33 忘れてたよね?
これ書いてると、お腹が鳴ります。
晩御飯はクリームシチューにしようかな。
「……リナが、いつも微妙そうにしてた訳よね……」
ラナ女官長がボソリと言った。
いつもの水煮に近いスープを思い出して比べた様だ。
「これに比べたら、我々のあのスープは……水煮だな……」
リック料理長が、肩を落とした。自分達の作っていた物と、根本的な所から違ったのだ。それは衝撃に違いない。
「「「…………そう……ですね」」」
部下である料理人達も、ため息混じりに呟く。それぞれに衝撃だったらしい。
「まぁ、私からしたら "魔法" の方が衝撃だけど……。文化の違いってヤツじゃないですかね?」
莉奈とて、何一つ自分で考案した物などない。やり方こそ自分流にはなってるものの、全ては見たり聞いたりだ。
「そういうものでしょうか? 違う気が……」
となおも、覇気のないリックに莉奈は笑った。
「コッチが "魔法" が発達してる替わりに、アッチは "料理" が発達してるんですよ。そういう違いですよ」
「……」
「これだって、私が考案、発案した物ではないし "料理" が特化した "世界" から来たんだと思って下さい」
あまりショックを受けてくれても胸が痛む。普通に美味しいでいいのだから。
「そうよ! あなた……知らないなら学べばいいのよ。ね?」
ラナが、旦那であるリックの落とした肩をパシンと叩く。
「そうだ……そうだな! 学べば……教えを請えば!! リナ、よろしくお願いします!!」
と奥さんの言葉に奮起したリックは頭を下げた。イイ夫婦関係だ。
「いやいやいや!? 頭を上げて下さい。私で良ければいくらでも教えますから!!」
リック料理長に頭を下げてもらう謂れはない。むしろいくらでも教えるから、是非とも作って欲しい。正直に言えば毎日は面倒くさいのだ。
料理なんて、好きな時に好きな物を作るに限る。
「「「ありがとうございます!!」」」
今度は、一同が頭を下げた。
「では、こちらこそよろしくお願いします」
それにならって、莉奈も頭を下げた。
どっちかというと、たぶん自分の方が好き勝手やって、迷惑をかける可能性が高いからだ。
「なぁ、リナ」
「なぁにエド?」
あれ? なにげに彼が私の事、名前で呼ぶの初めてじゃない? いつも、"オイ" とか "お前" とか……アンタは私の旦那かよってなぐらい名前で呼ばないのに。
「コレ……兄上達にも、食べさせてやりたいんだけど…作ってくれよ」
"コレ" 謂わずもがな、クリームシチューの事だろう。兄思いのイイ子だ。だが、しかし、
「……材料ないよ?」
だって、私の勘が正しければ、さっきの鶏ガラはたまたま残ってただけだ。なら、他は捨てちゃっててない。
なんなら、その端にある生ゴミ処理箱……スライムちゃんのお腹の中じゃないかな……?
「……オイ!」
エギエディルス皇子は、リック一同に訊く。
「大変申し訳ありません。先程ので鶏の骨は最後で……」
「おまけに、鶏ガラの用意と下準備モロモロ……時間がないんじゃないかな?」
頭を下げ詫びるリック一同の言葉を莉奈が拾った。
「なっ!!……マジかよ」
エギエディルス皇子は、ガックリと肩を落とした。
「みんな、食べるのに夢中で……誰一人 "国王様" とか "宰相様" の事なんて頭の端にも思い付かなかったもんね~?」
莉奈は、ハハハと空笑いした。だってここにいる全員、莉奈が引くぐらい群がってたし。久々の食べ物を見た様な食べ方だった。
「「「「「………………」」」」」
莉奈以外、全員目を逸らし押し黙った。
ひょっとしたら一番先に、献上しなければいけなかったのかもしれない御方達だ。ガッツリ忘れてた……ではいけない。
「……リナ……なんとかなんねぇのかよ」
「なんないね~」
だって、ここに鶏ガラないもん。
「…………」
エギエディルス皇子は、みるみるうちにションボリしてしまった。正直かわいそうでいたたまれない。
「クリームシチューはムリだけど、なんか違うの作ろうか?」
それが、あの漆黒の王の口に合うかしらんし怖いけど。
「……! マジで!?」
「マジ……大マジ……ま、たいした物作れないけど」
莉奈は、冷蔵庫をあさり始める。
「ありがとう!!」
そんな莉奈にエギエディルス皇子が、眩しいくらいの笑顔を向けた。
…………キュン。
なんだそれ~~~!?
マジか、胸がキュンとしたし!!
すごい破壊力がある笑顔なんですけど!!
お姉さんなんでもしてあげるからね?って口からいらん言葉がでそうだよ。
なんだよ! やっぱりあのシュゼル皇子の弟だよ! 笑顔半端ない!
ショタ趣味ないけど、いらん扉開いちゃいそうだよ。
莉奈は、開けてはいけない扉を慌てて閉めた。
クリームシチューといえば、やっぱり鶏肉!!
あれ?牛肉派もいますかね?




