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聖女じゃなかったので、王宮でのんびりご飯を作ることにしました  作者: 神山 りお


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320 おめでた〜い?



 しかし、なんでこんな風にしたのだろう?

 真珠姫の部屋は、なんと言うか……一言で言うと、おめでたい部屋? である。

 シュゼル皇子は何を見て、考えてアレにしたんだろうか。日本を知っているとも思えないし、似た文化でもあるのか、たまたまなのか。



「なんで、こんな風になっちゃってんの?」

 真珠姫の部屋を改めて見た莉奈は、疲れた様子で呟いた。

 だって、見本になる部屋はある訳だし、全く同じにしないにしても、何故こんな風になるのだろう。

「白を基調に差し色を入れて……私らしくと頼んだら……そうなりました」

 泣きべそをかいている真珠姫は、力無くフラフラと碧ちゃんの部屋から出て来た。

「ステキナ部屋デスネ」

「ど・こ・が・ステキなんですか!?」

 莉奈が適当な事を言ったら、真珠姫がものスゴい形相でツッコんできた。生暖かい鼻息が莉奈にかかる。

 美人が台無しですよ? 竜だから美的な基準が分からないから私的だけど。



「どうにかして下さい」

「どうにか……って」

 真珠姫が涙ながらに莉奈に縋ってきた。

 どうやら、この部屋は絶対に嫌だそうだ。

「…………」

 莉奈は、改めて真珠姫の部屋を見て唖然としていた。

 

 

 何がめでたいって、壁に掛けてある布切れ?

