34 魔王と仙人
「フェリクス王とシュゼル殿下って、何が好きなの?」
どうせ作るなら、好みを知っておきたい。もし作ってソレが嫌いな物だったら衝撃だ。食べろと言われた両者もガッカリだろう。
「フェル兄は……甘い物は絶対食わない。魚より肉」
うん。想像通りの "肉食派" でしたな。
逆にベジタリアンとか言ったら、びっくりだよ。
「シュゼ兄は……食べない……」
……ん?
……食べない?
「…………えっ?」
莉奈は、聞き間違いかと耳を疑う。
「……食べない」
「…………」
食べないってなんだよ? そんな選択肢あるの?
え? どゆこと?
……え? 霞でも食べてんのあの人?
王が "魔王" なら
宰相は "仙人"……?
え? なにこの国、人外が治めてんの?
「……シュゼル殿下、食べ物に興味ないのよ」
ラナ女官長が、苦々しく笑った。
「…………はぁぁ!?」
興味あるとか、ないとかの問題?
生きるのに必要な行為じゃないの?
あれ? 私、間違ってる!? だから太ってるの!?
「……シュゼ兄……ポーションさえあれば、どうにかなるって思ってんだよ」
エギエディルス皇子が、混乱気味な莉奈に苦笑いしていた。
「……ポーション?」
ますます、驚く莉奈。ポーションは怪我を治す魔法薬であって、栄養ドリンクではなかったはず。
1度 "鑑定" した時も、そう表記されていた。
それとも高級ポーションは、怪我だけでなく栄養も補ったりもするの?
「ポーションって、実は栄養ドリンクなの?」
自分の "鑑定" 能力が低くて、表記されないとか?
「……違う」
エギエディルス皇子が、ますます苦笑した。
……という事は、やっぱり食べなきゃいけないんじゃない。
「……え? バカなの?」
莉奈は、思わず言った。誰も言わない、言えない言葉を口にした。だって "バカ" でしょ? じゃなきゃ "アホ" だ。
人が生きていく上で、必要な食事を摂らないなんて、莉奈からしてみたらバカ極まりない行為だ。
「「「………………」」」
誰も何も言わない。いや、何も言えない様だ。
否定も肯定もできないのだろう。
「……俺も……そう…思うよ」
エギエディルス皇子もそう思ってたのか、呆れ果てている。
あーーー!!
だから、あんなにひょろっとしてんのか!!
顔色が良くないのも頷ける。
食べなきゃダメでしょ、お兄ちゃん!
やっとシュゼル皇子の、あの外見の訳がわかり納得した。
「でも、お兄ちゃ……フェリクス王は何も言わないの?」
「言ってアレなんだよ……まぁ……少しは食ってる?」
「疑問形かい」
ということは、ほぼ食べてないと言っていいだろう。
も~口に手を突っ込んで食わしたらいいじゃん。
「……いままで、なんか……興味ありそうな食べ物なかったの?」
とっかかりが欲しい。
「う~~~~~~~~~~~~~~~~ん」
オイ! 随分と長い思考タイムだな。
首を捻ったままフリーズしてる。
「あっ! シュゼル殿下、甘い物なら口にしてませんでした?」
ラナ女官長がハッと思い出した様に言う。
「あー!! 豆菓子!! 甘く煮た豆なら、よく……よく?口にしてたな」
リックが同じく思い出したのか声を上げた。だが、自信はないのか疑問系ではある。
「……甘い物か……」
とっかかりって程ではないが、試してみる価値はありそうだ。
「んじゃ、なんか甘い物でも作りますか」
莉奈は、腰に手をあて気合いをいれた。