347 手が……
ローヤルゼリーは他にも使い道がありそうだから、小瓶1つ分は残しておこう。
どの道ポーションが足りないから、王城中の女性の分は作れない。まぁ、王城で働く人達はどこぞの令嬢や資産家が多いし、給金も高いから自分でどうにかするでしょう。
莉奈がそんな事を考えていたら「私も試しに1つ、作ってみましょう」と言ってシュゼル皇子も作り始めた。
試作自体に興味があるのかオールインワンジェルに興味があるのか知らないが、いとも簡単に作っていた。
タール長官も同様にサクッと作れたから、彼も【調合】の技能を持っているのだろう。
という事は、調合の技能を持っていれば誰でも作れる……と莉奈は解釈した。
そして、聞いたところ、ここの研究員にも数名程、調合の技能を持っているとの事。
だから、作り方を伝授してローヤルゼリーを渡せば、イイかなと思ったのだけどダメだった。
調合の技能を持っているからといって、絶対完璧に作れる訳ではないらしい。だから、材料を無駄にしたくないからお願いと言われてしまった。
まぁ、ラナ女官長達の分と一緒に作ればイイかと、莉奈は快諾した。
その代わり、ポーションとかローヤルゼリーとか、入れる瓶とかは自分達で用意する様に言ったけどね。
莉奈は、まだ話があるシュゼル皇子とタール長官に別れを告げ、1人銀海宮に戻る事にした。
その戻る途中にふと、シュゼル皇子達に聞いた事を思い出す。
個人差はあるが【技能】は進化や変化する事もある……という話を。
確かめてみようと、魔法鞄からポーションを取り出し【鑑定】を掛けて視た。
【低級ポーション】
マナの葉と水、微量の魔力で作られた魔法薬。
〈用途〉
切り傷、擦り傷などの小さいケガや欠損にかけたり、直接飲用して治す。
〈その他〉
飲料水。
美味しくはない。
「……なるほど」
莉奈は【鑑定】して視て、大きく頷いた。
うん。まったく分からない。
莉奈は、以前の鑑定内容を微塵も覚えていないので、どこがどう変化しているのか、していないのかが分からないのだ。
実際には、大分変化しているのだが、悲しい事に比べて視れない莉奈には、何も分からないのであった。
◇◇◇
「「「神様、リナ神様!! 我々にも美容液なるものを!!」」」
銀海宮に戻って来たら、侍女達が一斉に平伏してきた。
どうやら、また聞きのまた聞きで話を聞いてから、ずっと莉奈を待っていたらしい。
「その話だけどね……」
莉奈は、魔法省の研究員にも話した事を説明した。
材料は自分達で相談して用意する旨を。
「ローヤルゼリーって、どうすればイイのかしら?」
「今って蜂の活動する時期だったっけ?」
「養蜂場!! 養蜂場よ。あそこに頼めば売って貰えるかもしれないわ!!」
「養蜂場はイイけど、どこにあるのよ?」
「知らないわ」
侍女達は一様に首を傾げて悩み、相談したりしていた。
どうやら、ポーションは王都に行けば売られているが、ローヤルゼリーは売っていないらしい。
「軍部の人に相談してみれば?」
莉奈は、そう提案した。
良く分からないけど、とりあえず蜜を集める蜜蜂系の蜂ならローヤルゼリーがあるのでは? と思う。そして、メチャクチャ怖いけど、蜂の魔物がいるのであれば、ソレも可かもしれない。
「そうね!!」
「軍部の人の方が詳しそうだわ!」
莉奈が提案すれば、侍女達は手を合わせ喜び、白竜宮へと早歩きで行ったのだった。
別名、突撃ともいう。
しかし、スゴいよね。侍女達は余程の事がない限り、本当に走らない。莉奈とは大違いである。
◇◇◇
「お前、何を作り出したんだ?」
いつも通り厨房にお邪魔したら、マテウス副料理長が苦笑いしていた。
「え?」
「王城中の女子が、そわそわしてんだよ」
と厨房にいる女性達を指で差した。
仕事中なので作業をしてはいるが、瞳がキラキラ? いやギラギラしている。
休みだったのなら、騒いでいる人達の中に混ざりたかったに違いない。
「あ〜、なんか肌がツルスベになるモノ?」
「なんだい、ソレ」
リック料理長が、首を捻っていた。
お肌がツルスベと言われても、良く分からないのだろう。
「リックさん、手を出して」
「ん? 手を……って怖いんだけど」
莉奈が両手を前に見せる様に出せと言えば、ビクビク怯えて手を出してこなかった。
むしろ、半歩下がって両手を背に隠している。
莉奈が何かやらかすと思っているらしい。
まったく、失礼極まりない。
「イイから出す!」
「はいぃィィ!!」
莉奈が強く言えば、リック料理長は飛び跳ねる様に両手を差し出した。
何もしていないのに、何この怯え方。
莉奈は口を尖らせながら、魔法鞄から例の美容液を取り出した。
瓶に移していないからビーカーのままだけど。
水仕事で荒れているリック料理長の手に、試しに垂らそうと思ったら、莉奈の頭上から震える声がした。
「手……手」
「ん? 手?」
「手が……手が、と、溶けたりしないよな!?」
「はぁァァ〜ッ!? 溶けるわけないでしょ!?」
莉奈が見上げればリック料理長が、ガタガタと涙目で震えていた。
ビーカーで出したものだから、溶解液でもかけられると思っている様である。
なんで、そんな劇薬をかけられると思うのかな!?
莉奈は憤りを感じつつ、溜飲を下げた。
顔に塗った時に手にも付いた訳だけど、手のカサカサもなくなっていたから、ハンドクリームとしても使用出来るのではと思ったのだ。
だから、いつも水仕事で荒れているリック料理長の手も、使ったら綺麗になるのかなと、試そうとしたのだけど……まさかの傷害疑惑。酷いにも程がある。
「手荒れにも効くんだよ」
もう、怒る気にもなれなかった莉奈は、リック料理長の手首を強引に掴み、オールインワンジェルを大さじ1程度垂らした。
「ソレを、手の全体にこうやって伸ばしてみて」
莉奈は手本を見せた方が早いなと、自分にも垂らし手の平や手の甲に伸ばして見せた。
始めこそは少しトロッとしていたけど、伸ばしていくとすぐに肌に馴染んでサラッとなくなるのだ。
カサついた両手が顔同様に、ツルスベプルルンである。
万能過ぎるでしょう? このオールインワンジェル。
「っ!!」
莉奈に言われるがまま、真似をしていたリック料理長が、自分の両手をマジマジと見て驚愕の表情を見せた。
「いっつも、ガサガサだった手がツルッスベだよ!! なんだコレは!?」
何度も何度も両手を揉んだり触ったりしていた。
ヒビ割れもしていた自分の指先が、驚くほどにキレイな肌に戻っていたのだ。こんなキレイな指は、何十年振りと言っても過言ではなかった。
「ちょ、ちょっとリック料理長、触らせて下さい!!」
「うっわぁぁっ!? 何この女子みたいなスベスベな手!!」
「いやぁぁァァっ!! あたしの方がザラっザラだし!?」
「料理長の手が、赤ちゃんみたいにもっちりしっとりしてる!?」
「ヤダー肌触りが良過ぎ!!」
リック料理長は女性に囲まれて、両手をさわさわと触られまくっていた。
さすがのリック料理長もタジタジだったが、若い女性に手を触られ次第に顔はデレデレに溶けていた。