 真珠姫は一面真っ白だとつまらないから、ポイント的に差し色を入れて……とシュゼル皇子にお願いしたと言っていた。

 だけど、コレ。差し色とか差し色じゃないとか、なんか違うと思う。差し色ってこういう風に使うんじゃない気がするんだけど。

 1mくらいの幅の縦に長い布が3色、規則正しく並んで壁一面に垂れている。端から白、ピンク、赤、白……。

 紅白ではないものの、莉奈はこれと似た様なモノを、日本で見た覚えがある。




 ーー入学式だ。




 そうだよ、コレ。

 何かのお祝い事の時、入学式とか祝賀会とかそういった感じの時に、壁に掛けてある垂れ幕だ。あれに凄く似ている。

 そして、入り口は光沢のある白い布を、天井の中心から壁にハの字にふわりと掛けてある……のはイイけど、そのハの字の真ん中にピンク色の布の花が飾ってある。

 これも入学式とかに、在校生達に「おめでとう」って胸に付けられた胸章リボンにしか見えない。なんか、全てにおいて、ものスゴくおめでたい部屋だ。

 ここで写真を撮ったら、きっと竜の入学式みたいで可愛い? のかもしれない。「入舎おめでとう?」みたいな。



「なんでしょうか、おめでたいですよね?」

 覗きこんだ碧ちゃんが、ボンヤリと呟いた。

 碧ちゃんも唖然というか呆気というか、この部屋の表現が難しいみたいだった。

「おめでたいとは何ですか? リナ、その者と同じ様な部屋に直して下さい」

 2人して "おめでたい" と言うものだから、少し不機嫌な真珠姫が莉奈に頼んできた。

「改装はイイですけど、一応シュゼル殿下に断りを入れてーー」

「あの者の許可など必要ありません!!」

 シュゼル皇子の許可を貰って来てと言おうとしたら、ものスゴい形相で真珠姫は話をブッた切った。

 でも許可でなくとも、話は通しておいた方がイイと思う。だって、自分が真珠姫のために飾った部屋が、ある日突然ガラッと変わっていたらショックしかないからだ。



「あるんだよ。一応シュゼル殿下に断りは入れてからね」

 呆れて敬語すら忘れた莉奈。

 シュゼル皇子がシュゼル皇子なりに、考えに考えて飾ったに違いないのだ。それを真珠姫に言われたからと、莉奈が好き勝手には出来ない。

 だから、許可は必要だと伝える。

「あのアホに良いと言わせてくればイイのですね?」

「アホって……まぁ、そうですーー」

 莉奈が承諾の言葉を言う前に、真珠姫はバタバタと跳ねる様に外に出て行き、バビュンとものスゴい速さで飛んで行った。

「……」

 自由だな〜。

 莉奈唖然呆然である。




 ーーガサガサガサガサ。




 そんな自由竜こと真珠姫の去った場所を、莉奈は呆然と見ていると、背後から奇妙な音がし始めた。




 振り返ると、たくさんの藁や塵が宙に舞っていた。





 うっわぁ〜〜っ。

 なんだコレ。

 莉奈はその光景に、ポカンとしてしまった。




 しばらくして、我に返ると改めて音の方に顔を向けた。

「何してるの? 碧ちゃん」

 どうやら莉奈の竜が一心不乱に自室の藁を、部屋の前に掻き出している様だ。その勢いと風で、藁が木枯らしの様に舞っている。

 なんで散らかすかな?

「寝床が生暖かくて気持ち悪い」

「…………」

 そりゃそうだ。さっきまで、真珠姫が寝そべっていたからね。

 他の竜の温もりや匂いがついていて嫌なのだろう。

「碧ちゃん、散らかるからヤメて」

「……」

「碧ちゃん」

「……」

「碧ちゃ〜ん」

 気持ちは分かるけど、ソレを掃除するの誰だと思ってるんだよ。なんなら、床が爪で傷むからヤメて。

 莉奈の話など無視して、ガサガサとまだ必死に藁を掻き出している。余程イヤみたいだ。

「碧ちゃーーん!!」

 莉奈は堪らずヤメロと大声を出した。

 宿舎が壊れちゃうよ。

 莉奈が叫べば碧空の君が、やっと我に返ってこちらを見た。

「新しいの敷いといてあげるから、散歩に行って来なよ」

「……分かりました。ついでにご飯も」

「ハイハイ」

 取り換えるついでに用意しといてあげるよ。

 全然ついでじゃない感じがするけど。



 莉奈がそう言うと、碧空の君は納得したのかルンルンとご機嫌そうに宿舎から出て、真珠姫同様に空に溶けて行った。



「私はいつになったら、碧ちゃんに乗れるのだろうか」

 莉奈は疲れた様に呟いた。

 聖女でも勇者でもなんでもないのに、何故毎日がこんなにも忙しいのだろう。誰か教えて下さい。

「竜に乗りたい」

 せっかく番がいるのに、一向に乗れる気配がない。

 莉奈は再び呟いていた。



「アメリア。コッソリと見てないで手伝ってくれるかな?」

 竜達が出て行った反対側の出入り口の柱の影から、近衛師団兵のアメリアが顔を覗かせていたのだ。

 気になっていたのだろう。

「ゴメン、なんか圧倒されちゃってた」

 気難しい真珠姫と、碧空の君の2頭のやり取りに混じる勇気はなかった。

 自分には絶対に無理なのに、莉奈は堂々としていて、スゴイなと尊敬し呆然としていたのだ。

「藁を片付けるから、その悪魔が持ってるフォークみたいなヤツ取って」

 莉奈は宿舎の片隅、空き部屋に置いてある道具を指差した。

「ぷっ。悪魔が持ってるフォークみたいなヤツって、コレの事?」

「そうソレ」

 莉奈が言えばアメリアが「何その例え」と笑いながら、ソレを持って来てくれた。

 藁を搔き出すために、持ち手が長く先が何本かに分かれている道具で、良く農家や酪農している人が藁を掻き集める時に使用する大きなフォーク。

「 "ピッチフォーク" って言うんだよ」

「ピッチフォーク? フォークは分かるけど "ピッチ"って何?」

 大きいフォークみたいだから、フォークって付いているんだと思うけどピッチとは? と莉奈が疑問を投げかければ、

「知らないよ。藁とかそういう意味じゃないの?」

 とアメリアは困った様に笑っていた。

 アメリアも誰かにピッチフォークだと教わり使用していただけで、語源や意味なんか知らなかったのだ。

 莉奈に訊かれるまで、気にもしなかったくらいだ。



「ピッチスプーンとかもあるのかな?」

「それ、もうスコップじゃない?」

「アハハ、確かに、でもシャベルじゃなくて?」

「ややこしい事言うなよ」

「足をかけられるのがシャベルだっけ?」

「それこそ知らないよ〜」

 竜がいなくなり穏やかな時間を、藁の取り替えをしながら、過ごす莉奈とアメリアだった。









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