331 守りたい……え? 誰を?
「ん!? エショデと似たモノだと思ったら、チーズが入っていて美味しい!!」
「ん〜。チーズや具がたっぷりのっているのに、生地がパリパリしているので軽いですね」
アーシェスはチーズナン。シュゼル皇子はピザもどきを堪能していた。
「酒が進む。リナ、酒だ。酒のおかわりだ!!」
「はいはい」
師匠バーツはカクテルを浴びる様に飲んでいた。
せっかくのカクテルなんだから、味わってくれませんかね?
莉奈は追加を出しながら、苦笑いが漏れた。
「あっ、チーズナンにはハチミツをーー」
「下さい」
莉奈が最後まで言う前に、シュゼル皇子が目をキラリとさせて被せてきた。
本当に甘い物に目がないよね。なのに、身体がスラッとしているなんて解せぬ。
「んん〜。チーズの塩気がハチミツの甘さでまろやかになって、スゴく美味しい」
「「……」」
エギエディルス皇子と莉奈は、無言でシュゼル皇子を見ていた。
だって、チーズナンにハチミツをかけるのはイイけど、その量がハンパないのだ。たっぷりなんて可愛い量ではない。ドバドバって言葉が当てはまる。
パンケーキだって、そんなにかけないよ。
「気持ち悪っ」
エギエディルス皇子が、顔を顰めて呟いていた。
その表情は兄王フェリクスと似ているなと、莉奈は笑っていた。
「オシャレね。この?」
「ウォッカで割ったのがソルティ・ドッグで、テキーラで割ったのがソルティ・ブルですよ」
師匠バーツと違って、カクテルをしっかりと味わうアーシェスに、莉奈は作り方も含めて簡単に説明した。
「なるほど、塩が付いているから "ソルティ" なんですね?」
横で聞いていたシュゼル皇子が、グレープフルーツジュースにハチミツを入れながら話に加わった。
ちなみに、カクテルっぽさを出すためにグレープフルーツのジュースのグラスの縁には、塩の代わりに砂糖を付けてあるんだけど、シュゼル皇子には足りないらしい。
莉奈が母親だったら「甘くし過ぎ!!」と頭を叩いただろう。
「え、あぁ、なるほど。言われてみればそうですね」
莉奈は一瞬、ハチミツに気を取られていたが、シュゼル皇子に言われてソルティの意味が分かった。
そんな言葉の意味まで、今まで考えた事なんてなかったよ。
「ちなみにですけど、このブルドッグ。私が住んでいた国のカクテルのレシピなので、他の国では作り方が全く違うらしいです」
そうなのだ。莉奈が知っているレシピはあくまでも、日本で一般的に作られていたり、両親から聞いたレシピなので、他の国のレシピなんてほとんど知らない。
それほど、カクテルは名称こそ同じであっても、国や作り手によって全く別物になる飲み物なのである。
同じ名前でも日本と他国では名称まで違ったり、ややこしかったりもする。
以前作った "ウォッカ・アップルジュース" も別名が "ビッグ・アップル" なんて、全く違う別名まであるから、何が正解で不正解かなんて、その道のプロでなければ分からないのだ。
「どう違うのですか?」
興味があるのか、シュゼル皇子が訊いてきた。
「他国では、オレンジジュースや生姜から作ったジンジャーエールって言う飲み物、それとドライ・ジンで割ったのがブルドッグって言われていたり、チェリー・ブランデーやライムジュース、ホワイト・ラムで混ぜたのを言っていたりと様々みたいです」
「何故、そんなにレシピが違うのですか?」
「う〜ん。私も詳しくは知りませんけど、その国オリジナルになったとか、まだ変化中? とか言われていますね」
調べた訳ではないから詳しくは知らない。
ただ、そんな話を両親がしてくれた覚えがある。
そう説明したら、シュゼル皇子とアーシェスが感心した様に頷いていた。
「カクテルと一括りに言っても、奥が深いのですね」
シュゼル皇子は今は飲めないので、アーシェスの飲むカクテルを羨ましそうに見ながら、ジュースを飲んでいた。
「ぁ」
「あ、なんですか?」
小さく呟いた莉奈の言葉を、シュゼル皇子が相変わらず拾ってくれた。莉奈は苦笑いするしかない。
「えっと、そのカクテル。確か花言葉みたいに、カクテル言葉があったハズ」
「「カクテル言葉?」」
シュゼル皇子とアーシェスが同時に訊いてきた。
師匠は興味が全くないから、話をガン無視して酒をグビグビ飲んでいるけど。
「え〜と。ブルドッグには "あなたを守りたい" ってカクテル言葉があった様な気がします」
酔ってご機嫌だったお父さんが、恥ずかしそうに言っていたのを思い出した。
お酒好きの母をお洒落なバーに連れて行って、遠回しでコレを出して口説いたとか。
だけど、飲むのが好きなだけで、カクテル言葉なんてあるのを全く知らない母には、全然響かなかったと……父が苦笑いしながら話してくれた。
それ以来父は、母を口説くにはやっぱり、ストレートな言葉が良いと悟った様だ。
「口説き文句代わりに使えそうね」
ホロ酔いのアーシェスが、うっとりした様子でグラスを傾けながら言うと、一応は聞いていたのか、向かいに座る師匠バーツが鼻で笑った。
「ふん、アホか。カクテル言葉どころか、カクテルなんぞ誰も知らんだろ」
至極もっともな意見だった。
「あ、そうそう。アルコール度数が強くて飲みやすいカクテルには別名"レディキラー" なんて呼び名がありますよ」
莉奈が苦笑いしながら言えば、ますます師匠バーツが鼻で笑った。
「はん! な〜にが "レディキラー" だ。酒に酔うような可愛らしい女なんて、この国にゃあまずいねぇわ」
わしは生前の婆さんに、1度として勝った事なんてねぇと、師匠バーツは楽しそうに笑っていた。
ーーマジか。いないのかよ。
莉奈は師匠バーツの言葉を聞いて、ラナ女官長と侍女モニカの顔がチラッと頭を横切った。
確かにあの2人、ほんのり可愛らしく酔うイメージが湧かない。酔い潰れるのは、一緒に飲んだ男達だろう。
どうやら "守りたい" なんてカクテル言葉は、この国にはいらぬお世話らしい。
しいて言うなら、頼むから守らせてくれ?
その瞬間、リック料理長の顔が何故か浮かんだ莉奈だった。
「このピザもどき、美味しいわね。お酒が進む進む」
「リナ!! 今夜は寝かせねぇぞ」
アーシェスは頬を少しだけ赤くさせて、ホロ酔い加減だけど、師匠バーツは完全に酔っ払っている。
今夜は寝かせねぇぞって、何を言ってるのかな? このオッサンは。
ーーしばらくして。
酒をガッツリ飲んで、チーズナンやピザもどきをたっぷり食べた師匠バーツは、超が付く程ご機嫌で鼻歌を歌いながら、アーシェスと帰って行った。
そんな2人を見送りながら、莉奈はフと思った。
「何か大事な事を、忘れている様な気がする」
莉奈はそんな気がしたが、お米が手に入るかもという希望が嬉しくて、まっいっかと考えるのをやめた。
◇◇◇
ーーその翌日。
事件は起こった。
最新話までお読み頂きありがとうございます。
【次回、莉奈攫われる】
お楽しみに〜? ヽ(・∀・)




