323 片刃と両刃
「コレ、果物と野菜!?」
アーシェスがマジマジと見ながら感嘆していた。
こんな細工した食材を見た事がなかったのだ。
「そうですよ? この花は果物、クルッと丸くなってる白いのは大根です」
大根は桂むきにした後、細く切りクルクルと丸めてリボンぽくしてある。ウチの竜可愛いのが大好きだから。
毎回はやらないけど、たまにやってあげると、喉をクルクル鳴らして嬉しそうにしていた。アメリアではないけど、あの姿は確かに可愛いと思う。
「「はぁァァっ」」
説明をしたら、師匠とアーシェスはさらに感嘆の息を漏らしていた。
「…………」
フェリクス王は完全に呆れていた。
竜なんかに、こんな細工をして飯をやる意味が理解出来ないのだろう。アホくせぇと顔に出ている。
「大根の桂むきや魚を3枚に下ろす時は、片刃包丁の方がキレイに切れるんですよ。だから、陛下の刀が片刃だったんで、もしかしたら包丁も片刃かなと思っていたんですよ」
フェリクス王の、対魔物用の武器。日本刀以上に斬れ味抜群の刀。だから、少し期待していた莉奈だった。
「良く見てやがったな」
フェリクス王が素直に感嘆していた。
あの少ない時間で莉奈が良く、片刃か両刃なのかを見ていたなと。武器に携わる者でもない限り、普通は気にもしないモノだ。
「陛下の刀。もの凄くキレイでしたから」
あの形は、三日月刀というのだろう。武器に触れる機会も増えたが、今まで見たなかでも随一である。
本物の日本刀など、見た事はないが。同じかそれ以上に綺麗だと莉奈は思った。
「片刃と両刃で切ると違うのか? 小娘」
鼻を鳴らしながら師匠こと、バーツが訊いてきた。
武器の斬れ味については肉なら知ってはいるが、食材の切れ味までは知らない。バーツは興味が湧いていた。
そんな莉奈を少しは認めたのか、小童から小娘に昇格した様だ。
「切れる食材の薄さが違いますよ」
「だが、両刃の方が切断するのには向いとるだろ」
そんな理由だけなら、武器職人の自分の方が詳しい。バーツは莉奈に目を細めた。
「確かに、野菜や魚を切断するには両刃です。だけど、野菜の皮を薄く剥いたり、魚の骨に沿って身を削ぐには、片刃の方がキレイで上手くいくんですよ」
莉奈は、身振り手振りを使って説明した。
魚の骨に沿わせるには、片刃の方が上手くいくのだ。
真っ直ぐ切断したいのなら両刃。片刃は刃が片側しかないから、刃が斜めに曲がっていって美しくない。
「この方の刀は片刃だが、薄斬りも切断も得意だぞ」
師匠バーツは得意げに、フェリクス王を見た。
どうやら、フェリクス王の刀は片刃ではあるモノの、両刃の威力も兼ね備えているらしい。
何、その恐ろしい情報。
大体それ、日本刀で竹を斬るみたいな技が、絶対に必要なんでしょうよ。
「でも、それを料理には使えないでしょう」
だから、堪らず莉奈は口に出してしまった。
それを知ったところで、使えないしどうしろと?
「アハハハハ、そりゃそうだ」
師匠バーツが大口を開けて笑っていた。
◇◇◇
「まぁ、お前が包丁に詳しいのは理解した。だが、実際食べてみない事には分からん、なんか作ってみろ」
師匠バーツは、そう言って面白そうに莉奈を見た。
結局、果物や野菜の細工を見ても、それを莉奈がやったという証明にはならないらしい。
魔法鞄から出来た物を出しただけだからね。信用する程の価値はないのだろう。
「……なんか作れって」
「王宮は飯屋じゃねぇぞ」
莉奈が呆れている以上に、フェリクス王は呆れている様だった。
「そう、固ぇ事言わないで下さいよ "空石" を持って来たんですし」
師匠バーツはそう言って、パンパンに膨らんだ布の袋をドスンとテーブルに置いた。
その布の袋をイベールが手に取り、上座に座るフェリクス王に手渡した。
「ほぉ、良質だな」
布の袋から1つ取り出したフェリクス王は、光に照らして満足げに言った。
莉奈がパッと見た感じ、取り出した"空石" は無色透明で、ガラスかクリスタルの様に見えた。
あの布の袋には、あの石の様な物がギッシリ入っているらしい。
「陛下のためと、質の良いヤツを選りすぐったんでね」
師匠バーツはニカッと笑った。
仕入れた物をどこかに卸す段階で、献上品として選別して残していたのである。
「リナ、ジジイに飯を作ってやれ」
献上品に至極満足したのか、フェリクス王は口端を上げて莉奈に頼んできた。
「……」
オイ、コラ。
飯屋じゃねぇって言ったのドコのどいつだよ。
「タコみたいな顔すんな。コレをやるから」
「……タコ」
つい、口を尖らした莉奈に苦笑いしたフェリクス王は、見ていた空石を1つ指で弾いた。
その空石は綺麗な半円を描きながら、莉奈の膝の上に落ちてきた。莉奈はそれを咄嗟に、両手で受け取った。
貰った空石は、アーモンドみたいな形をしていて、大きさは掌で軽く握れるくらい。
フェリクス王がした様に光に照らせば、無色透明の綺麗な石だった。
「この国、タコがいるんですか?」
「何故ソッチに食い付く」
宝石とまでは言わないが、そのガラスみたいな石は貴重な空石だ。なのに、莉奈が食い付いたのは、自分が揶揄って言った "タコ" の方だった。
まさかの返答に、フェリクス王は堪らずツッコミを入れてしまった。
「だって、タコは美味しいですよ? タコのカルパッチョ、タコの唐揚げ、タコのアヒージョ、どれも白ワインに合いますし」
お米があるならタコ飯が食べたいけど。たこ焼きくらいなら作れるかな?
空石を見ながら莉奈は、タコに思いを馳せる。
莉奈は悪口さえ飯の種にしていた。
「至急、ブラントからタコを取り寄せろ」
「御意に」
ブラントとは、ヴァルタール皇国の南の方にある港町だ。
タコ料理に思いを馳せていたら、フェリクス王が執事長イベールに命を下していた。
莉奈がワインに合うと言ったからだと思う。こういう言動を見ていると、甘味のシュゼル皇子と兄弟だなと感じる。
しかし、タコが食べられるのは嬉しいけど、そんな勅命ありますかね?
ついでにお米を探して欲しいと、莉奈は思ったのだが、言葉を飲み込んだ。変なところで真面目な莉奈は、なんだか強請るみたいで厚かましく感じたのだった。
「何、その勅命」
アーシェスが、目を丸くして呆れていた。
内容が前皇帝とは雲泥の差ではあるが、私利私欲で使うと云う点では同じだ。前皇帝も知っているアーシェスは、妙なところで親子の繋がりを感じ複雑な気分になっていた。
口に出したら、フェリクス王が超絶不機嫌になるのは分かっているので、絶対に言わないけど。
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