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聖女じゃなかったので、王宮でのんびりご飯を作ることにしました  作者: 神山 りお


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343 調合室は理科実験室



「あ、リナだ」

「何を作りに来たの?」

「お菓子? お菓子?」



 調合室に向かう莉奈を見つけた黒狼宮の人達は、何か食べ物を作りに来たのかと、キラキラした目を向けていた。

「調合の勉強をしに来ただけですよ」

 ほらほら期待しない、とタール長官が好奇心の塊達に笑顔で対応してくれた。

 リナ=食べ物ではないのだと。

「どうも、リナが来ると期待してしまいますね」

「期待される程のレパートリーはないんですけどね」

 タール長官がつい期待してしまうと、皆の声を代弁していたので、莉奈は苦笑いで返した。

 基本的に庶民が食べる物しか作れない。しかも、ざっくり適当料理レシピで間違いもある。

 正直、未だに作りながら正式なレシピではないので、申し訳ないなと思う時もあるのだ。



「謙遜にも程がありますよ。あ、ここですリナ」

 そう言って、タール長官は莉奈の頭を優しく撫でた。

 莉奈は、ソレがなんだかこそばゆくて嬉しかった。

 タール長官と、たわいのない話をしながら歩いていたら、あっという間に着いた。

 調合室は1階にあった。中は教室3つ分の広さがある。

 部屋の中を見て、すぐ思った事が1つ。

 学校にあった理科実験室にソックリだった。

 背もたれのない四角い木の椅子。机と机の間に流し台があるし、棚にはビーカーやフラスコなど器具が色々置いてあった。

 研究室や調合室というより、莉奈には理科実験室に見えた。だから、妙にワクワクするし懐かしい。



「あ、長官、お疲れ様です。あ、リナだ」

 莉奈が入ると、にわかにザワついた。

 珍しい人が来たと。そして、何を作ってくれるのかと期待の目を向ける。

「ここが調合室で、あちらが薬草や薬品が置いてある薬品室。反対側が、調合した物を保管する保管庫となってます」

「ふぇ〜」

 莉奈はタール長官の説明に、瞳をキラキラとさせていた。

 面白そうで楽しそう。アレもコレも混ぜてみたいし、弄りたい触りたいと、好奇心が疼きまくる莉奈だった。



「シュゼル・スペシャルの様なモノを作らない様に」

「ひぃっ!!」

 嬉々としていた莉奈の耳元に、美声が響いた。

 シュゼル皇子が音もなく、ひっそりいたのだ。

 どうやら、時間を作り見学に来た様である。別名、監視。

 莉奈は、心を見透かした様な声に身体をビクッとさせていた。



「つ、つ、作りませんよ!?」

 多分……と言葉を飲み込んだ。

 好奇心に負けてとか、知らずに作っちゃうかもとは言えない。

「もし、作ってしまってもすぐに報告する様に」

「はい」

 つい目が泳いでしまったのか見透かされているのか、念を押されてしまった。

 出来てしまったモノについては、報告すればある程度は黙認してくれるそうだ。

 間違っても"フェリクス・スペシャル" だけは作らないようにしよう。怖過ぎるから!!




「薬品室も見ていいですか?」

 興味がある莉奈は、薬品室を見てみたいなとお伺いを立てた。

 学校では危険だと、まず見せてくれなかったがどうだろう。

「構いませんよ」

 タール長官から、簡単に許可が得られた。

 あまりにも、莉奈のキラキラした瞳に根負けしたともいう。



 薬品室も、調合室に劣らず広かった。

 中は、換気用の小さな小窓が、天井近くと足元にある。

 気体の性質の違いで、上だけや下に溜まり易いモノを素早く換気させるためらしい。調合室は大きな窓があって明るかった分、やけに薄暗く感じた。

 薬品棚らしきモノは余り見当たらない。代わりに引き出しが沢山付いた木の棚が、本屋の様に並んでいる。

 タール長官に訊いてみたら、薬品は特に危険なので奥にある別室に保管されているとの事だった。

 この薬草室も普段は施錠されていて、入れないと教えてくれた。

 どこも、厳重だなと莉奈は頷いた。薬は毒にもなるから、当たり前だけど。




「この引き出し、開けて見ても?」

 引き出しには、ラベルが貼ってある。

 莉奈の訊いた木の引き出しには、"マナ" と表記されてあった。

「この部屋にある棚は、好きに開けて構いませんよ」

 タール長官がシュゼル皇子をチラッと見てから、莉奈に許可を出した。

「ありがとうございます」

「ちなみに、それは "マナ" といってポーションの材料になる薬草です」

 タール長官が軽く説明をしてくれた。

 莉奈は、そのマナが入っている引き出しを開けて見ると、ハートの形をした可愛らしい葉っぱが沢山入っていた。

 乾燥してあるのか、茶色っぽいしカサカサしている。

 コレがポーションの素になるマナと呼ばれる葉。

 莉奈はなんだか、テンションが上がっていた。

「そちらは葉のままで、その右隣りは乾燥して粉末にしたモノが入ってますよ」

 シュゼル皇子が引き出しを引いて見せてくれた。

 ポーションの材料となるのでマナは勿論、他の薬草も、この引き出し以外に保管庫に備蓄してあるのだと教えてくれた。

 粉末状のモノは、瓶に入れてある。

 莉奈はソレを見て、混ぜて遊びたいなとムズムズしたのを我慢する。



「どうかしましたか?」

 莉奈が何かを探す様に、キョロキョロしていたのを気付いたシュゼル皇子が訊いた。

「え? あ、何か香辛料みたいな匂いが」

 莉奈は鼻をスンスンとさせた。

 そうなのだ。草っぽい匂いに混じる様に、なんだか香辛料か漢方みたいな香りがしたのだ。

「あぁ、香辛料も調合次第では薬になりますからね。他国では "漢方" と呼ばれるモノもココにはありますよ」

 シュゼル皇子はそう言って、香辛料も漢方も、薬草や魔法を混ぜて調合すると、魔法薬になるのだと詳しく説明してくれた。

 民間療法があるくらいだし、漢方薬があっても不思議ではない。アロエとかもあるのかな?



 莉奈は改めて棚を見て感嘆していた。だって、ザッと見ただけでも香辛料が数種類以上はあるのだ。

 コリアンダーにカイエンペッパー、ウコンことターメリックまであって幅広い。

「うっわぁ、カレーが出来ちゃうじゃん」

 莉奈は堪らず呟いた。

 米がないからカレーライスは無理だけど、ナンがあるからナンと食べればイイし、スープカレーにしてパンに浸して食べてもイイ。

 小麦粉とかパン粉があるし、カレーパンだって出来る。

 そんな事を考えていたら、頭と口の中がカレーでいっぱいになってきてしまった。



「カレーとは?」

「え?」

「「 "カレー" とはなんですか?」」

「……」

 声に振り返ったら、シュゼル皇子とタール長官がニコニコとしていた。




 ーーうん。




 今、独り言が漏れていたのは知ってた。

 だって、久々のカレーが食べられると思ったら、勝手に口から出てたんだもん。仕方がないよね?











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