさらに丸くさせていた。
コチラの神様がどんなのかは知らないけど、腕は基本的に2本なのかな?
「だね。そんで、顔は3つもあるよ?」
「はあっ!? ソレ、神じゃなくて化け物じゃねぇか!!」
とエギエディルス皇子が驚愕していたので、莉奈は思わず笑ってしまった。
確かに、そこだけ聞いていると神様じゃなくて、化け物にしか聞こえない。
「ヒュドラにケルベロス、オルトロスにキマイラ。そいつらの前足が6本になったような神じゃねぇの?」
莉奈達の話を聞いていたフェリクス王が、阿修羅を勝手に想像したのか至極愉快そうに言っていた。
しかし、詳しく聞いてみると、それはどれも頭が3つの魔物みたいだ。だから、ついーー。
「いえ、頭は一つで顔が3つ」
黙っていればイイのに、莉奈は思わず返してしまった。
ついでに身体は、人間と同じ風貌だと。
「「あ゛ぁ?」」
フェリクス王とエギエディルス皇子が、ほぼ同時に眉を寄せた。
顔3つと言われても、どこにどう付いているのかが、イマイチ良く分からないのだろう。
聞いただけなら、前面に顔が3つ付いている様にも思える。
「えっと、前、右、左?」
確か、そんな感じだったハズ。
「「「……」」」
莉奈の話を聞いた瞬間、昼食の準備のために控えていた侍女達が、眉根を深く寄せブルッと身体を震わせていた。
きっと、想像してみたに違いない。
そんな、奇妙で異様な空気が流れ始める中、シュゼル皇子が莉奈に疑問の声を上げる。
「何故、後ろには顔がないのでしょうか?」
「「問題はソコじゃねぇ!!」」
フェリクス王とエギエディルス皇子が、堪らずツッコミを入れていた。
3つある必要性を問いたいフェリクス王と、エギエディルス皇子。
それより、どうせなら後ろにもあった方が便利だと言うシュゼル皇子。
意見は平行線である。
食べ物以外には、あまり詳しくない莉奈が適当に説明すれば、結局は謎が謎を呼び、皆はさらにモヤモヤすると溜め息を漏らすのであった。
そのシュゼル皇子に後から聞いた話だが、タコ同様にたくさんの足を持つイカの足は8本で、残りの2本は触手だそうだ。
タコは再生能力も高く、魚に足を食べられると何度も再生するらしい。だから、100本近く枝分かれした足を持つタコもいるとか。そうなると、千手観音ならぬ、千手タコだ。
そして、信じられない事にタコはストレスを感じると、何故か自分の足を食べるとか。だけど、ストレスで食べたタコの足は、再生したりしないらしい。
ストレスで自分の足を食べるって、人間に例えたらもはや狂気だよね?
どんなストレスを抱えると、自分の足を食べたくなるのだろう? と莉奈は考えたが、答えを見つける事は出来なかった。




