35 甘味と庶民
「リナ、甘い物も作れんの?」
興味津々なエギエディルス皇子。
ゴミゴミばかにしてた、さっきの態度とは大違いだ。
「作れるよ?」
お菓子なんか、作るのも見るのもスゴい好き。ケーキなんか作るのが楽しくてしょうがない。クリーム混ぜたり、デコレーションしたり超楽しいし面白い。
「お前……なんでも作れるのな」
感心した様に言った。まさか甘いお菓子まで作れるとは思わなかった様だ。
「だって、作るの好きだもん」
と、言っても好きな物を、好きな時に作るのが好きなだけで、ここの料理人みたいに、毎日大量に作るのはゴメンだ。
「よし!フレンチトーストにしよう!」
冷蔵庫を開け、しばらく考えた莉奈は大きく頷いた。
牛乳、バター、砂糖……そして、なにより固くて残ってるパンがある。使わない手はない。
いくら魔法鞄で保存出来るっていっても、固いものは固い。
「なんだよ?ソレ」
さっぱり分からないエギエディルス皇子が訊いた。
「甘いパン」
「……甘い……パン?」
「そっ……あっ、リックさん、いつものパン輪切りに切っといて下さい」
莉奈は、食事の時にほぼ出てくる、例の固いパンを輪切りにする様に言った。どうせ残ってるに決まってる。
「……作った自分で言うのもなんですが……シュゼル殿下…絶対口にしないと思いますよ?」
「そのままでは……でしょ?甘い物が好きならたぶん食べますよ」
なにより、異世界の甘味だ。必ず興味は示すハズ。
「まっ、食べなきゃ食べないで自分で食べるし」
「私も、食べるよ?」
と背後にいるモニカが、ニッコリと微笑んだ。
なんだろ……モニカがハイエナにしか見えないんですけど?
莉奈は、異様な熱気と視線に、ゾワリと感じながらさくさく手際よく作っていた。
「それに、パン浸けるのか?」
ボールに卵と砂糖、牛乳を適当に入れて混ぜたプリン液に、リックが切ってくれたいつもの固いパンをポイポイ入れる。
フレンチトーストにする場合のプリン液は、慣れれば基本的に適当でも案外美味しく出来る。
だが、莉奈の場合、経験と技能のお陰で適当に見えて、適当ではないのだが、本人はまったく知らない。
「うん、浸けこんで焼く」
「焼いたパンをさらに焼いて、固くなんねぇの?」
「むしろ、ふわっふわっだよ?」
噛めば甘いプリン液が、じゅわっと口に広がる。上にハチミツ、アイスなんかトッピングすれば最強だ。
「……マジか!」
エギエディルス皇子は、驚いていた。固いパンをさらに焼くなんて発想がないのかもしれない。
「あとは~」
久々のお菓子作りにテンションが上がる。
「耐熱グラスかカップあります?」
材料が一緒だし、プリンも作ってやれ……と莉奈はもう一つボールを用意する。
「これでいいですか?」
リックが耐熱グラスを用意してくれた。
「ありが…………」
それを見て莉奈は絶句する。
「……こんなに、作りませんよ?」
全員分のグラスがあった。
なんで、全員分作る感じになってるのかな……。
貪欲すぎじゃない?
「「「え?」」」
ナゼかびっくりした様な声がちらほら。逆にナゼ作って貰えると思った。
「あのねぇ……これは、シュゼル殿下達の!!」
莉奈は一応強く言っておく。さっき食べれたからってまた貰えると思わないで下さい。
「………………」
スゴいがっかりしてる雰囲気が背中からする。見たらアカンやつだ。
「大体、砂糖なんて……庶民がおいそれと口にしていい物なの?」
自分はしっかり紅茶に入れてますけどね!!
「「「「「……………………」」」」」
全員黙った。
やはり、砂糖は高級品の様だ。だって "胡椒" "砂糖" は高値だって学校で習ったし。確かにここは中世ヨーロッパとは違う世界だとしても、所々酷似している。なら、その可能性が……と思ったのだ。
ねぇ……怖いくらい黙り込むのやめてもらえます?
エギエディルス皇子なんか、異様な空気に少し怯えてるんですけど?




