319 わがまま娘か
ーー次の日。
莉奈は、竜に乗る練習をしようと朝から気合を入れていた。
竜に着ける鞍を作って貰ってはいたのだけど、ゆっくり竜に乗る暇がなかった……と言うか、碧ちゃんがいない日が多かった。
部屋は気に入っているから、寝るためには戻っていたみたいだけど、朝にはいないんだよね。のんびりしているのは好きじゃないらしい。
ギャッワーーッ!!
ギャワギャワ!!
うっわ〜。来なきゃ良かった。
だって、何故か朝から竜の宿舎が騒がしいんだもん。
竜が念話を使えるのに使わないとか、絶対にヒートアップしているに違いない。
何を言っているかは分からないが、モメている様に莉奈には聞こえた。嫌な予感しかしない。
「カエロウ」
今日も今日とて、仕方がない諦めるかと莉奈は思った。
【碧空の君】こと碧ちゃんの宿舎に足を運ぶに連れて、竜の言い争いの様な声が聞こえてくるし。
碧ちゃんと誰かの竜な気がする。
ヨシ、帰ろうと踵を返した所で、念願の竜騎士になれたアメリアに捕まった。
アメリアの竜は、碧ちゃんの隣の宿舎だそうだ。番になった竜が可愛くて毎日会いに来ている。
番はいない時もあるけど、そういう時は掃除をしたり飾ったり楽しんでいるらしい。
「リナ、止めて来なよ」
「なんでだよ」
「アノ声、リナの番だろう?」
「チガイマス」
「違うってあの宿舎、リナの竜かシュゼル殿下の竜しかいないし」
「誰カノ竜ガ、遊ビニ来テイルダケ」
「とりあえず見て来なよ」
莉奈の苦しい言い訳に笑いつつ、アメリアは見て来る様に背中を押して促した。
実は今朝からあの様子の様で、他の竜や近衛兵の仲間達が困惑していたのだ。
無視しようとしたけど、遠巻きに見ていた近衛兵達にも「行って来い」と視線で促され、莉奈は渋々碧空の君の宿舎に足を向けた。
「…………」
柱の影からひっそりと覗いて見れば、碧ちゃんの部屋の前で、碧ちゃんと誰かが何かモメている。誰かって竜なんだろうけど。
何か良く分からないが、碧ちゃんの部屋に誰かが居座っているっぽい。
え? どゆこと?
莉奈が中の様子を宿舎の影から訝し気に見ていたら、目の端にヒラヒラとしたモノがチラッと見えた。
うっわ、なんだコレ?
「リーーナーーッ!!」
「あっ、バレた」
目の端の何かに気を取られていたら、碧ちゃんに見つかった。
うん。胸の鱗が真っ黒だね? ご機嫌斜めですか。
「何、怒ってるの?」
訊きたくないけど、バレたものは仕方がない。何があったのか訊いてみる。
「どうにかして下さい。コレ!!」
そう言って、涙目で自室を見ろと示した。
なんだなんだと莉奈は歩みより、部屋を見た。
そこには、白い鱗を持った美しい竜が身体を丸めて寝ていた。
「おかえりなさい?」
あっ、戻って来られたんですね。
そうなのだ。そこには、ついこの間フェリクス王に何処かに飛ばされた真珠姫がいたのである。
だから、碧ちゃんは怒っていたのか。
「何を言っているのですか!? リナ!!」
怒ってくれと莉奈を呼んだのに、何故挨拶をするのだと碧ちゃんが目を見開いていた。
「いや、真珠姫……この間、陛下になんか闇? 時空? みたいな所に吸い込まれてたから」
「あぁ……じゃない! だから何なのですか? 私の部屋を占拠する理由にはなりません! 早く出て下さい!!」
碧ちゃんは真珠姫の状況に、一瞬憐んだ様子を見せたが、ソレとコレは関係がないと怒りをぶり返していた。
当の本竜はチラッとコチラを見た後、寝たフリをして見せた。
「真珠姫? なんで碧ちゃんの部屋にいるのですかね?」
「落ち着くのですよ」
「いやいやいや? 落ち着くじゃなくて自分の部屋があるじゃん!」
そんな理由で碧ちゃんの部屋を取らないでよ。
「…………」
「無視すんな。陛下を呼びますよ?」
可哀想だけど脅してみる。
「だって……」
脅したら真珠姫は涙目で訴えてきた。
真珠姫の話によれば、フェリクス王にやっと解放してもらえ、ヘロヘロになって帰って来たら、部屋が誰かにより改装されていた。
碧空の君や、からあげの様な部屋なら泣いて喜んだのに、違っていた。
見間違いかと何度も見たが、自分の部屋だった。
あんな部屋には住みたくないと、1番気に入っている碧ちゃんの部屋に居座る事にしたらしい。
とんだワガママ娘ですな。
「ヒド過ぎる」
碧ちゃんは莉奈に縋っていた。
碧ちゃんは悪くない。
だけど、真珠姫の気持ちも分からなくはなかった。
「真珠姫。アレ、誰が改装したんですか?」
まぁ、真珠姫の部屋なのだから、あの方しかいないとは思うけど。
さっき目の端に見えたのは、やっぱり真珠姫の部屋だったのだ。あまりの装飾に驚いて碧ちゃんに見つかった訳だけど、そもそもアレがなければ、こうならなかった訳でなんともはや。
「……優雅なアホ」
「…………」
莉奈はなんとも言えない表情をしていた。
だって、優雅なアホで誰か分かるなんて、複雑過ぎるでしょう。
ゴメンなさいシュゼル皇子。




