330 カカオ、カカオ、カカオ……時々コメ
「で、師匠。このお酒はどこで?」
莉奈は我が道を行く。
この国に米がないのなら、コレは何処の誰が造ったお酒なのか。ヒントはこれを持っていたバーツのみである。
訊いておいて損はないとばかりに、詰め寄った。
「お前」
「師匠〜」
バーツは無言である。
自分はお前の師匠じゃないとか、何故そこまで食い付くのかとか色々と唖然としていたのだ。
「師匠、教えてあげたら?」
必死の莉奈に苦笑いしつつ、アーシェスが援護してくれた。
あまりにも必死で、可哀想に思ったのかもしれない。
「そうは言っても、知らねぇんだなコレが」
「なんで〜!?」
バーツがあっけらかんと言えば、莉奈は心底嘆く声が出た。
ここにあるのに知らないとか、理解出来なかった。
「なんでもクソもねぇよ。ランデルって奴が毎年、リヨンに寄るついでにくれるんだよ」
武器屋をやっているせいか、世界中の冒険者がやって来る。
その内の客がたまたま、この酒を持って来るのだ。酒なら何でもいいバーツは、何処の国の何処で造られたなんて訊かないし知らない。
「ランデルって何処のどいつ?」
「知らねぇ」
莉奈がバーツに訊いてみれば、師匠バーツは詳しくは知らないと言う。
「使えない」
「口の悪ぃ女だな。ホント」
ションボリした莉奈が思わず呟けば、師匠はその言葉に怒りもせず楽しそうに笑っていた。
使えないと言われた事なんて初めてだからだ。
莉奈は一瞬喜んでしまった分、余計にガッカリしていた。
竜がいるけど、あてもなく簡単に捜せるものではない。
ランデルなんて名前、珍しくもないのだ。漠然とし過ぎて捜すのは困難だろう。
「リナは米というモノが欲しいのですね?」
理解したシュゼル皇子が、ほのほのと訊いた。
原料の米を見て我を忘れたのだから、そう言う事なのだろう。
「はい!!」
「では、カカオを探すついでに、探しておきましょう」
「カカ……は……い」
カカオ、チョコレートの存在を忘れていなかったのか。
莉奈は、空笑いが漏れた。
チョコレートの話なんて、もうしていなかったから忘れてくれたと思っていた。
シュゼル皇子が忘れる訳ないよね。
◇◇◇
師匠バーツにもう少し話を聞いて、"カカオ" のついでにお米を探してくれると、シュゼル皇子は言ってくれた。
ありがたい様な、ありがたくない様な。
「とりあえず、作って来たモノをご賞味下さい。右からチーズナンと、ピザもどきです」
自分だけでは、どうにも出来ないと諦めた莉奈は、気持ちを切り替えて作ったモノをテーブルに出した。
「俺も手伝ったんだぜ?」
それを見たエギエディルス皇子が自慢顔で言えば、シュゼル皇子が「頑張りましたね」と褒めていた。
その頭を撫でようとしたシュゼル皇子の手を、エギエディルス皇子は断固撥ね付けてはいるけど。その攻防がなんとも微笑ましい。
「何コレ。大きなエショデ?」
チーズナンを見たアーシェスが、眉根を寄せた。
言われてみれば、見た目は確かにエショデに似ている。
「似ていますけど、違いますよ。あっ、カクテルもどうぞ」
莉奈は笑いながら、カクテルを魔法鞄から取り出した。
エギエディルス皇子とシュゼル皇子には、グラスの縁に砂糖を付けただけの、ただのグレープフルーツジュースだ。
カクテルではないので、酸味を和らげるために塩の代わりに砂糖をグラスの縁に付けてみた。
「!? なんかすげぇカッコイイ!!」
エギエディルス皇子が嬉しそうに言った。
「カクテル?」
アーシェスが不思議そうに訊いてきたので、カクテルとは何かと軽く説明をした。
「あ、じゃあさっきのエール。アレもカクテルなのね?」
説明を聞いて分かったアーシェスは、先程先に出したビア・スプリッツァーもカクテルだと気付いた様だ。
「そうですよ。アレはエールを白ワインで割った "ビア・スプリッツァー" って言うカクテルです」
「白ワイン! だから、どこかフルーティーだったのね」
謎が解けたとアーシェスは大きく頷いた。
エールにしては、葡萄の香りがしてオカシイなと思ったらしい。
「リナ。白ワインとエールを割るのがビア・スプリッツァーなら、赤ワインと割るのはなんと言うのですか?」
グレープフルーツジュースを美味しそうに飲みながら、シュゼル皇子が訊いた。
だよね? 白ワインがあれば赤ワインもあると思うよね。
それは先程、料理人達が聞いてきた疑問でもある。
でも、本当に知らないんだよね。
「存じ上げません」
「知らない?」
「はい。知りません」
莉奈は料理人達にも言った答えを、同じ様に言った。
シュゼル皇子は、詳しい莉奈が珍しいと首を傾げた。白と赤があるワインの、片方だけ知っているのは何か引っかかる。
そう思ったシュゼル皇子は、ただただ黙って莉奈を見ていた。
その無言の圧力に負けた莉奈は、仕方がないと口を開いた。
「知らないと言うより、ないんですよ」
「ない?」
「万人受けしないのか、基本のレシピがないんです」
シュゼル皇子の視線に促され小さく言えばーー。
「「「はぁ!? なんだって!?」」」
途端に厨房から声が聞こえた。
小さく言ったところで、聞き耳を立てていた料理人達に聞こえてしまった様だ。
あ〜あ、黙っていようとしていたのに、料理人達にバレちゃったよ。
莉奈は小さく苦笑いしていた。
厨房で楽しそうに作っている料理人達に、どんな意見が出るか黙って試飲させたかったのに。
「美味しくないんですか?」
「う〜ん。完全に好みの問題ですね。赤ワインで割ると、赤ワインの味や香りが強く出て、気になる人もいるみたいですが、白ワインよりコクがあって美味しいと言う人もいます」
シュゼル皇子の疑問に莉奈が答えた。
でも、基本的なカクテルレシピにはないだけで、赤ワインのカクテルは少なからずある。
家でお母さんが飲んでた時は、赤ワインはビールで割るより、ジンジャーエールと割った "オペレーター" か、コーラと割った "カリモーチョ" の方が飲みやすくて美味しいと言っていたし。
だけど、この国にジンジャーエールもコーラもないから言わないよ。だって、そこから作るのイヤだもん。
「なるほど」
でも、少し興味があるのか欲しいと、シュゼル皇子は言う。
だから、作っておいた物を後でまとめて渡すと伝えた。
「マジかよ!!」
「微妙なのかよ!!」
「試飲じゃ済まない量を作っちまったし!!」
厨房では、俄かにブーイングの声が聞こえていた。
また莉奈に騙されたと嘆いていたが、リック料理長だけはやっぱり裏があったと笑っていた。
「旨ぇ!!」
師匠バーツは、そんな話はどうでも良いのか、1人ピザもどきを食べていた。
「固いかと思ったが、生地がパリパリして旨い!! 酒もなんだか分からねぇが、コレも旨い!!」
片手にピザもどき。片手にカクテルを持ってガツガツと食べていた。
師匠は酒精があれば、カクテルでもなんでも良さそうだなと、莉奈は笑っていた。




